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「避難所でのレイプ」災害時の性暴力に光を当てたドキュメンタリーの教訓

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「性暴力」をめぐる報道が少しずつ増えている

 女性に対する「性暴力」の被害の実態がいろいろな形で明らかになっている。

 #MeToo運動の広がりなどでこれまで被害を受けても口をつぐんできた被害女性たちが少しずつ声をあげ始めたからだ。

 とはいえ、まだまだ被害にあった当事者の「自己責任」や「本人にも非が」などと被害者を責める風潮は今もこの国には根強い。

 特に震災などの「非常時」になると、とりわけそうした傾向が強くなってしまう。被災者がいる避難所や仮設住宅などで子どもや女性がレイプなどの性暴力被害にあうケースはこれまでごく一部の関係者にしか知られてこなかった。

 被災者であるという”弱み”。周囲の善意に依存せざるをえない弱み。避難所などは被災者全員が不自由や苦労を共有することで苦情や抗議、権利主張をするのをはばかる空気などで「声」をあげられない構図。そんな背景があるからだろうか。

「災害時の性暴力」の本格的なドキュメンタリーをNHKが放送した

 3月1日(日)の午前中に放送された「明日へつなげよう 証言記録『埋もれた声 25年の真実〜災害時の性暴力〜」

 48分の長編ドキュメンタリーだ。 

 被災地で子どもや女性たちにこうした問題が起きているらしいことは、2011年に東日本大震災が起きた直後、筆者も取材で訪れた避難所などで耳にしたことがあった。しかし関係者も固く口を閉ざし、当時は取材を進めることはできなかった。

 テレビでは非常にデリケートすぎて扱うことが難しかったこの問題をNHKは今回、取りあげた。そこに紹介されたケースは被害者の壮絶な体験談がベースになっている。

 「被災地の性暴力」についてNPOや研究者などの協力を得て隠されてきた実態を掘り起こしたすぐれた報道番組だ。かなり長い文章になるが内容をくわしく紹介したい。その上で今回の報道が持つ意義について論考したい。 

 まず、この番組は性暴力などの被害を受けた当事者から支援団体や研究者らが1年がかりで聞き取った膨大なデータを基にしている。つまり、番組の中核は、番組制作者が当事者にインタビューしたのではなく、支援者や研究者が行った聞き取り調査結果そのものなのだ。結果はぶ厚い書類になっているが、その一つひとつの事案は悲痛なものだ。

避難所のリーダーに、「(夫を亡くして)大変だね。タオルや食べ物をあげるから、夜◯◯に取りに来て」と言われ、取りに行くと、あからさまに性行為を強要されました。(震災で夫を亡くした女性)

仮設住宅にいる男性がだんだんおかしくなって、女の人を捕まえては暗い場所で裸にする。周りの人も、“若いから仕方がないね”と、見て見ぬふりをして助けてくれませんでした。(20代女性)

複数の男性に暴行を受けました。騒いで殺されても、海に流され津波のせいにされる恐怖があり、その後、誰にも言えませんでした・・・。(避難所で性暴力を受けた女性)

出典:NHK「クローズアップ現代+」番組ホームページ

 同じような被害体験は2011年の東日本大震災をきっかけにスタートした24時間対応の電話相談窓口「よりそいホットライン DV・性暴力相談」にも寄せている。電話は24時間ずっと鳴りっぱなしで半分以上が性被害。相談件数は年間5万件に上るという。

「レイプ」「極限」「打ち明けたい」「苦しい」「怖い」「悲しい」

 画面には相談員が記した手書きのメモが映し出される。文字が生々しい。

被災地の性暴力の問題が浮かび上がったのは25年前の阪神淡路大震災

 阪神淡路大震災に被災した神戸などの被災地で性暴力のケースが報告されていた。避難所や仮設住宅などで女性や子どもたちが様々な性暴力のリスクにさらされていた。番組では、この頃からそうした声に耳を傾けてきたNPO法人「うぃめんずネット・こうべ」代表の正井禮子(まさい・れいこ)さんの活動を軸にして実態を描いていく。

 正井さんが直面したのは、被災で仕事が思うようにいかない夫からはけ口のようにドメスティック・バイオレンス(DV)を受けていても、周りは焼け野原で家から出て行っても他で暮らすことができないと泣き崩れる女性たち。被災した女性が近所の男性に「抱かせろ」と言われて性暴力の被害にあった話を聞かされた時もすごくショックを受けた。その場にいた支援者の女性が「あなた、それ警察にすぐ届けたの?」と詰問するように言ったという。

 被害者の女性はそれに対し、

「そこでしか生きていけない時に誰にそれを語れというんですか?」

と答え、ツーっと一滴の涙をこぼしたという。

「今度、もし大きな災害が起きた時には二度と同じようなことが起きないように発信しなければならない。」

 正井さんはそう決意したと話す。性暴力の被害を訴える声は正井さん以外の支援者にも届いていたが、ほとんどの被害者が警察には届け出ずに泣き寝入りしたという。

(正井禮子さん)
「たぶん当事者は声をあげられないと思った。そしたら、性暴力は許さないんだと私たちが声をあげるべきだと思ったの。」

 神戸市に性暴力の調査をして欲しいとお願いに行っても、調査する予算も何か実態があった場合に対応する予算もないと言われた。そこで正井さんは阪神淡路大震災の翌年から「被災地での性暴力」の問題をアピールして街頭でのデモ行進するなどの活動を始めた。

週刊誌メディアで「レイプ多発」というセンセーショナルな形で報道された

 それでも実態を伝える流れだったのが、しばらくすると報道の流れが正反対の流れになった。

 「レイプ多発」がデマだという週刊誌報道が増えたのだ。

被害の証拠はない、「レイプ多発」は“虚報”、などと真逆の報道が増えていった

 さらに性暴力被害を伝えることが当事者への「セカンドレイプになっている」「なかったことにした方が当事者のためだ」と正井さんたちが批判の矢面に立たされるようになったという。

 1996年当時のことだが、この2,3年の間に日本社会で起きた財務省事務次官によるテレビ朝日女性記者へのセクハラや元TBSワシントン支局長による伊藤詩織さんへ性暴力のケースを見ても、結果的に被害を告発した側を攻撃して黙らせるような圧力はその後の時代にもなくなっていない。

正井さんも災害時の性暴力について口を閉ざすようになった

 しかし2004年のスマトラ島沖巨大地震が正井さんにとって転機になった。

 この時にも被災地で性暴力の被害が深刻化したが、スリランカの女性団体が避難所の性暴力の問題に立ち上がった。そのニュースを伝える小さな新聞記事を見つけたのだ。女性団体は自主的に実態調査を行って国に対策を求めたという。

 この頃から世界各国で性暴力撲滅を求める声が高まって勢いを増していた。国連総会でも女性に対する暴力の撤廃に関する宣言がグローバルな課題として採択された。

女性たちが声をあげて災害時の性暴力被害の解消を国などに訴える運動が世界で広がっていた

(正井禮子さん)
「女性たちはきちんとそのことを調査して国にまで持って行った。それを見て私はものすごい勇気づけられて、私たちも(阪神淡路大震災から)ちょうど10年経つのでこれまでの災害を女性の視点から検証することをやらないかと声をかけたら、みんなやろうやろうとなった。」

正井さんは再び声をあげ始めた

 正井さんは女性や地域の防災をテーマにした集会などに参加し、再発防止や支援の必要性を積極的に発言するようになった。

2011年3月、東日本大震災の被災地でも性暴力などのリスクを察知する人たちがいた

 東日本大震災の直後には日本中で47万人が避難所生活を余儀なくされた。福島県で最大の避難所のひとつ、福島県産産業交流館「ビッグパレットふくしま」で県職員として避難所運営責任者を務めていた天野和彦さんは3000人の避難者がごった返す生活の中で女性たちが恐怖を募らせていることを認識していた。酒を飲んだ男性が若い女性の隣にごろんと横になったり、女性がトイレに行く時に後をついて行く男性もいたという。

 福島県だけでなく岩手県でも性暴力被害のケースがあった。もりおか女性センター長だった田端八重子(たばた・やえこ)さんは東日本大震災前に正井さんの講演を聞いていたことから、かつての神戸と同じことがこの震災でも起きるのではいかと危惧していた。

 避難所などに支援物資を届けながら、女性たちの相談に応じているうちに女子高生から学校の帰りに車が横付けになって2人の男に車に引きずりこまれそうになったという友人がいるという話を聞いた。たまたま自転車で通り掛かった男性がいたため、拉致は未遂で終わったという。震災後、新聞記事には被災地の女性が性暴力やDVを受ける事件が相次いでいた。

 番組が映し出した記事の映像では「避難所倉庫で」「強姦致傷」「強盗」「ナイフで脅して乱暴」「停電に乗じ乱暴」「仮設で縛られ」「内縁の妻死亡」「監禁致傷」などの見出しが映し出される。

(田端八重子さん)
「正井さんが言ってらっしゃったことはここまで起こるかと。震災と性暴力というのは(関係)あるんだということを思っておかなくてはいけないということがはっきりした。」

 田端さんは国の暴力防止を推進する担当部署に電話した。担当部署である内閣府男女共同参画局の暴力対策推進室長だった原典久さんは「我々としてはあまり考えたことがなかったといいますか、私自身は深く認識した事はなかったです。」と正直に話す。

(原典久・内閣府暴力対策推進室長=当時)
「これは大変なことになるといろいろな声を聞いて、そこで気付かされてとにかく早めに動こうと。」

 内閣府は緊急の電話相談事業の立ち上げを決定して予算を捻出した。

デリケートな相談をしにくい避難所の問題点

 原さんは田端さんの誘いで避難所を視察した時に目にした光景に驚かされた。大勢の人たちが隣り合って電話を掛け合い、プライバシーというものがない。電話器が置かれていても周囲に大勢の人がいるので性被害などの相談電話をかけられるような状況にはなっていなかった。

 被災地の現場では支援者たちがそれぞれ状況の改善に取り組んでいた。

 宮城県で長年、性暴力やDVの問題に取り組んでいるNPO法人「ハーティ仙台」代表の八幡悦子さんは、女性が避難所などで男性に気圧されてなかなか声ををあげにくい状況を把握して、一策を講じたという。女性向けの支援物資の中に相談窓口の連絡先を記したカードを忍ばせたのだ。特に女性の下着などとセットにして女性だけの手に渡るように工夫を凝らした。

 また福島県で最大の避難所だった「ビッグパレットふくしま」でも運営責任者の天野和彦さんが女性の被災者のために心を砕いていた。赴任して数日後に女性たち5、6人が責任者に会いたい、とやってきて「私たち、毎日が恥ずかしいんです」と言ったという。「私たちには着替える場所がない」と言う。

女性だけの専用スペース

 女性が安心して過ごせる場所が必要だと感じた天野さんは女性専用のスペースの設置を決定した。一部の男性からは不公平だという反対の声もあったが押し切った。倉庫に使っていた場所を活用して「女性専用スペース」をつくった。日本で初めての取り組みだった。着替えや授乳だけでなく、悩み事や相談の場としても活用されていった。地元で女性の支援活動に取り組んできたベテラン相談員が常駐するようになった。介護や子育てなどの悩みも腹蔵なく話せる空間になって「女性の専用スペース」は「女性たちの人権を守る砦」(天野氏の言葉)になっていった。

くわしい対応策が描かれたドキュメンタリー

 このドキュメンタリーが優れている点は、この天野さんや八幡さんが女性のために工夫した点などのディテールがきちんと描かれているところだ。当時の映像があるわけではない。あるのは本人のインタビューと当時の写真だけ。それでも状況は伝わる。内閣府の官僚や自治体、NPOなど様々な関係者が知恵を絞って「女性たちが居心地のいい避難所」や「プライバシーを守れる相談場所」に心の配っていたことがわかる。

 「神は細部に宿る」というのは特にドキュメンタリーの制作において鉄則と言ってもいい掟だが、こうしたディテールを番組で描くことで当時の関係者の思いや動きが手に取るようにわかる。すぐれたシーンだと評価できる。

 内閣府が予算化した電話相談事業は、岩手、宮城、福島と順繰りにスタートし、臨時の受付拠点は11か所となった。様々な場所からアクセスできる体制をつくった。内閣府もスーパーの建物の中に相談室を設けたり、「相談しやすい環境づくりに心を砕いた」(内閣府の原さんの言葉)。

 その頃、神戸市のNPO法人「ウィメンズネット・こうべ」代表の正井禮子さんの元にミシガン大学教授の吉浜美恵子さんから電話が入った。本格的な調査を行い、国に対策を求めるべきだと助言する電話だった。

「東日本大震災で阪神淡路大震災と同じようなことが起きると思うから、今度は本当に流言飛語と言われない、本当に信ぴょう性のあるデータを集めようよ。」

 女性たちにとって社会がよりよいものになるための調査をしよう。社会を変えるために協力してほしい。正井さんたちのそんな呼びかけに全国の支援団体や研究者らが賛同していった。

 このドキュメンタリーがさらにすぐれている点は、この問題が単に女性の人権を侵害する性被害が深刻だという捉え方だけにあるのではない。この問題が「防災」にとっても重要だという捉え方をしている点だ。

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