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安倍首相が「新型コロナに打ち勝った」と宣言したとき、バンザイするのは誰だ

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新型コロナを「神風邪」と考えていたが…

この時は、安倍にツキもあった。小池都知事が「希望の党」をつくり国政へ出ると宣言して、野党が結集するかに見えた。そうなれば、安倍政権に飽いた有権者は雪崩を打って希望へ向かうと予想されたが、小池が一部の民進党議員を排除すると発言して、一気に、新党への期待はしぼんでしまった。

今回の新型コロナウイルス感染も、最初、安倍は「神風邪」だと考えていたと、一部の週刊誌が報じていた。これで次々に不都合な事実が出て来る「桜を見る会」疑惑追及は、いったん休止になり、コロナ騒動が終わる頃には忘れてくれる、そう考えていたようだ。

だが、感染は日本にも広がり、このままいけば東京オリンピックも中止か延期になる。慌てた安倍首相は、思い付きに過ぎない施策を次々に繰り出し、自民党の中からも、「殿ご乱心」という声が出ている。

東京五輪をやってもやらなくても、安倍政権は終焉に向かう。だが、また安倍のそっくりさんが出て来る。そうさせないためには、国民の側が、このお粗末な政権がやってきたことを忘れずに記憶して、次の世代に引き継ぐことである。

「われわれは警笛を聞き取れる人になろう」

手元にニューズウイーク日本版(3/10号)がある。村上春樹に続いて中国でカフカ賞を受賞し、毎年ノーベル文学賞候補に挙げられる中国人作家・閻連科(イエン・リエンコー)が2月20日に、彼が教えている大学の学生に語った講義録が掲載されている。

これが素晴らしい。今の日本人こそ読むべき一文であると思う。

中国で新型コロナウイルス感染拡大を警告し、自らも感染して亡くなった李文亮眼科医のことを、「李のような『警笛を吹く人』にはなれないのなら、われわれは笛の音を聞き取れる人になろう」と話す。

閻は、子供のころから、同じ過ちを繰り返すと、両親から「おまえに記憶力はあるのか?」と問われたという。

「記憶力は記憶の土壌であり、記憶はこの土壌に生長し、広がってゆきます。記憶力と記憶を持つことは、われわれ人類と動物、植物の根本的な違いです」

閻は、それは食べることや服を着ること、息を吸うことよりも重要だという。

「なぜならわれわれが記憶力や記憶を失うとき、料理をすることも、畑を耕す道具も技術も失っているはずだからです」

「本当のことをいえば処分を受け、やがて忘れられていく」

閻は、今こんなことをいうのは、新型肺炎が世界中の災難として、まだ本当にコントロールされてはおらず、感染の危機もまだ過ぎ去っていないからだという。

湖北や武漢を含めて全国で、家族がバラバラになり、家族全員が死に絶えてしまったと嘆く悲痛な声がまだ耳から離れない。

新型肺炎でどれだけの人が死んだのかもわかっているわけではない。だが、そのような調査、確認はトップダウンで行われており、統計のデータが好転している、新型肺炎に勝ったという凱歌にかき消され、時間の経過とともに永遠の謎になってしまうと危惧する。

「われわれが後世の人々に残すのは、証拠のない記憶の閻魔帳なのです」

都合の悪い文書を改ざんしたり破棄したりして、証拠隠滅をはかるこの国の為政者のことを記憶して、忘れないことこそ重要なのだ。

「本当のことを言えば処分を受け、事実は隠蔽され、記録は改ざんされ、やがて人々の記憶から忘れられていく」。安倍政権のことをいっているように、私には思える。

「この記憶を後世に伝えられる人になろう」

「われわれが身を置く歴史と現実の中で、個人でも家庭でも、社会、時代、国家でも悲しい災難はなぜ次から次へと続くのでしょうか。なぜ歴史、時代の落とし穴と悲しい災難は、いつもわれわれ幾千万もの庶民の死と命が引き受け、穴埋めをしなければならないのでしょうか。 われわれには知ることのない、問いただすこともない、問いただすことを許されないから尋ねない要素は実に多い。ですが、人として――幾千万もの庶民あるいは虫けらとして――われわれには記憶力がなさ過ぎるのです」

「記憶のないものは、本質において、かつて生命を断ち切られた丸太や板であり、未来は何の形になるのか、どんなものになるのかは、のこぎりとおの次第なのです」。安倍政権に翻弄されているわれわれも、命のない丸太になりかかっている、否、成り果てているのか。

「われわれが個人の記憶力と記憶を持っていたからといって、世界と現実を変えることなどできないかもしれませんが、少なくとも統一された、組み立てられた真実に向き合うとき、心の中でひそひそとささやくことはできます。『そんなはずはない!』と」

李のような人になれないのなら、「大声では話せないのなら、耳元でささやく人になろう。ささやく人になれないのなら、記憶力のある、記憶のある沈黙者になろう」。新型肺炎の起こり、蔓延、近くもたらされるであろう「戦争の勝利」の大合唱の中で、「少し離れたところに黙って立ち、心の中に墓標を持つ人になろう。消し難い烙印を覚えている人になろう。いつかこの記憶を、個人の記憶として後世の人々に伝えられる人になろう」

日本人こそこの悲劇を受けとめ、考えるべきだ

閻から、「中国国内では発表できないものだが、日本語に翻訳して多くの人に読んでほしい」と送られてきた訳者の泉京鹿は、中国では当局によってブロックされていているが、ものすごい勢いで転載され、少なからぬ中国人が読んで共感していると書いている。また、

「閻連科が学生たちに語らずにはいられない中国の歴史的悲劇は、日本人にとって、『体制の違う隣国のこと』なのだろうか。われわれ日本人こそ、いま起こっていること、これから起こることを、しっかりと見つめ、記憶し、後世の人々に伝えなければならないのではないか」

と、閻の言葉を日本人こそ受けとめ、考えるべきだといっている。

新型コロナウイルスに感染する人の数はまだまだ増えるはずだ。マスメディアはこのウイルスの脅威を過大に報じ、政権は早期に収拾しようと国民の生活を蔑ろにし、国民は正確な情報を知らされずパニックに陥る。

しかし、少しでも感染の広がりが鈍れば、政権は「国難に打ち勝った」と鉦(かね)や太鼓を打ち鳴らし、国民は何も知らされずに踊りの輪に参加させられる。

そうして、今回のコロナ騒動もあっという間に忘却してしまうのだろう。同じように安倍政権が隠蔽してきた数々の不祥事も記憶のかなたに消えてしまう。

安倍がいなくなっても、第2、第3の安倍が再び現れるが、記憶をなくした国民は、そのことにも気が付かない。(文中敬称略)

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元木 昌彦(もとき・まさひこ)

ジャーナリスト

1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)などがある。

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(ジャーナリスト 元木 昌彦)

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