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濃厚接触情報の公表は区別のためで、差別のためじゃない~感染拡大防止/リスク低減には市民の理解が必要~

 "リスクの伝道師"SFSSの山崎です。本ブログでは、毎月食の安全・安心に係るリスクコミュニケーション(リスコミ)のあり方を議論しておりますが、今月は世界中で感染者が10万人を超えて不安が蔓延している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について、再度考察したいと思います。 まずは、大阪市のライブハウスで起こった新型コロナウイルスのクラスター感染情報について、大阪市のホームページがアナウンスしているので、ご参照いただきたい:

◎令和2年2月15日・16日に大阪京橋ライブハウスArc、2月19日・23日にSoap opera classics-Umedaを利用された方はご連絡ください(3月7日(土)・8日(日)も受付します)
 ~大阪市ホームページ
  https://www.city.osaka.lg.jp/kenko/page/0000496481.html

 新型コロナウイルスの感染者が商業施設や病院などで発生した、という実名情報を市民に知らせることで風評被害やパニックが起こるのではないか・・として、情報統制をおこなうべきかどうか迷われる自治体もあるようだ。大阪府/大阪市がいち早く、このライブイベント情報を全国民にむけて周知したことで、全国に散らばった感染者が明らかになり、各地で積極的疫学調査が展開されたのはよかった。全国各地で濃厚接触者が判明すれば、クラスター感染の拡大を迅速につぶしていくことが可能になったということだ。

 もしこの実名情報を公開していなかったら、いったいどうなったのだろうか。おそらく風邪の症状とあまり変わらない軽症者が、家族や職場を通じて感染を拡大していったのは間違いない。福島第一原発のメルトダウンのときも、国民がパニックになるからとして事故情報を隠蔽したことで、市民は放射線被ばくを受けた「安全」の問題だけでなく、正確なリスク情報がわからないことによる「安心」の問題が蔓延した。行政担当者にとって最も重要な理念は、公衆衛生上のリスクを低減して市民の安全を守るために、リスクを特定する実名情報の迅速な発信をためらわないことなのだ。

 ただし、そのためには市民サイドもリスクリテラシーを向上させることが重要だ。すなわち、商業施設の実名公表はあくまで区別(感染者の隔離と濃厚接触者の特定=公衆衛生上のリスク低減)のためであり、差別(風評被害誘発)のためではないということを理解していただく必要がある。和歌山県では早い段階で病院名を公表したことで、感染者が確認されてから3週間での通常業務を再開した。院内感染で関係者を一斉にPCR検査したのも効果的だったと思われるが、関係者のご苦労には頭が下がる思いだ。自治体の行政担当者が施設名を迅速に公表することで、市民の前向きな理解が広がると筆者は考えている。それはなぜか・・

 市民は、行政からの情報が隠蔽されればされるほど不安になり、行政に対する不信感から、むしろその商業施設に対する風評被害を助長する。市民の安全にかかわるリスク情報をいち早く公開して、当該施設が営業停止を2週間続けることで、自治体への信頼感が深まるだけでなく、当該商業施設の復帰を応援する市民まで登場する。自らにとって不利なリスク情報を迅速かつ誠実に発信して、ハラキリ・コミュニケーションのできる民間事業者や行政を市民は応援するのだ。

 もちろん個人情報を保護することは社会として非常に重要であり、感染した個人に対する差別/風評被害は避けないといけない。しかし、新型コロナウイルスの感染者が個人である限り、個人を特定・区別して、感染拡大を断ち切るための隔離と積極的疫学調査が必要だ。そのためには、できるだけの実名報道が必要であり、たとえば感染者が自営業者であったとすると、個人であると同時に事業者なので、事業者としての実名報道について、できるだけ当該自営業者を説得する必要があるだろう。その意味でも、無用な風評被害を避けるためには、市民も「区別」と「差別」の切り分けがしっかりできないといけない。

 また、感染者がこれだけ全国で広がってしまったのだから、もう感染拡大を止めるよりも重篤な患者を救うほうにシフトすべきだ、と主張する方々もいるようだ。自分たちは若いので感染しても軽症ですむなら普通の風邪と同じじゃないか、インフルエンザでも沢山亡くなっているのだから意味がないなどと、新型コロナウイルスを軽視するとしたら大間違いだ。

 いまだに電車の中でマスクを着用しない方々は自分が感染者でないとなぜ言えるのか、周りの市民からどんな風に映るのか、よく考えていただきたい。なぜ北海道の鈴木知事は記者会見のたびにマスク着用で登場するのか・・もし万が一あなたが感染者で、マスクもせずにウイルス飛沫を飛ばし、高齢者や基礎疾患をもった方にうつったら、どんな悲劇が待っているかと想像してほしい。「マスクが手に入らないんだけど・・」と言い訳する方は、できるだけ自宅待機してほしいものだ(政府が全国休校、テレワークを要請するのも頷ける)。

 「マスクは予防効果なし」として頑張ってマスクをしない方々も、ご自身はそれでマスクの使い分けが上手にできているなら結構だが、一般市民の予防活動を止めないでほしい。「マスクは予防効果なし」の科学的エビデンスは、おそらくインフルエンザに関する文献情報をもとに主張されているものと思うが、新型コロナウイルスは無症状・軽症の感染者からも飛沫感染リスクがあることを考えると、インフルのデータを適用して本当に大丈夫か?感染経路がまったく不明の市中感染者がいる現状において、外出時に軽症の感染者からの飛沫を避けること、不用意に自分の顔にさわってしまうことを防止するためにも、マスクを着用することで一般市民のリスク低減につながるのは明らかだ。

 国民ひとりひとりが予防に努めることで、感染拡大の抑制/公衆衛生上のリスク低減につながること、すなわち「集団予防」の考え方を理解していただきたい:

◎「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防法について」
  BLOGOS 山崎毅(食の安全と安心) 2020年2月19日

  https://blogos.com/article/437209/

 野田衛先生(国立衛生研究所客員研究員)が提唱される「集団予防」のポイントは3つ:
   ① 飛沫をあびないこと(飛沫感染防止;マスクも有効)
   ② 手洗いまでは顔をさわらないこと(接触感染防止)
   ③ 消毒薬をうまく使う(アルコール以外も有効利用)

 なお、この新型コロナウイルスに関連して、市民の不安を助長する「未知性因子」をとりあげたので、こちらもご一読いただきたい:

◎未知性因子:「わからない」が不安を煽る
  ~新型コロナウイルスに関する確かな専門家情報は?~
  BLOGOS 山崎 毅(食の安全と安心) 2020年02月11日

  https://blogos.com/article/435464/

 新型コロナウイルスはワクチンも治療薬もなければ、簡易診断薬も未開発のため、通常の医療機関では対処のしようがないことが、大きな不安の原因となっている。PCR検査の精度がよくないとの情報もあるが、医師たちは陽性/陰性の検査結果だけで患者さんを診察しているわけではなく、感染者との濃厚接触情報なども重要なデータとなりうるため、PCR検査に対する不信感を報道するのは避けるべきだろう。100%正確な検査など元々ないのだから、あるだけでも貴重な医療データと考えるべきだ。

 「わからない」、「わからない」では、市民の不安が広がるばかりで、デマ情報にも踊らされるので、少なくともいまわかっている情報を有効利用して、専門家の毅然とした助言につなげてほしいものだ。先月もこちらのブログで述べたところだが、「未知性因子」を刺激しないためのリスコミのポイントは、リスク情報を毅然とした姿勢で伝えることなので、いまは不確かなデータしかない状況においても、感染症学者による明確なリスク低減策に関する統一見解が必要と考える。

 市民に対して、クラスターをつぶすためのイベント自粛・テレワーク・休校を要請するだけでは弱い。もっと根本的な感染症予防のコツを市民にむけてきちんと発信しないと、「あなたたちは信用できないので、とにかく自宅待機ね」というメッセージのみでは、市民をバカにしているように見えて仕方ないのは、筆者だけだろうか。

 以上、今回のブログでは、新型コロナウイルス感染に係る実名情報の発信における「区別」と「差別」の切り分けについて、くわしく考察しました。SFSSでは、食の安全・安心にかかわるリスクコミュニケーションのあり方を議論するイベントを継続的に開催しており、どなたでもご参加いただけます(参加費は1回3,000円です)ので、よろしくお願いいたします:

◎食のリスクコミュニケーション・フォーラム2019(4回シリーズ)活動報告
【テーマ】 『消費者市民の安全・安心につながる食のリスコミとは』

  http://www.nposfss.com/cat1/risc_2019.html

◎食の安全と安心フォーラム第18回(1/26) 開催速報
 『消費者市民の安全・安心につながる食品表示とは~食品事業者がお客様のためにできること~』

  http://www.nposfss.com/cat9/forum18_sokuho.html

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