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「津波後は旅の者に満たされる」 ―― 大文字の復興と小文字の復興 宮本匠

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画像を見るわたしはこれまで、2004年の新潟県中越地震によって被災した山間集落の復興支援に関わりながら、被災者自身による内発的な災害復興がどのように可能なのか、そこで外部支援者にどのような役割が果たせるのかを研究してきた。


「被災すること」は、ひとりひとりの被災者によって、またひとつひとつの被災地によって多様であるから、その復興もまた多様である。現代社会は、社会全体で積極的な理想や夢を共有することが困難な時代だから、一層のこと、多元的な復興プロセスが求められることになる。また、災害による被害は、既存の社会課題を増幅させたかたちで現れるから、被災後に被災者が直面する復興の課題は、一朝一夕には解決することができない長い道のりとなる。

そこで、まずは被災者自身が自分たちの暮らしや地域のあり方を省みて、主体的に自らの課題を認識したり、それを乗り越えていくための自分自身がもつ潜在的な可能性に目覚めるような地道な取り組みが大切になってくる。そうした復興に被災者自身が関わることは、悲惨な経験からの回復の機会にもなり得る。しかし、ひとたび災害が起きれば、被災者・被災地は、時間的な制約のもとであらかじめ決められた選択肢の中からさまざまな決断を迫られることになり、そこに時間をかけてじっくりと自らの暮らしを省みたり、将来についてさまざまな意見を交わしたりする余裕はない。一方で、被災地の外では、復興についてさまざまな議論が被災地に向けてなげかけられる。もちろんさまざまな人が智恵をもちよって復興の議論をすることは重要なことである。しかし、そこに肝心の被災者の声が欠けているように思うことも少なくない。

「復興は急務の課題」であることに間違いはないのだろうが、このように被災者の声や十分な関わりを欠いたまま進められる復興に問題はないのだろうか。巨大津波に何度も襲われながらも、海の近くにふたたび暮らしを形成してきた被災地の復興を本当によりよいものにするために、それはふさわしい方法といえるのだろうか。

本稿では、以上のような問題関心をもとに、わたしが東日本大震災の被災地である気仙沼市唐桑半島で出会った被災者の方の言葉を通して、東日本大震災における内発的な復興と、そこでの外部者の役割を考えたい。

「津波後は旅の者に満たされる」

「津波後は旅の者に満たされる」

これは、三陸地方に伝わる言葉だという。この地方は、これまで何度も巨大津波による被害に襲われてきた。集落全体、家族が全員命を落とすこともあった。そんなときは、養子に出ていた娘が戻ってきたり、ときにはその家とまったく血縁のない他人同士の男女が夫婦となって家を継ぐこともあったのだという。三陸地域の文化は、これらの津波後の「旅の者」の移入によって撹拌されながら形成されたのだ。しかし、かつて家の存続が切実な問題であった時代と比して、家意識が希薄になった現代においても、こうした被災地外からやってくる「旅の者」が果たす役割はあるのだろうか。

「津波後は旅の者に満たされる」、この言葉は川島秀一の「津波のまちに生きて」という著作で紹介されている。川島は気仙沼市出身の民俗学者で、この度の震災で実家が流され、お母様を亡くされている。この著作には、震災前から書き綴っていた三陸沿岸の生活文化についての記録と、震災後、行方不明となった母を思いながら被災地を歩いて書いた文章がまとめられている。お母様とは、「あとがき」を書く段になって、ご遺体と対面されている。

三陸地方において、津波後に海から離れたところへ集落移住を果たしたものが、どうしてふたたび沿岸部に戻ってしまうのか。このことについて川島は、山口弥一郎(註1)という研究者が昭和8年の大津波の後に三陸地方を取材した「津波と村」という本の中から、「経済的関係」と「民俗学的問題」というふたつの言葉を引いている。

「経済的関係」とは、津波の被害にあったもののほとんどが漁師であり、「いつ来るか分からない津波の被害を予想して、毎日の生活を捨てることが出来なかったこと」があげられている。「民俗学的問題」とは、たとえば先に「旅の者」として紹介した津波後の移入漁民が、危険を知らずに浜近くに納屋を建て豊漁続きで財をなすと、古くからの地元漁民が我慢できずに現地に戻ってしまう例があげられている。

あるいは、祭日ごとに旧屋敷の氏神を親しく訪ねることが、災害を忘れた後々まで続き、やがて集落の現地復帰につながることもあるのだという。だから、山口は「災害のない町づくりは、その社会の特質や精神文化から考えるべきである」と言う。川島が引いている次の山口の文章がとても大切だと思うので、少し長くなるが紹介したい。

「津波の大災害は一挙にして此等の漁村を流出させ、狂乱の巷と化すのであるが、復興を遂げ落ち着いて来れば、此等の生活の伝統は再び生きてくる。それ程古くより固持されているものである。災害直後官吏や指導者が机上で設計、考案したままに、村の移動等の行われ難いの一因も、この辺にひそんでいることを知らねばならぬ。災害の救済復興は急を要する。然し此等の村の生活の伝統を研究する事等は一朝になるべきものではない。永い地味な仕事を、津波の災害の忘れ去られた頃も、コツコツと一人や二人行っていたとて差し支えないと思う。むしろ災害地の村人に此等の仕事を望んで止まない。村人自身が永い調査研究を遂げるでなかったら、真の災害救助、村々の振興等遂げらる筈はないと思う」

ここで山口が問題にしているのは、「災害時などの非常時にも外へ現れてくるのは日常性であること」なのだと川島はいう。大災害を経ても何度も蘇ってくる「生活の伝統」、それを根本的に探究の対象としなければ、災害のないまちづくりも村の振興も遂げられないというわけだ。さらに大切なのは、それを探究しなければならないのは、他ならぬ地域の住民であるということである。

気仙沼市唐桑半島を訪れて

ここまで川島秀一の著作を長々と紹介してきたのには理由がある。じつは、この本を紹介してくださったのは、縁あって出会った気仙沼市唐桑半島にお住まいのKさんである。

Kさんは67歳の男性で、早くに奥さんを亡くされ、震災前はひとりで唐桑にある実家に住まれていた。家が坂の途中にあったので、地震の後もまさか自宅まで波がやってくるとは思わなかったそうだが、波が坂の下からやってくるのを見て、津波を背に山をかけのぼり一命をとりとめられた。実家は、流れ去ることはなかったが1階部分が浸水した。

津波の後は、「せがれとふたり、足元のチリひとつ拾う気力がなかった」とKさんは言う。そんなときに、Kさんの家の前をボランティアが通りがかった。「お茶飲んで行け」とKさんは声をかけた。それが始まりだった。ボランティアが「家の片づけをしましょうよ」と言ってくれた。それから、「もう一度生きていくんだ、生活していくんだ」という力が出たとKさんは振り返る。ボランティアが宿泊する場所がないというので、Kさんは実家の2階を一時的にボランティアに提供することを決めた。11月末に実家が解体されるまで、Kさんの元を多くのボランティアが訪れた。今でも、その頃のボランティアから手紙が届いたり、父の日に蚊取り線香を入れる置物が届いたりしている。

唐桑にはKさんの実家が解体された後も、当初から継続的に現地を訪れていた大学生や若者が、現地に居を構えて活動を続けている。Kさんは今でも、それら若者たちのご意見番といった立場である。唐桑の生活のあり方を語ったり、「この人の話は聞いておきなさい」と地域の人を紹介したり、ときには半島や隣の陸前高田までドライブに連れて出ながら震災前後の出来事を語られる。そして、若者たちの活動を、厳しくも温かく見守られている。そんなKさんがわたしに、「この本はいい本だから読んだらいいよ」と紹介してくださったのが、先の川島秀一の本なのである。

この本をわたしに紹介してくださったとき、そのそばにKさんの近所に住んでいるひとりの若者が一緒にいた。Kさんは彼女を前にして、「この本の中には、津波後は旅の者で満たされるって言葉があるんだ」と語った。

ここで冒頭の問いに戻りたい。家の存続をかけて他人同士であっても夫婦となり家を継いだ時代ではない時代に、それでも川島は「三陸沿岸における津波の後の復興は、「旅の者」の力によってしか成功しないことは、今回の大津波においても同様であると思われる。」と書いているし、Kさんもまさに眼の前の「旅の者」にその存在の大切さを説いている。

では、現代の被災地で「旅の者」はどのような役割を果たすことができるのだろうか。そこには、家なるものが解体された後でさえ、まだ存続するものがあるはずだ。もちろん、Kさんが語ったように、遠くから被災地に駆けつけ、「片づけをしませんか」と声をかけながら、再建に共に汗を流す、そんな旅の者としてのボランティアの存在が、被災者の再起のきっかけとなることもあるだろう。しかし、わたしはその先にも、旅の者の存在が重要な役割を果たすように思う。

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