きっかけはこの記事「日本になぜ「男子医大」は存在しないのか?」*1 。
男子医大を作ろうとしたら、憲法違反にされたという。元ネタは厚生労働省の検討会。発言者は全国自治体病院協議会会長の邉見公雄氏で、医師不足の解消のためには総数を上げる前に偏在を解消するべきという流れでこの発言をしている。
女性医師が 4 割を超えるのに、東京女子医科大学はあると。東北に作るのだったら、東北男子医大にしてくださいと、私は申し上げました。これも、憲法違反だとか何とか言ってペケされました。
(2016.4.20 医療従事者の需給に関する検討会(第5回)議事録*2 より)
「男子医大は憲法違反」これ、本当だろうか?
まず、ネットで検索してみた。すると、昔の大学は男子だけという歴史や、男子のみ募集している学部や大学は珍しいという話が出てくる*3。ネットだけで全てだと見るのは、わたしの悪い癖だ。だから図書館のレファレンスに聞いてみた。
「男子大」が憲法違反という判例はない
結論を先に言うと、「違憲性が判断された事例は見つからなかった」になる。男子「医科」大学の条件を緩めて、男子大学にしても、やはり判例は見いだせなかった
むろん、悪魔の証明(無いことの証明)だから、完全ではない。だが、調べもののプロが以下を駆使しても見つからないのであれば、ないと判断してよかろう。
- 法情報総合データベース(D1-LAW)(第一法規)
- 判例秘書INTERNET(LIC)
- 聞蔵(きくぞう)Ⅱビジュアル(朝日新聞社)
- ヨミダス歴史館(読売新聞社)
- 毎索(毎日新聞社)
- 中日新聞・東京新聞記事データベース(中日新聞社)
- CiNii Articles(国立情報学研究所)
「男子医大は憲法違反」と言う人は、行政側にあれこれ理屈をつけられて断られたのではなかろうか。男子だけの大学を設立することに、行政側が難色を示すのは想像するに難くない。
「女子大」が憲法違反として提訴された事例はある
じゃぁ女子大は?
男子大がNGなら、女子大はなぜ許されるのか? 特に、税金が充てられる国公立大学の場合だと、どのように判断されるのだろうか。これも調べてもらった。
現在、「女子であること」を入学資格とする国公立女子大学は、短期大学も含めると以下の通り。
- 国立のお茶の水女子大学
- 奈良女子大学
- 公立福岡女子大学
- 群馬県立女子大学
- 山形県立米沢女子短期大学
- 岐阜市立女子短期大学
そして、女子大が違憲だとして訴えられた事例があった。
公立福岡女子大に入学願書を受理されなかった男性が、性差別であり憲法違反だとして提訴した事例だ。男性は、社会人枠の受験のため願書を提出したが、大学は、出願資格を女子としているとの理由で不受理にした。
しかし、この訴訟は「裁判所から争点に無関係の立証を求められたため」男性側が訴えを取り下げ、判決は出なかった。
判決こそ出なかったものの、女子大の憲法適合性については議論は続いている。情報化社会・メディア研究における野田元樹氏によると、「今後、福岡女子大学に対する男性の訴訟提起と同様な訴えの提起も十分考えられ、違憲判断が下される可能性もありうる」*4としている。