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冷静なニューヨーカーも買い出しに走る新型コロナの非常事態 - 田村明子 (ジャーナリスト)

ついに来るべきものが来た。

3月12日、ニューヨークのメトロポリタン美術館、自然史博物館、カーネギーホール、メトロポリタンオペラハウスなどの主要文化施設が、新型コロナウイルスの感染拡大防止を考慮して一時的に閉鎖することを発表した。

その数時間後にはニューヨーク州のクオモ知事は、500人以上が集まるイベント禁止令を出し、ついにブロードウェイ劇場も全面的にシャットダウンという事態になった。一時的な処置ではあるが、これがいつまで続けられるのか現在のところ見通しはたっていない。

ニューヨークのスーパーには、大勢が家にこもるために買い出しに来ていた(筆者撮影、以下同)

最初の感染者は近郊に住む弁護士

ニューヨークで最初の感染者が発覚したのは、わずか10日前の3月3日のことだった。

感染者はマンハッタンで働く50歳の男性で、郊外のウェストチェスター郡にあるニューロシェルから、電車でおよそ1時間のグランドセントラル駅まで通勤していたという。ユダヤ系アメリカ人で弁護士だった彼はミッドタウンの法律事務所に勤務して、症状が現れる前にはユダヤ教寺院に礼拝に参列していたことなども発覚。本人の行動範囲の足取りをたどって、立ち寄った施設等の消毒、接した同僚などの検査が行われた。

ニューヨーク州とニューヨーク市政府は最初から感染者の身元を明確にして、当初は実名こそ出さなかったものの、勤務先名と法律事務所の住所を公表。ニュースメディアを通して接触のあった可能性のある人々に注意を促し、感染者の子供たちが通っていた学校を一時閉鎖するなど、現実的で迅速な対応をとった。日本では考えられない対応だが、後に感染者とその家族はソーシャルメディアを通してサポートに対する感謝のメッセージを発信するなど、理不尽なバッシングなどの対象にはならなかったことが見て取れる。

ニューヨーク州と市の緊急事態宣言

州内の感染者が89人に達した3月9日、アンドリュー・クオモ・ニューヨーク州知事は緊急事態を宣言。感染の拡大を防ぐことを州の最優先事項にして、必要な消毒剤の入手、人員の雇用などのプロセスをスピード化して対応にあたってきた。

特に感染者が100人を超えたウェストチェスター郡、ニューロシェルの新型コロナウイルスを封じ込めるため、3月12日から3月25日までの2週間、ニューロシェルの半径1マイル以内にある学校、礼拝所、その他の大規模な集会施設を消毒するために閉鎖。また同地域を支援するために、州兵をニューロシェルの保健局の司令部に派遣し、食料を家に届け公共スペースの消毒を支援することなどの声明を発表した。

加えて3月12日に、ニューヨークのビル・デブラシオ市長がニューヨーク市の緊急事態宣言を行い、レストランやバーに許される収容最大人数を通常の50%までに下げた。

12日までにニューヨーク州内で判明した感染者は216人。そのうちニューヨーク市の感染者は95人と発表されている。おそらくこの数字は、氷山の一角にすぎないのだろう。

州知事、市長ともに精いっぱいの対応をしていることは市民たちにも伝わってきて、行政に対する不満の声はほとんど聞こえてこない。

食料品の買い出しに走る人々

3月11日にはトランプ大統領が、欧州からの渡航者を30日間禁止すると宣言。いよいよ緊急事態の緊迫感が高まりつつある。

筆者が予定していた取材の出張もキャンセルになり、とりあえず自宅にこもるための食料を買い出しに近くのスーパーマーケットへと立ち寄った。

平日の昼過ぎなので空いているだろうと思っていった自分の甘さを思い知った。現在は大手企業の多くが在宅勤務を奨励していて、昼間から大勢の人々がスーパーに買い出しに押し寄せてきていたのである。

ほとんどの商品が買われガラガラになった商品棚

また食料品棚の在庫の薄さを見て、再び仰天した。パスタ、パスタソース、穀類など、保存のきくものの棚はガラガラである。人々はカートを山盛りにして買っていく。除菌ジェル(ハンドサニタイザー)は売り切れ。液体せっけん、ティッシュペーパー、トイレットペーパー類も、かなり在庫の種類が限られていた。

その一方で、ビールなどの嗜好品、保存のきかない肉、魚介類、青果類などはそれほど影響がないようだった。レジは長蛇の列になっていたが、それでもこうして買い出しをする自分たちをジョークにしながら和気あいあいと並んでいるのは、どんなときでもユーモアのセンスを忘れないニューヨーカーの心意気だと思う。

帰宅してから筆者がたまに利用する食料宅配サービスの状況を調べてみると、通常はオンラインオーダーの翌日に配達されるのに、現在ではおよそ3、4日待ちになっていた。

これからどのような事態になるのか先が見えないままに、ニューヨーカーたちも自宅ごもりの準備を着々とはじめているのだ。

ニューヨーカーは、比較的非常事態に強い。2001年の同時多発テロを生き延び、2012年にマンハッタンの半分が停電したハリケーン・サンディも経験してきた。それでも人々はどうにか助け合い、大きな暴動も起きずにやり過ごしてきた。この街の強さの理由の一つは、他民族が集まっているため、一つの価値観に囚われて暴走することがないことだと思う。

だが今回の新型コロナウイルスの気持ち悪さは、いつ終結するのか見通しがまったくたたないこと。そして今後社会的にどのような状況が起きるのか、予測がつかないところだ。

メトロポリタン美術館も、カーネギーホールもブロードウェイもないニューヨーク。レストランもバーもガラガラである。このシュールな現実は、一体いつまで続くのだろうか。

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