記事

専門医は軒並み反対なのに……「希望者全員にPCR検査を」と煽るのはなぜ間違いか? 「感染症に詳しい」医師と、「感染症専門医」はまったく違います - 鳥集 徹

1/2

 新型コロナウイルス(COVID-19)のPCR検査を「軽症でも早期から希望者全員が受けられるように拡充すべき」か、それとも「重症化の恐れがあるなど必要と考えられる人に限って行うべき」かで、議論が分かれています。

 とくに、前者の「希望者全員が受けられるようにすべき」という意見は、テレビのワイドショーなどで「感染症に詳しい」という一部の医師らの主張に乗って、繰り返し展開されてきました。「重症化させないためには早期発見・早期治療が必要」「新型コロナが心配で受診した人の不安を払拭することが大切」というのが主な理由です。

医師の間でも真っ二つに分かれる意見

 1日5000件以上も検査をしている韓国に比べ検査数が増えないのは、「政府が感染者を少なく見せかけるために抑えているからだ」「感染研(国立感染症研究所)がデータを掌握しようとPCR検査の拡充を妨害している」という“陰謀論”まで飛び出しました。それに野党や野党支持者が乗っかり、安倍政権批判にも利用しているように見受けられました。


「新型コロナウイルスに不安のある方々に、簡易PCR検査の機会を無償で提供したい。まずは100万人分」とツイートし、話題になった孫正義氏 ©AFLO

 一方、こうしたテレビでの報道に対し、SNS等では別の医師らから懸念や批判が噴出しました。「PCR検査は正確ではなく、陰性と出ても感染していることがある。『陰性だから安心』と誤解されると、その人が感染を広げてしまう危険性がある」「軽症者が病院に殺到したら人手や病室が奪われ、重病者の治療に集中できなくなる」などが主な理由です。

 このように、PCR検査をめぐって、意見が真っ二つに割れています。いったい、私たちはどちらを信じたらいいでしょう。

第一に信じるべきは「感染症専門医」

 私は20年以上にわたって医療現場を取材し続け、全国の何千人という医師に会ってきました。その経験から断言すると、今は、第一に「感染症専門医」の話を信じるべきだと思います。

 テレビでよく肩書に添えられる「感染症に詳しい」医師と、「感染症専門医」はまったく違います。「感染症に詳しい」という肩書は、「自称」に過ぎません。一方、感染症専門医は日本感染症学会が認定する「資格」です。

 具体的には、感染症学の研修を6年以上(うち3年間は日本感染症学会が指定した研修施設で定められたカリキュラムに基づく研修)を受けたうえで、感染症の臨床に関する論文発表や学会報告を行い、さらに学会の試験に合格することで、感染症専門医に認定されるとあります(日本感染症学会「専門医制度規則・細則」)。

 つまり、感染症専門医は6年以上にわたって、感染症の診断や治療に特化したトレーニングを受け、試験に合格した感染症のプロフェッショナルなのです。

 確かに、インフルエンザや嘔吐下痢症(ノロウイルスやロタウイルスによるウイルス性胃腸炎)など感染症は日常的な病気ですから、どんな医師も感染症に詳しくなければいけません。だとしても、血液内科医や産婦人科医など他科のプロフェッショナルが、感染症専門医以上に感染症の診断や治療に詳しく、感染症の臨床経験が豊富とは言えないのではないでしょうか(日本感染症学会「感染症専門医の医師像・適正数について」)。

彼らはPCR検査についてどう考えているのか?

 その感染症専門医がPCRについて、どう発信しているでしょうか。私が見聞する限り、「軽症でも早期から希望者全員が受けられるように拡充すべき」と主張している感染症専門医は一人もいません。実際に新型コロナウイルス患者の治療に当たっている感染症専門医も含めほとんどが、「重症化の恐れがあるなど必要と考えられる人に限って行うべき」と発信していると思います。

 たとえば、PCR検査について感染症専門医が発信している記事には、次のようなものがあります。

「感染症内科医が伝えたい新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の検査について」(MEDLEY 2020年2月28日)筆者・県立静岡がんセンター感染症内科、伊東直哉医師

「追い詰められる医療現場 新型コロナ治療最前線医師に聞く、医療崩壊を防ぐポイント」(論座 2020年2月29日)回答者・国立国際医療研究センター国際感染症センター長、大曲貴夫医師)

「新型コロナのPCR検査、誰でも受けられるようになるの? 検査の疑問に感染症医が答えます」(琉球新報2020年3月6日)回答者・沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科、高山義浩医師 

「今日から新型コロナPCR検査が保険適用に PCRの限界を知っておこう」(Yahoo! Japanニュース 2020年3月6日)筆者・国立国際医療研究センター国際感染症センター、忽那賢志医師 

クルーズ船に乗り込んだ岩田氏も感染症専門医

 YouTubeによるセンセーショナルな告発で一般の人にも有名になった感染症専門医(神戸大学教授)の岩田健太郎医師も、次のように述べています(エキセントリックな言動をした岩田先生のおかげで、「感染症専門医は信頼できない」と思ってしまった人も多いと思いますが……)。

「PCR検査は新型コロナ感染の『陰性証明』になるのか」(時事メディカル2020年3月6日)

 これらにじっくり目を通していただければわかる通り、感染症専門医は押しなべて「やみくもに検査を拡充すべきでない」という意見です。また、感染症専門医だけでなく、EBM(科学的根拠に基づく医療)に精通している臨床医の多くも、SNSなどで安易な検査拡大を諫める見解を発信しています。

 3月7日、広島では37.0度の発熱で医療機関を受診し、薬をもらったのに回復せず、ようやく8回目の受診で検査してもらえて、陽性だと判明したというニュースがありました。こうしたケースを聞くと、なかなか検査を受けさせてもらえないことに、多くの人が不安になったり怒りを覚えたりするのは当然だと思います(「新型コロナ、広島で初の感染確認 安佐南区の30代男性、4医療機関計8回受診」中国新聞デジタル 2020年3月7日)。

 ですが、必要と考えられる人に検査ができていなかったという問題と、軽症でも全員に検査をすべきかどうかというのは、別の問題です。

あわせて読みたい

「新型コロナウイルス」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    アビガン承認煽る声に医師が苦言

    中村ゆきつぐ

  2. 2

    賭け麻雀苦言の労連トップが朝日

    和田政宗

  3. 3

    外国人選手が逮捕 試合なく薬物

    阿曽山大噴火

  4. 4

    慰安婦団体 真の目的は日韓分断

    NEXT MEDIA "Japan In-depth"

  5. 5

    安倍首相の言葉と行動大きく乖離

    畠山和也

  6. 6

    森法相の迷走 元凶は安倍首相

    猪野 亨

  7. 7

    布マスクは金の無駄 飛沫防げず

    諌山裕

  8. 8

    森法相の国会答弁ねじ曲げに呆れ

    大串博志

  9. 9

    羽田で4人感染 ブラジルから到着

    ABEMA TIMES

  10. 10

    誹謗中傷の規制急ぐ政治家を危惧

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。