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コロナ恐慌 日本は「戦時下の非常時」を疑似体験している

株価も大幅に下落(時事通信フォト)

 ウイルスがもたらす混乱は「恐慌」へと至りつつある。コラムニストの石原壮一郎氏が考察した。

 * * *

 どこまで行けば収束するのか、まったくわからなくなってきました。新型コロナウイルスは世界中で猛威をふるい、社会も経済も大混乱に陥っています。東京オリンピックパラリンピックの開催も、危うい状況になってきました。私たちひとりひとりも、メディアやSNSに飛び交う情報に振り回されて、ある種の興奮状態にあると言えるでしょう。不安を紛らわせたいのか、ネット上には怒る理由や叩く対象を探しまくっている人が、いつも以上にたくさん湧き出ています。

 批判は大事ですけど、罵倒や揚げ足取りに精を出したところで不安は解消されません。自分にできることを粛々とやって、何はさておき気持ちを落ち着かせましょう。興奮の渦に巻き込まれないために有効なのが、今の状況を俯瞰した目で見てみること。

「そんなノンキなこと言ってる場合か!」という声が飛んできそうなのは重々承知の上で、新型コロナウイルスをきっかけに、私たちが貴重な「疑似体験」をしていることに着目してみましょう。話には聞いていても、今まではあまりピンと来ていなかった感覚の一部をリアルに味わえています。

 図らずも実感できているのは、太平洋戦争中の日本を覆っていたという「非常時」の空気。当時、国がさかんに唱えていたスローガン、じゃなくて標語には、今の日本の状況に何となく当てはまるものがたくさんあります。たとえばこのあたり。

「ぜいたくは敵だ!」

「欲しがりません勝つまでは」

「パーマネントはやめませう」

「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」

「見えざる敵を防げ」

「権利は捨てても義務は捨てるな」

「鬼畜米英」

「神州不滅」

 もちろん、戦争とウイルスとの戦いをいっしょにするのは無理があります。しかし、追い詰められた状況になった「非常時」に、国が何を言い出すか、社会がどんな雰囲気になるかは、どうやら共通する部分が多々あります。

 戦時中は各町内で「隣組」が組織されて、日常生活における協力体制を作るとともに、相互監視の機能を果たしました。政治体制に協力的ではない人を吊し上げたり、「危険思想」を持っているとされる人を警察にチクったりしたとか。国防婦人会が「正義」を振りかざして、隣人のアラ探しに精を出していたこともよく知られています。

「この非常時に!」と隣人に罵声を浴びせかけた人たちのほとんどは、国の方針に従って嫌々やっていたわけではありません。本人は使命感を抱きつつ「よかれと思って」やっていただろうし、ある種の気持ちよさもあったでしょう。いや、責めたいわけではなく、人間はそういう性質がある生き物だということ。

 マスクをしていない人が露骨に白い眼を向けられたり、検討に検討を重ねてイベントの開催を決めたところに抗議が殺到したり、予防効果云々より批判が怖くて「とにかく自粛」という動きが広まってたり……。そんな今の状況は「なるほど、戦時中もこういう雰囲気だったんだろうな」と、貴重な感覚を覚えさせてくれます。

 春の選抜高校野球大会も中止が決定しました。一世一代の晴れ舞台に立つチャンスが消滅した高校球児たちのショックやいかばかりか。しかし、指導者も含めて、伝わってくるのは前向きでケナゲなコメントばかりです。もし何かの拍子にポロッと漏れたネガティブな本音が報じられたら、たちまち世間様の総攻撃を受けるでしょう。

 戦時中、出征していく若者は胸を張って「お国のために立派に散ってきます」と言ったそうです。送り出す母親も「立派に死んでこい」と言って、戦死したら「こんな名誉なことはない」と喜ぶのが“当たり前”でした。「本心」とは何なのかは難しい問題ですが、似た構図に見えるのは気のせいでしょうか。

「小人閑居して不全をなす」ということわざがあります。どうしようもないヤツは、ヒマになるとロクなことをしないという意味。新型コロナの影響で仕事の予定が飛んだり飲む機会が減ったりすると、こういう余計なことを考えてしまうようです。

 春なのに重々しい日々が続きますが、もしよかったら「今、自分は貴重な疑似体験をしている」と思うことで、次々に起きる不愉快な出来事を呆れた目で見たり、予想外の展開のショックをやわらげたりしてみてください。いや、この疑似体験が何の役に立つのかはよくわかりませんけど。

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