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「意識高い」だけでは世界の半分が見えなくなる罠がある

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「サブカル評論家」と名乗ってきた宇野常寛さんは、これまでアニメや特撮といったサブカルチャーの作品を通じて社会を論じてきた。しかし新著『遅いインターネット』(幻冬舎=NewsPicks Book)では、政治や経済の話題を正面から論じている。なぜ書き方を変えたのか。本人に聞いた——。(後編/全2回)

社会に対するマニフェストのような本が必要だと考えていた

『リトル・ピープルの時代』(幻冬舎文庫)
宇野常寛『リトル・ピープルの時代』(幻冬舎文庫)

——宇野さんのこれまでの著作は、アニメや特撮といったサブカルチャーの作品を通じて社会を論じていました。しかし今回の著書『遅いインターネット』(幻冬舎)では、そうした固有名詞はほとんど出てきません。政治や経済の話題を正面から論じる、という書き方になったのはなぜでしょうか。

サブカルチャーの固有名詞を出さずに一冊の本を書くことは、どこかで一度やらなくてはいけないだろうと思っていました。もちろん『リトル・ピープルの時代』(幻冬舎文庫)や『母性のディストピア』(ハヤカワ文庫JA)といった著作は僕の代表作だし、この先も何らかの形でサブカルチャーの批評は書くと思います。

『母性のディストピア』(ハヤカワ文庫JA)
『母性のディストピア』(ハヤカワ文庫JA)

しかしそうしたサブカルチャー評論で培った理論や世界観をシンプルにまとめた、社会に対するマニフェストのような本が必要だと考えていたんです。「遅いインターネット」という活動を始めたことで、それが具体的になったという順番です。

——この本は幻冬舎とNewsPicksが共同で刊行する「NewsPicks Book」というレーベルから出ていますね。レーベルの編集長はヒットメーカーとして知られる幻冬舎の箕輪厚介さんです。箕輪さんからはどんな提案があったのですか。

最初は「一緒に何かやろうよ」くらいの感じでした。それで広く社会に訴える、自分の今後のマニフェストのような本を出すなら、自分とタイプの違う編集者と組んだほうがいいんじゃないかと思ったのが依頼を受けた理由のひとつです。ただ、箕輪さんからは「宇野さんとやるなら、NewsPicks Book的なものを内側から壊すようなものがやりたい」とも初期から言われてはいましたね。

「NewsPicks Book」からこの本を出すことに意味がある

宇野常寛『遅いインターネット』(幻冬舎)
宇野常寛『遅いインターネット』(幻冬舎)

だからもうひとつ理由を挙げると僕も彼もこのタイミングで、いわゆる「意識高い系」の読者たちにちょっと意地悪、というか問題提起をしたかったんですよ。箕輪さんは自分でも言う通り「速い」インターネットの人で、僕とは正反対のタイプです。だから、彼についている読者も「速い」インターネットが好きな人たちで、抽象的な理論や精緻な分析を読むことに慣れていない。明日から役に立つこととか、やる気が出る言葉を求めている。

僕は彼らの前向きなところとか、人の悪口を言わないところが大好きなのだけど、だからこそもうちょっと抽象的な思考も身につけてもらえたらと思っているわけです。僕らは村上春樹のベストセラーと名もなき新人作家の数千部も印刷されない処女作を同じ小説として同等と扱う。しかし目が「$マーク」になっているくせに自分のことを頭がいいと勘違いしているエコノミック・アニマルは、経済規模が違うこの2つの小説はまったく別物に見えてしまい、比較することができない。テキストの内実ではなく、それについた値段しか見えない。しかしその思考では確実に世界の半分が見えなくなってしまう。歴史的に考えれば自明なことが、共有されない世の中になっている。だから、「NewsPicks Book」からこの本を出すことに意味があるなと思ったんです。

ただ、僕が今話したようなことは箕輪さんも他の「NewsPicks Book」の著者たちも持っている共通認識だと思います。そこに一石を投じたい気持ちは箕輪さんにもある。だから彼自身も「NewsPicks Bookの第1章は宇野さんの本で終わらせる」と言っています。

僕としては逆に文化系の「よくわからないけれど、なんとなく資本主義と情報技術はダメなもの」と捉えていて、いわゆる意識高い系が目立っているとツバを吐きたくなる人たちにも「他人をひがんでばかりいないで、ちゃんと変化を受け止めて考えようぜ」って言いたい気持ちもあって書いた本なんですけどね。

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