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拭えない疑問点(新型インフルエンザ等対策特別措置法改正案)

【最初にちょっとだけ告知】 日米通商交渉に関する本を書きました。題は「国益ゲーム」です。4月1日発売です。本の説明及び序章については、このサイトで見られるようになっています。色々な意味で、他の通商関係の本とはかなり違うと思います。

 さて、新型インフルエンザ対策等特別措置法改正案が国会を通りました。この法律については、幾つか課題があったように思います。

 まず、そもそも急いで通す必要があったのかという根源的な問題があります。新型インフルエンザ等対策特別措置法に書いてある事は、実はもう既にやっている事が多いです。追加的にやれるもの(土地の接収等)は、そもそも現時点で全く検討する可能性が無いものが多いです。西村大臣は「伝家の宝刀」と言っていましたが、その意味する所はよく分かりませんでした。

 そして、今回のCOVID-19が、新型インフルエンザ対策等特別措置法の適用対象となる「新感染症」に当てはまるのかどうか、という議論も曖昧なまま放置されたままです。政府は「COVID-19は未知のウイルスではないので、同法の対象にはならない。」と言っていましたが、そもそも、「新感染症」の定義に「既知か、未知か」なんて事は書いてありません。

 今回の法律は、COVID-19についてのみ新型インフルエンザ等対策特別措置法を適用するために附則改正を行っているだけです。法律本則には一切手を触れていません。将来、(あってはならない事ですが)エボラ出血熱類似のウイルスが流行したらどうするのだろう。「既知」のウイルスですから、今回の理屈で言うとそんな時にまた法改正するのか、あのおぞましいウイルスが流行した時にそんな時間を掛けているヒマは無いんじゃないか、そんな事を思います。私は将来の事も考えると、附則で付焼刃的に法の適用をするのではなく、本則での対象感染症の定義をきちんと見直した方が良かったと思います。

 そのような法律であるにもかかわらず、各報道で「新型コロナ対策措置法成立」としている事にも疑問を持ちました。そんな名前の法律はありません。「新型インフルエンザ等対策特別措置法の一部を改正する法律」が、何故「新型コロナ対策措置法」になるのでしょうか。この呼称自体が「既存の法律の適用ではなく、政権として対策をしっかりやっているのだ。」という宣伝ツールに見えたりします。「新型コロナ対策措置法」と呼びたいのであれば、(附則ではなく本則の)法律の対象にCOVID-19や類似の感染症を位置付ける所までやっていなければおかしいでしょう。各メディアとも、それなりに忖度した事があるのでしょうかね。

 そして、大きな課題としては「国会承認」の有無です。私は「事後」でいいので、承認手続きを入れた方が良かったと思います。特に対象を拡大するのですから、それとの見合いで国会の目線を入れるというのは一つのバランスのとり方でしょう。「国会承認を盛り込んでもどうせ与党多数で承認されるだけ」という議論が野党内であったそうです。それは当たり前の事です。しかし、だからといって、手続きとして入れる意味を否定するのなら、例えば、もう国会同意人事の仕組みは要らないでしょう。予算も、法律も、条約もすべて提出→即採決でOKです。

 国会に居ると分かるのですが、「どうせ成立する議案」でもやはり多くの国会議員から賛成が欲しいと与党も役所も思うのです。そのために多くの努力をします。そこに民主主義があります。そして、「事後」承認であろうとも、議案を提出する側には緊張感が出ます。最後は国権の最高機関にハンコを押してもらう重みは、いつ何時も大事にしたいです。

 私の意見を纏めると、「将来の事も見据えて、新型インフルエンザ等対策特別措置法の対象となる感染症の定義をきちんと改正しておくべきだった。」というのとセットで、「事後で良いので国会承認を入れておくべきだった。」というものです。

 ただ、今回は附帯決議で「事前報告」を確保した事が成果のようです。事前報告というのは、あまり国会や霞ヶ関で聞かない表現です。よく考えてみると、法令上の効果としては「事前に教えてはあげるけど、意見は言わせないよ。」という事になるはずです。国会は言論の府のはずですが、言論を戦わせる対象にはしないという事です。結果として、仮に報告内容に納得しない場合、「何処か外で遠吠えしてろ」という事になります。この「事前報告」、実は野党はかなりバカにされているんじゃないですかね。

 今回の法案プロセスを見ていて明らかなのは、「出口(採決日)を与野党で合意してしまうと、要望をする野党側が圧倒的に弱い。」という事です。何でもそうなのです。課題を残したままにもかかわらず、出口を決めてしまうと、政治プロセス論としては要望事項のある方が弱いのです。

 冒頭で紹介した本に詳しく書きましたが、例えば、アメリカ側の自動車の関税撤廃について何の合意もないのに、2019年9月の日米首脳会談で日米貿易協定を妥結するとしてしまったため、その後の交渉でどんどん日本が追い込まれたというのは一例でしょう。また、国会の予算審議では、3月2日までに衆議院で予算の採決をすれば、憲法上の規定により、新年度が始まる前の3月中には必ず予算成立が確約されます。そうなってしまうと、参議院の審議での政権側の誠実さが明確に下がります。

今、森法相の変な答弁ネタが盛り上がって審議が止まったりしていますが、政権側は「審議が止まっても予算は通るもんね。」と思っているはずです(むしろ、止まってくれた方が審議が無くていいとすら思っているかもしれません。)。逆に年度内成立が確約されないと、政権側は審議の滞りに肝を冷やすので自ずと低姿勢になります。これらの例と同じでして、今回はかなり早い段階で採決日(3月13日までに参議院で採決・成立)を決めてしまったので、野党側が何を要望しようとも押し切れなかったのです。

 実は今日はフランスの例を取り上げつつ「緊急事態のあり方」をお題に考えていて、導入で新型インフルエンザ等対策特別措置法改正について書き始めたつもりでしたが、ここまでで十分に長くなりました。「緊急事態」の話は稿を改めます。

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