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ディズニー映画『ムーラン』延期で中国映画業界に大打撃、世界の制作現場にも影響広がる

新型コロナウイルスの感染拡大で、日本国内では多数の人が集まるイベントが自粛・中止となっている。映画館でもチケットの払い戻しが実施されたり、舞台挨拶が相次いで中止。大きなところでは、日本映画界の一大イベントである「日本アカデミー賞」授賞式(3月6日)が一般客、マスコミを入れずに開催されたが、『映画ドラえもん のび太の新恐竜』などの作品も公開延期が決まっている。それに伴い多くの映画館が上映中止や休館となっており、同様の対応は今後も広がるものと思われる。

アカデミー賞は『パラサイト』一人勝ち 外国語映画初の作品賞受賞でハリウッドにも変化? - 田近昌也

アメリカは前述の通り賞レースを締めくくるアカデミー賞が先月終わり、劇場興行としてはオフシーズンとなっているのがせめてもの救いであるが、日本では4月17日、アメリカでは3月27日に公開が決まっていたディズニー映画の実写版『ムーラン』を始め、今後『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』などのビッグタイトルの公開も控えている中、新型コロナウイルスが日本と世界の映像業界に与える影響はどういったものだろうか。

Getty Images

中国市場をターゲットにしたディズニー映画「ムーラン」延期

2019年の国内の映画興行収入は2611億8000万円となり、00年の興収発表以降の首位だった2016年(2355億円)を大幅に上回って過去最高を記録した。アメリカでも『アベンジャーズ/エンドゲーム』が歴代トップの興行収入を記録し、年間興行収入は113億ドルを超えて2018年、16年に続く歴代3位となった。

しかし、その熱がまだ冷めやらぬうちに、今年の映像業界は新型コロナウイルスによって出鼻を大きく挫かれた形となった。『パラサイト 半地下の家族』が先月のアカデミー賞授賞式で外国語映画として史上初となる作品賞を受賞するなど、2020年に向けてさらなる期待も膨らんでいただけに、残念である。

まず目に見える形ですでに大きな影響を被っているのは、やはり映画館である。中国ではウイルスの感染拡大防止のために一部都市の封鎖が行われ、一年で最大の書き入れ時であった春節を直撃した。昨年の春節では58億人民元 (約900億円)の興行収入を稼ぎ出したと言われているが、今年はウイルスの影響で、中国全土10000館で70000に上るスクリーンが閉鎖されたと言われている。

中国の配給会社ホワンシー・メディア・グループは、1月下旬に中国で劇場公開が予定されていた『Lost In Russia』を取りやめ、無料配信で公開したし、全米興行収入第1位を記録していた『ソニック・ザ・ムービー』の公開延期も決まっている。ディズニーによる中国が舞台の実写版『ムーラン』も、当然中国からの収入をターゲットにしているわけであるが、その公開も先が見えない状態だろう。これによって3月末までに受ける興行への影響は、全世界で40億ドル(約4300億円)とも言われている。

映画のロケ誘致で経済が回っていた都市にも影響

より長いスパンで見ると、影響はこれだけにとどまらない。まず、国内外の大規模なイベントが次々と中止や延期となっているが、世界中からバイヤーやプロデューサーが集まってコンテンツの売買が行われるマーケットも例外ではない。

毎年3月下旬に東京ビッグサイトで行われ、海外のキープレイヤーたちがアニメ番組を購入するイベントの一つであった「アニメジャパン」は、2月27日に中止が発表されているし、同じく3月末に開催が予定されていた香港フィルマートは2月中旬の時点で、早々と8月末への延期が発表された。世界三大映画祭の一つであるカンヌ国際映画祭と併設のマーケットが5月中旬に予定されているが、現地時間2月28日にカンヌ市内でも最初の感染者が報告されたこともあり、慎重な判断が求められるところだ。

こういった場がなくなることによって懸念されるのは、日本、海外それぞれでの作品供給が少なくなることにより、今後劇場や配信で公開される新作の数に影響が出てくることだろう。

さらに、近年では撮影や制作の一部を国外で行うことも珍しくない。ハリウッド映画でも海外ロケーションで撮影される作品は多いが、イタリアのベネツィアで撮影が予定されていたトム・クルーズ主演の新作『ミッション:インポッシブル7』の撮影の延期が決まった。

Getty Images

ヨーロッパの各国やアメリカの一部の州など、助成金や税制補助で撮影を誘致しているロケーションも多い中、これらの制度を使って製作される多くの映画の撮影が止まることで、単に作品供給が遅れるだけでなく、こういった制度で潤っている地元の産業にも影響が出てくることが懸念される。

新型コロナウイルス、ハリウッドへの影響は限定的

日本国内でも、2月20日に放映が予定されていた『<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-』と21日に予定されていた『とある科学の超電磁砲T』の各第7話の放送が延期された。今後も外出の制限などがかかることで、制作にさらなる遅れが予想される。また、アニメ制作の工程の一部を中国の制作会社に出すことも珍しくはない現在、作業にあたることのできる人員の確保が間に合わず、やはりスケジュールに影響が出ているという話も聞く。

しかし現実問題として、中国市場でアメリカを追い抜かんばかりの興行収入を叩き出したとしても、現地の劇場や配給会社の取り分を差し引きすると、実際にハリウッドのスタジオが手にすることができるのは、そのわずか25%と言われる。ハリウッド映画や日本のアニメ制作も、この数年で急成長してきた中国の巨大な市場規模と安価な労働力に新たな活路を見出してきたが、今回の打撃を受け、その流れが鈍ることは大いに考えられる。

Photo by YTCount @ytcount on Unsplash

一方、多くの人々が外出を控え、自宅で過ごす時間が増加することは、NetflixやAmazon Primeなどの配信プラットフォームにとって追い風になることは間違いないだろう。ここ数年の映像コンテンツの消費方法の変化を受け、ただでさえ劇場側があの手この手を使って映画館へと足を運んでもらおうと知恵を絞っている中、これで人々の足が遠のくことがあってほしくないのは、筆者も同じ気持ちである。

ただ、配信プラットフォームの勢力図はまだ活発に動いており、日本を含めた世界各国でローンチされたApple TV+に加え、Disney+、そして春からのローンチが決まっているHBO MAXやNBCユニバーサルによる「ピーコック」(共に日本展開は未定)など、競争はさらに熾烈になる一方である。

また、3月14日〜22日にテキサス州で開催が予定されている世界最大規模のフェス「SXSW 2020」で参加を予定していたNetflix、Apple、Amazonなどが、アメリカでの感染拡大を受けて、それぞれキャンセルを表明した。彼らは各プラットフォームで配信を予定しているオリジナルの長編映画やシリーズのプレミア上映を行う予定にしていたが、「SXSW」という通常の映画祭とはまた違ったオーディエンス層にリーチできる場所でのプレミアがなくなっただけに、影響が小さくないだろう。

映画やアニメなどの映像コンテンツは、企画から制作、そして公開されるまでに多数の人が関わっていることを考えると、劇場上映や毎週の放送がかかるアニメシリーズの制作といった短期的なものから、今後の撮影の延期による製作の遅れまで、様々なところでの影響は避けられない。人々の生死が関わる今回のような事態においては、どちらが優先なのかは言うまでもないが、一方で、外出を控える人が増えている今、映画やアニメなどのコンテンツが、家にこもりっきりとなった人々がこの暗い時期を乗り越えるための助けとなるならば、それはそれで素晴らしいことではないかと思う。

<参照>
Coronavirus: China Shutters Cinemas, Blockbuster ‘Lost In Russia’ To Stream Free Online After Deal With TikTok Owner(DEADLINE)

Coronavirus: How Hollywood Is Navigating Uncharted Waters As Cases Spike In Korea & Italy Forcing Release Delays & WW Box Office Sees Possible $4B Loss Through March(DEADLINE)

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