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人口減少でこの国が縮み始めている現実を私たちは直視できていない - 「賢人論。」第111回(中編)中島岳志氏


2016年7月に発生した「相模原障害者施設殺傷事件」は、日本社会に広がる「不寛容」な空気と無関係ではないと中島氏は指摘する。なぜ、この国は自己責任論や障がい者・LGBTなどマイノリティへの暴言がまかり通る国に変わってしまったのか──日本社会のターニングポイントを中島氏に伺った。

取材・文/木村光一 撮影/公家勇人

「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた時代をひきずり続ける日本社会

みんなの介護 インターネットの書き込みを読むと、必ずといっていいほど特定の個人や団体に対する誹謗中傷が目に入り荒んだ気分になります。最近のこういった「不寛容」とされる傾向についてはどのように思われていますか?

中島 SNSでの炎上やネット右翼の問題ですね。最近、それについては社会学者たちの調査が進み、ようやく実体が見えてきたところです。中心は30代から50代の男性。比較的高学歴・高収入の40代が中心だといわれています。

みんなの介護 意外です。もっと若い層なのかと思っていました。

中島 今の若者はバブル以前の好景気の時代を知りませんから、そもそも日本はこんなものだと思っている。したがって、その意味ではたいして不満を持っておらず、現状がこれよりも悪くならないようにしてほしいという心性を示します。これは右傾化とは異なります。

みんなの介護 なるほど。しかし、分別のある40代・50代の男性が、なぜ、あれほどまでヒステリックに他者を攻撃するのでしょう? 若者に比べればずっと豊かで生活への不満も少ないはずなのに。

中島 今は会社員として高収入を得られていても、局面が変わればそれもどうなるかわからない。しかも、一度落ちてしまったら二度と浮き上がれないかもしれない。彼らはそういった不安に苛まれているようなんです。

それに加え、たとえば中国や韓国をバッシングしている人たちは、日本はこれまでずっとアジア諸国の中で最上位に立っていると思ってきた。

「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた時代の感覚をひきずっているため「日本のGDPが中国に抜かれた」とか「半導体シェアは韓国が世界一」とか聞くと、まるで自分の人生を否定されたような感覚に陥って怒りを覚えてしまう。現実を認めたくないんですよ。

今、私たち日本人は、史上はじめて人口減少という局面に直面しています

みんなの介護 中島先生はこうした右傾化現象と人口問題が関係しているとお話しされていますが、それはどういうことでしょうか?

中島 1980年代から傾向は顕在化しつつありましたが、戦後50年を迎えた1995年あたりがターニングポイントと考えられます。この時期に右肩上がりの経済成長を前提にして築いてきた日本の社会が違う局面に入った。

みんなの介護 違う局面といいますと?

中島 今、私たち日本人は、史上はじめての局面に直面しています。つまり、人口の減少です。

江戸時代の日本の人口は約3000万人。それを思えば明治以降に増加した人口がどれだけ膨大であったかおわかりになるでしょう。人口が増えれば消費者も増えて経済が拡大する。100数十年、そんな右肩上がりの経済成長期が日本人にとってずっと当たり前だった。そのプラス成長が完全に止まり、ゼロ成長時代に突入した。

場合によってはマイナス成長という局面もあり、成長したとしてもかつてのような右肩上がりの時代にはならない。景気による微増程度です。

この国が縮み始めたというショッキングな出来事を、いまだに政府も国民もきちんと直視できず戸惑っている。それが平成以降の私たちの姿なんです。


田中角栄の「バラマキ」がセーフティネットの役割を果たしていた

みんなの介護 現在のような急速な人口減少は予測できなかったのでしょうか?

中島 日本の少子高齢化は、すでに70年代に予測されており、それは政府も織り込み済みでした。少子高齢化に対応すべく、高度成長期につくられたシステムの見直しを図ろうという動きもありました。

そもそもは「55年体制」(注/自民党が1955年から長期にわたって政権につき、政権交代が行われなかった時期)によって汚職が続発して政治への信頼が大きく揺らぎ、このままではいけないという危機感が自民党内に生じたのがきっかけでした。

当時の自民党は、経済成長を背景に絶大な権力を行使して高所得者や大企業から高い税を徴収し、それを社会的弱者──低所得者、失業者、障がい者などへ「再分配」する政策を取っていました。

意外に思われるかもしれませんが、保守の自民党は長い間、再配分重視の政治を行なっていたんです。

みんなの介護 「バラマキ」は保守ではなく左派の政治手法だと思っていました。

中島 そして、その典型的な政治家が田中角栄でした。自分の地元に新幹線を引き、工場を誘致し、業界団体にどんどんお金を下ろすというあのやり方も、結果として地方の雇用安定につながり、事実上、セーフティネットの役割を果たしてたんです。

とはいえ、手段を選ばない賄賂や裏金が横行するような政治は決して許されません。田中政治の本質は、業界団体や村落のヒエラルキーー構造を利用した「不透明な再配分」です。そういった不公正なかたちでの再配分にメスを入れようとしたのが政治改革だったのですが、うまくいきませんでした。

そうこうしているうちにバブル経済が崩壊し、一気に日本経済がどん底に突き落とされ、経済成長とともにあった自民党は求心力を失いました。そして1993年の細川護熙政権の成立をもって55年体制は終焉を迎えたわけです。

「個人の境遇」はこれまでの行動の結果なのだから自己責任?

中島 本来、政治改革の目的は再配分に透明性を持たせることと、人口減少と税収減に備えることにありました。

ところが、それが遅々として進まなかったため、従来の自民党政治を全否定するような流れが加速。それが「新自由主義」の台頭でした。

新自由主義というのは政府による市場への介入を極力減らし、市場原理に基づく自由競争によって経済成長を促すという考え方。国家主導のもとに経済活動を目指す「大きな政府」に対し、こちらは「小さな政府」と呼ばれます。

具体的には公務員数の削減や政府予算の規模縮小を行い、規制を緩和して民間にできることは民間へ移管。それによって国民の税負担なども少なくて済むというメリットもあります。

これを強力に推進したのが2001年に発足し、長期政権となった小泉内閣でした。

みんなの介護 理念を聞く限り、新自由主義は正論だという気がします。実際、小泉首相は非常に人気もありました。何か問題があったのでしょうか?

中島 さきほど、自民党による「再分配」の話をしましたが、田中角栄の是非はともかく、高所得者や大企業から高い税を徴収し、それを低所得者、失業者、障がい者といった社会的に弱い立場の人たちのために使うという「富の再分配」は国家の本来的な役割のひとつでした。

ところが、新自由主義の考えでは高齢者の貧困や格差などの「個人の境遇」は、これまでの行動の結果であり自己責任。したがって政府に救済措置や補助を求めるべきではないとなってしまう。

みんなの介護 「自己責任論」ですね。

中島 はい。市場の自由競争にしても、規制を撤廃すれば大資本の圧倒的有利は動きません。結果、裕福な者はより裕福になり、社会的弱者との格差は拡大してしまう。小泉内閣で行われた「労働者派遣法」の規制緩和も、非正規労働者の立場をさらに厳しいものにしました。

つまり、小泉内閣の頃、従来は社会全体で互いに持ち合ってきたリスクを「自己責任」の名のもとに個人が負うことになり、それができない弱者は「福祉を食いものにしている」との批判を受けるようになった。

そして約20年が経過するうち、その考え方が国民の間に定着してしまったんです。

「相模原障害者施設殺傷事件」の植松被告の歪んだ発想や「LGBTの人たちは生産性がない」という杉田水脈氏の発言も、言うまでもなく、あの時代の極端な政策に端を発していると私は考えています。

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