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中国の次は日本、新型コロナウイルス対応で悪化したイメージを挽回できるか - 桒原響子 (未来工学研究所研究員・日本国際問題研究所研究員・京都大学レジリエンス実践ユニット特任助教)

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一国にとって、対外的なコミュニケーションと情報発信というものは、他国からの信頼を獲得し、自国に対するイメージ向上のために欠かせない。情報通信技術が飛躍的に発展しグローバル化が進展した今日にあっては尚更である。これが、国家間の外交手段として重視されている公共(世論)に直接働きかける外交、いわゆる「パブリック・ディプロマシー」ということなのであるが、そこには人間の深層心理という難しい問題が潜む。相手に対してポジティブなイメージを持っていたとしても、きっかけ次第では、それが簡単に低下することもあり、反対に、一度ネガティヴなイメージが定着すると挽回するのが難しいということでもある。

年初から、新型コロナウイルス感染症への対応をめぐって、そのパブリック・ディプロマシーに関する各国のポテンシャルが問われる事態となっている。

米国を批判、日本に謝辞、イメージ挽回図る中国

中国武漢で発生した新型コロナウイルスは、年初から世界中に感染が拡大の影響が広がり、各国が対応に追われる状況が続いている。その中で、中国政府の初期対応が遅れたこと、特に情報開示が後手に回ったことなどから、世界における中国のイメージがずいぶんと悪化した。危機管理の観点からだけでなく、パブリック・ディプロマシーの観点から見ても大失態といえよう。

中国政府は、こうした事態を受けて、なんとか失政を挽回するため、情報開示に積極的な姿勢に転じた。加えて、中国に厳しい米国の姿勢を批判する一方、日本の姿勢を評価するなど、中国はイメージ戦略も欠かさなかったのである。

中国外交部は、新型コロナウイルスの流行をめぐる米国の対応が危機を煽っていると批判し、一方で、日本からマスクなどの支援物資が送られたことなどを高く評価した。華春瑩報道官は2月3日の定例記者会見で、米国は「実体のある支援を提供せず」、「パニック」を生み出していると非難した。その一方で、翌4日には、華報道官が「中国側は日本の人々の心温かい行動に関心を寄せており、日本を含む各国の人々から寄せられた同情、理解、支持に心から感謝を表明し、心に深く刻む」と定例記者会見で述べた。華報道官が公に日本に対して謝辞を示すことは異例である。

しかし、いったんイメージが定着すると、挽回が容易でないことが今回の事例でも明らかである。李文亮医師の中国警察による処分や、その後同氏が新型肺炎のため死去したことも影響しただろう。中国国内でも、李医師の死去を受け、言論の自由を求める動きが拡大している。2003年のSARSコロナウイルス流行の時と違い、中国が世界の工場となり、世界経済に与える影響が格段に大きくなったため、情報開示など初期対応が極めて重要なことを中国政府も認識すべきであっただろう。

クルーズ船の対応めぐり米メディアが日本を痛烈に批判

しかし、新型コロナウイルスへの中国の対応をめぐるパブリック・ディプロマシーの失敗は、日本にとっても「他人事」ではなった。その主な要因の一つが、横浜に停泊していたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」である。ダイヤモンド・プリンセスに対する日本政府への対応に対し、海外から批判的な見方が噴出したのである。海外の専門家などが日本の対応について懸念を示し、多数の有力メディアも批判的に報じた。

特に厳しい見方を示したのが、米メディアだった。通常、米メディアの対日関心度は高くない。特に近年、米国の有力メディアの日本関連報道量は低下傾向にあった。しかし、ダイヤモンド・プリンセスの乗客3711人のうち400人以上が米国国籍であったこともあり、米メディアは日本政府の対応について批判的に報じた。

例えば、ニューヨーク・タイムズは、2月11日付けの記事で、日本政府の対応について危機管理の専門家の見解を紹介。「公衆衛生危機の際に行ってはならない対応について教科書に載る見本」を日本政府が提供しているという厳しい見方を取り上げ、日本政府の広報戦略が信頼を損ね、不安が広がっていると指摘した。

同月13日付けのワシントン・ポストは、「日本政府は乗客の検査と下船のためになぜもっと迅速な対応が取れなかったのか」と疑問を投げかけた。乗船している乗客乗員は「感染の危険にさらされ続ける」と指摘し、さらにこの検疫について「基本的人権の侵害」とするジョンズホプキンス・メディスンの救急医学の専門家による批判的な見解を紹介した。

さらに、19日付けのニューヨーク・タイムズは、「Japan Lets Cruise Passengers Walk Free. Is That Safe? (日本はクルーズ船の乗客を自由に下船させる。これは安全なのか?)」との見出しで、日本政府の対応を厳しく報じた。日本の対応が、感染症に関する専門知識を必ずしも持ち合わせていない公務員によって行われていることが問題であると批判し、日本には疾病管理を専門に扱う政府機関がないことを問題視したのである。

なお、同記事は現在、「Hundreds Released From Diamond Princess Cruise Ship in Japan」(日本でクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号から数百人が解放)という見出しに変更されている。

米メディアの論点が必ずしも一致していないが、日本の対外発信次第ではイメージ悪化を緩和させることもできたはずである。日本のパブリック・ディプロマシー、いわば政府のイメージ戦略は、これまでいくつかの試練に見舞われてきた。例えば、主権や歴史認識をめぐる問題では、中国や韓国が、日本の「歴史修正主義」こそ問題で、安倍政権は「ナショナリスト」であると米国で宣伝活動に専念し、その結果米メディアがこうした問題に対し、日本の姿勢を批判的に報じたのである。これに対し日本は政府が前面に立って反論を発信してきたことから、ニューヨーク・タイムズなどの米メディアが「whitewashing(隠蔽)」や「historical blinders(歴史的目くらまし)」といった見出しで、日本の政治姿勢や対応を批判的に報じるようになっていった。

こうした状況を打開するために、対外発信の重要性が指摘され、それを強化すべくパブリック・ディプロマシー予算が増額されるようになったのであるが、今回の新型コロナウイルス流行に見るような不測の事態への対応で、またしても日本のパブリック・ディプロマシーのあり方が問われる事態となった。

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