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楽天に対する緊急停止命令はプラットフォーマー透明化への試金石となるか - 河本秀介 (弁護士)

楽天に対する「緊急停止命令」の申立て

公正取引委員会は2月28日、楽天に対し、「楽天市場」で3月18日から開始を予定している送料無料サービス(「共通の送料込みライン施策」)について、「公正取引委員会の排除措置命令があるまで実施してはならない」という決定を求める緊急停止命令を東京地裁に申し立てました。

楽天による送料無料サービスは、2019年8月に発表されて以来、少なからぬ出店者らの反発を受け、一部の出店者からは「独占禁止法に違反する」という意見も提出されていました。

こうした中で公正取引委員会は調査を開始し、本年2月には立ち入り調査も実施されています。楽天側はこうした動きに対し、サービス内容を一部修正するなどしながらも、あくまで3月18日のサービス実施の予定自体は変更しないという姿勢に出ていたところ、公正取引委員会が緊急停止命令の申立てを行ったものです。

出店者に負担を求める「送料無料」サービス

まず、楽天の送料無料サービスは何が問題とされたのでしょうか。

楽天市場のようなオンラインモールは、運営会社自身が商品を販売するのではなく、小売業者を中心とする出店者がオンラインモールというプラットフォームを使ってネットユーザに対して商品を販売しています。

商品を販売する際の支払方法、商品の配達、返品などの条件の多くはモール側が定める利用規約などで一律に決められており、出店者側は自由に決めることができません。

そしてモール側がこうした利用規約を改訂した場合、出店者側もそれに従う必要があります。

今回、楽天が予定しているサービスは、ユーザが合計3,980円以上の商品を注文した場合の送料を一律に無料とするというものです。

ユーザにとっては有難いサービスですが、これらの送料は出店者が負担することになるため、出店者にとっては販売コストが増えることになります。また、出店者としては楽天市場に出店する以上、この取り扱いに従う必要があります。

優越的地位濫用にあたる可能性

出店者としては、このように取引条件が不利に変更されたからといって、モールに出店して既に営業している以上、簡単に退店するわけにもいきません。顧客を失うリスクや他のモールへの移転コストを考えると、しぶしぶ「送料無料」に応じざるを得ない出店者も多いはずです。

このように大手のオンラインモールは出店者に対して取引上優位な立場(「優越的地位」)にあるといえますが、このような立場を背景にして、相手に不利益になる形で取引条件を一方的に変更したりすることは、独占禁止法の「優越的地位の濫用」にあたるとして違法とみなされる可能性があります。

今回、公正取引委員会が問題視したのは、楽天の送料無料サービスが、出店者に対する優越的地位の濫用になっているのではないかという点です。

16年ぶりの「緊急停止命令」申立て

今回、公正取引委員会は楽天の「送料無料サービス」が優越的地位の濫用にあたるとして緊急停止命令を申立てました。

独占禁止法が制定されて以来、公正取引委員会が緊急停止命令を申立てたのは今回のものを含めて8例しかありません。

また、前回申立てられたのが2004年6月と、実に16年近くの期間が空いてますので、非常に珍しい手続と言えます(さらにその前は1975年3月と、さらに期間が空いています)。

緊急停止命令とはどのような手続なのでしょうか。また、なぜ公正取引委員会は緊急停止命令の申立てに踏み切ったのでしょうか。

排除命令では間に合わない場合の手続き

独占禁止法違反があった場合、公正取引委員会は違反者に対し、違反行為の取りやめや再発防止体制の整備などを命じる「排除措置命令」を出すことができます。

一般的には、独占禁止法違反に対しては排除措置命令と課徴金の納付命令による対応がなされます。

これに対して緊急停止命令は、緊急の必要がある場合に、違反行為を一時的に(通常は排除措置命令があるまでの間)停止することを裁判所が命じる手続です。

公正取引委員会が排除措置命令を出すには、違反者に通知したうえで意見を述べさせるなどの手続を取る必要があり、半年から1年程度の時間を要すると言われています。

緊急停止命令は、そのような手続を取っていては間に合わないような場合に公正取引員会が裁判所に申立てる手続です。緊急停止命令が申し立てられた場合、比較的簡易な審理によって平均1か月程度で裁判所による判断が下されます。

出展社の不利益拡大に配慮

実は、排除措置命令はこれまでの法改正により以前よりもスピーディに手続を取ることができるようになっており、緊急停止命令の必要性は以前よりも少なくなっていると言われていました。

それでも今回、公正取引委員会が緊急停止命令の申立てに踏み切ったのは、楽天側があくまで予定通りサービスを実施するという姿勢を崩さなかったため、排除措置命令を待つことで出店者の不利益が拡大すると判断したものと思われます。

デジタル・プラットフォーマー取引透明化法案

今回、公正取引委員会が緊急停止命令の申立てに踏み切った背景には、昨今のプラットフォーマーに対する一連の取り組みも影響しているようにも思えます。

前回「GAFAはどうなる?独占禁止法適用、巨大IT企業の個人情報利用」にも触れたとおり、昨今、デジタル・プラットフォーマーと呼ばれる巨大IT企業の台頭に対して、その利便性と寡占化の弊害の両方を見据えた取り組みが検討されています。

現在、前回解説した個人情報保護に向けた取り組み以外にも、大規模なオンラインモールやアプリストアなどに対して、ユーザに向けた情報開示や運営の公正の確保などを内容とする「デジタル・プラットフォーマー取引透明化法(仮称)」の策定に向けた準備が進められています。

例えば、今回のような取引条件変更の問題に関連しては、プラットフォーム事業者が「事業の運営に重大な支障が生じる一方的な不利益変更」を行うことを、法律上、違法とすることなどが検討されています。

現時点ではどのような行為が規制の対象となるのか、また、違法とされる行為に及んだ場合の手続のあり方やペナルティの詳細は明らかではないものの、可能性として、より迅速に違法行為を排除するための手続や体制が整備されることも考えられるでしょう。

緊急停止命令は手続整備に向けた試金石となるか

今回の楽天に向けた緊急停止命令の申立ては、プラットフォーマーの取引の公正やユーザ・事業者の保護に向けた法的な枠組みが検討されている最中になされたものです。

緊急停止命令の申立てを受けた裁判所がどのような判断を下すのか、仮に裁判所による緊急停止命令が下されたとして楽天側がどのような対応に出るのか、はたまた世論がどのように受け止めるのかは、プラットフォーマー取引についての法的な枠組みや、手続・体制の整備に向けた試金石になるのではないかと感じています。

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