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池袋ラブホテル殺人事件 犯行に何の意図もなかった被告人の怖さ

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裁判傍聴芸人の阿曽山大噴火です。今回傍聴したのは2019年9月、東京都江東区に住む女性(36)が殺害された事件で嘱託殺人の罪に問われた大東文化大四年の北島瑞樹被告人(22)の初公判と第二回公判です。起訴状によると、同年9月12日豊島区池袋のホテルで女性の依頼を受け、首を絞めて殺害したとされます。

事件発生から逮捕までの1週間。殺害現場がラブホテルだったこともあり、事件について様々な憶測が流れましたが、起訴は嘱託殺人罪でした。ちなみに警視庁は殺人容疑で逮捕しています。

教員試験に絶望 自殺志願者を探すように


初公判は12月2日。傍聴券22枚に対して80人が並びました。被告人は罪を認めています。検察官の冒頭陳述によると被告人は前科がなく現在も大学生。大学側は判決待ちで、自主的にやめない限りはまだ大学生です。

被告人は両親と同居。教員採用試験の結果が悪かったことが原因で、去年7月中旬にTwitterで自殺志願者を探していました。自分も死にたいと思い3〜4人を殺害してから自殺を考えていたそうです。自殺志願者を殺害した後、遺体の臭いを抑えるための圧縮袋と放置するための廃墟を探していました。

TwitterのDMでは、今回の被害者以外に二人と連絡を取っていましたが、この二人は待ち合わせ場所に現れませんでした。そのため被害者は一人です。被告人は一人で池袋のラブホテルに入り、殺害した後に両足首をロープで縛り、遺体をシーツで包んでから圧縮袋に入れました。

被告人は持参したスーツケースに被害者の遺体を入れて、廃墟まで運ぼうと考えていたのですが、意外と遺体が大きかったためスーツケースに入りませんでした。そのため仕方なく部屋に置いていったと。被害者の所持品を持ち去ったのは、バレるかもしれないという心理からでした。

被害者を殺害したのは9月12日。被告人は、リュックサック、帽子、ガム、タオル、圧縮袋、ロープ、軍手、数字の形をしたろうそく=ナンバーキャンドルを持っていました。気になるのはナンバーキャンドルです。「なんで?」と疑問でした。ナンバーキャンドルの話題はこの後の被告人質問で少し出ます。被害者のスマートフォンには「この国は安楽死がないので、ここでやります」という内容が書いてあったそうです。

被害者の父親は、「娘は大腸の病気で病院に行っていた」と証言。遺書の存在は知りませんでした。辛い日々も多かったけれど、「死にたい」と話す時は妻と二人で娘に向き合っていたと話しています。被告人は、被害者の首を絞めて殺害していますが、被害者の父親は「一瞬たりとも迷いはなかったのか」と疑問を呈し「極刑を望みます」と主張しています。

取り調べに対して被告人は、高校時代の演劇の先生が憧れの存在だと語っています。国語も教えていた先生で「先生になろう」と思い、大学でも教員になるためのコースを選択。2018年6月3日〜21日には教育実習生として学校に行きました。実習は終わりましたが、生徒達とコミュニケーションが上手くいかず「向いていないのかな」と本気で悩んでいたそうです。

7月14日に教員試験を受けましたが、結果を見るまでもなく不合格だと思い込んでいたようです。「これはダメだ。死ぬしかない」と考えて、教員試験を受けた7月にTwitterで自殺したいという人を発見。「殺してあげますよ」とDMを送るとどうなるのか気になったと。「私は一人で死にますから」という人がほとんどの中「殺してください」と返す人もいて驚いたといいます。被告人はDMを送っていく中で、「自殺する勇気が出ない人を殺して楽にしてあげたい。そして自殺したい」と考えていました。10人も20人も殺すことはできないけど、3〜4人ならいけると。

TwitterのDMで被害者と殺害方法を決めた

被告人と被害者とのやり取りです。

8月中旬、被害者から「ツイート見ました。私を殺してくれませんか?」というDMが被告人の元へ届きました。その後「殺し方はどうしますか?」「ナイフや包丁で刺すと記憶に一生残るので首締めでいいですか?」など、恐ろしい内容のDMを冷静にやり取りしています。

殺害場所もTwitterのDMで決めています。被害者から「人目につかない場所、きれいな場所」をリクエストされたためラブホテルになりました。被告人は被害者を殺害した後、池袋の廃墟に遺体を隠し、その後自殺するつもりでした。

事件当日です。被害者は予定通りに現れ、部屋に入って来るなり「(腸の病気なので)立っているのも辛いです。横になりたい」と。被告人は「じゃあ楽になるまで待ちますか」と提案し、被害者の体調が回復するまでお腹をさすってあげていました。

この後死ぬ予定なのに不思議なやり取りです。アベコベというか。被告人はここで少しビビっていたんですね。「マジで殺すの?」みたいな。でも被害者は「殺してください」と言っています。

被害者は横になった後トイレへ行き、30〜40分戻って来ませんでした。その間に被告人は睡眠薬を用意。自分で飲むために用意したものですが、被害者に飲ませて寝ている間に逃げようと考えていました。ただ自分が逃げても被害者は自殺するので、警察が調べた時に自殺幇助で取り調べを受けるのではと考えました。そこで被害者がトイレから出た時に「証拠になるのでお互いのTwitterを消しましょう」と持ちかけ、アカウントの削除かDMの削除をしたようです。

ただ、被害者に睡眠薬を飲ませようにも飲ませるタイミングがありませんでした。やらざるを得なくなり殺害を決行しますが、逮捕されるまで約1週間かかっています。

被告人はニュースで報道されていた帽子とリュックを処分。ノートと遺書が入った封筒は警察にバレた時に「被害者が自殺したがっていました」と主張するための証拠として自宅で保管していました。ここまでが初公判の内容。なかなか濃い事件です。

謎が残った所持品のナンバーキャンドル

Getty Images

続いて1月28日の第2回公判です。この日は証人尋問から行われました。

被告人の父親が出廷し「とにかく会話はしている方だと思った。一人息子で家族3人で普通に生活していて、殺人とか暴力的な趣味も全くありませんでした。教師になることも知っていましたけど、落ちたかどうかは知らなかった。悩みは聞いていると思っていました」と述べています。

よくある家庭なのかもしれません。そんなに甘ったるいことを話している印象もありませんでした。ただ面会に3回行って3回とも被告人に断られ、9月の逮捕以来、約4ヶ月ぶりに会えたそうです。厳密に言えば初公判の時にもいたんですけどね。「家族で一生かけて償っていくしかないと思っています」とも話していました。

被告人質問です。まずは弁護人から。

弁護人「自殺志願者を殺すきっかけはなんですか?」
被告人「はっきりと言えるかわからないんですが、偶然Twitterで自殺志願者のアカウントが多いと思いまして、力になれるかなと思いました」
弁護人「それはどういう意味ですか?」
被告人「死にたいのであれば手伝えればなと」
弁護人「それはいつからですか?」
被告人「はっきり分からないんですけれど、6月に教育実習があって自分には向いていないと感じました。結果が出る前にダメだろうと思っていたので自分も死にたいと考えて、Twitterで死にたい人を見るようになりました」

「はっきりと言えるかわからないんですが…」と言うのが被告人の口癖なんですよ。正確に話そうという気持ちもわかるけれど、まだ考えがまとまっていないと言うのは…。弁護人はこの後いきなり事件について質問します。

弁護人「先にラブホテルに入って被害者を待つ間、何を考えていましたか?」
被告人「逃げ出したい気持ちと、本当に来てしまってやめたい気持ちです。だからどっちかと言うとやりたくありませんでした」
弁護人「なぜ逃げたいと思ったんですか?」
被告人「実際に手をかける行為をすると思うと恐ろしくて、現実的な考えになりました」
弁護人「被害者がホテルに来た時の様子はどうでしたか?」
被告人「来た時から立っているのがやっとですぐ横になっていました」
弁護人「被害者が自殺をしたい理由を聞いていましたか?」
被告人「病名は聞いていませんでしたけど、『腸の病気で延命処置を受けたくないんだ』と話していました。後はDMでやり取りしていたことの確認です」
弁護人「何分くらい首を締めていたんですか?」
被告人「具体的に時間を計ったわけじゃないので分からないですが、10分〜15分くらい締めていました」
弁護人「被害者を殺害した後、手順通りに圧縮袋に遺体を入れる。その時に数字の形をしたナンバーキャンドルを持っていましたよね。取り調べでは袋に入れるためと言っていましたが、これはなんの意味があるんですか?」

初公判で明かされた所持していたナンバーキャンドルについてです。意味ありげですからね。何かの儀式的な意図があるのかと思いきや、弁護人の質問に被告人の答えは「うーん、はっきり覚えているわけではありませんが…」とまたこの一言。「買う段階では、なんとなくそういう使い方もできるかなと思って…」と、全く意味がわからないんですよ。この件に関しては検察官も聞かなかったので謎のままです。

被告人「(遺体を入れるための)スーツケースは普段自分が使っているものです」
弁護人「女性の大きさは確認していたんですか?」
被告人「測ってはいませんでしたけど、大きなスーツケースなので入るかなと思っていました。しかし実際は入りませんでした」
弁護人「被害者を殺害した後、別の自殺志願者と会う予定はあったんですか?」
被告人「なかったです」
弁護人「やり取りはしていたんですか?」
被告人「していません。殺害後はしていないです」
弁護人「なぜですか?」
被告人「被害者に手をかけて怖くなったので、アカウントはすべて消しました」
弁護人「あなた自身は自殺しようとしたんですか?」
被告人「ずっと思っていたんですが、実行できませんでした。ニュースを見て自分が捕まるのは時間の問題だと思っていました」

「自殺志願者の言う通りにすることがその人のためだと思った」

ここで弁護人からの質問は突然、犯行動機に戻りました。

弁護人「あなたは教員試験に落ちたことを両親に伝えていましたか?」
被告人「伝えていなかったです」
弁護人「なんて言っていたんですか?」
被告人「『受かった』とウソをついていました」
弁護人「なんでウソをつきましたか?」
被告人「教職へ進むために大学へ通ったので、正直なことを言うのをためらいました」

よくある話なんですかね、親の顔を見て機嫌を伺いながら生きてきた人なのかという印象でした。

弁護人「教員を諦めようとは思いませんでしたか?」
被告人「教職を辞退することは考えましたが、両親がいる手前それができませんでした」
弁護人「さきほどお父さんが情状証人で出廷しましたけど、面会を断ったのはなぜですか?」
被告人「合わせる顔がないというのが一番の理由です」
弁護人「被害者の両親がどう思うかを考えていましたか?」
被告人「正直そこまでは考えていませんでした」
弁護人「被害者のお父さんに言いたいことは?」
被告人「一言では言えませんけれど、迷惑をかけて申し訳ないと思っています。お母さんにも申し訳ない気持ちです」
弁護人「社会復帰をした後、両親に正直な気持ちを話せますか?」
被告人「そういう機会があればいいと思いますけれど、踏ん切りがつかないです」
弁護人「まだ面会を断っていますね。保釈請求をしようと思いませんでしたか?」
被告人「思いません。保釈請求したところで両親の元へ行かないといけなくなります。一人で考える時間が欲しかったというのもありました」

弁護人「一人で考える時間は結構ありましたけど、考えはまとまりましたか?」
被告人「言い訳がましいことを言いたいわけじゃないんですけれど、自殺志願者とやり取りする中で手伝いたかった、役に立ちたかったという気持ちが強くありました」
弁護人「自殺したいと悩んでいる人がいっぱいいて、殺す以外の役の立ち方ってありますよね、他の方法は考えなかったんですか?」
被告人「考えてはいたんですけれど、はっきりこうだという考えは出ていないです」
弁護人「Twitterで死にたいって言っている人は、全員本気で死にたいと思っているんですかね?」
被告人「最初は向こうも軽い気持ちだと思っていました。やり取りしている中で、本当に思っている人もいるんだなとわかりました」
弁護人「今後ですけれど、こういうことはもうしませんか?」
被告人「うーん…逮捕された状況もあるし、自殺志願者の言う通りにすることがその人のためと思っていたんですけど、必ずしもそうではないことがわかりました」

またやりそうな雰囲気も漂う遠回しな言い方なんですよね。

弁護人「他の救い方ってないですか?」
被告人「分からないですけど、具体的なものがないので時間をかけて考えたいです」
弁護人「遺族に対しては?」
被告人「申し訳ない気持ちです。本人が自殺を志願していたとしても、残される両親の気持ちを考えられませんでした。突然、他人に命を奪われたということだと思いますので」
弁護人「被害者を殺すことで悲しい思いをする人がいるとは考えなかったですか?」
被告人「周りがどう思うかまで考えられませんでした。責任は私にあると思います」
弁護人「でも人を殺すのは犯罪じゃないですか。それを分かっていて殺害したのはなぜですか?」
被告人「Twitter上でやり取りしていた人が目の前に来て『楽にしてください』と頼まれたので力になってあげたいと」
弁護人「今後、『私を殺してください』と言う人があなたの前に現れた時、自殺志願者の願いを叶えてしまうんじゃないですか?」
被告人「はっきりしたことは言えないですが、周りで悲しむ人が出ると実感できたので、そこはちゃんと考えていきたいと思います」
弁護人「これは意地悪な質問ですが、身寄りがなくて『殺してください』という人が来たらどうしますか?」
被告人「うーん、はっきりわからないですけど、まずは冷静に話を聞くところから始めるのかな」
弁護人「話を聞いた後に殺してしまうんですか?」
被告人「当然それは選んではいけないという気持ちがあるので選ばないと思います」
弁護人「『思います』ではなくて、ここで誓ってください」
被告人「インターネットを通して、自殺志願者が目の前に来たとしても幇助をすることは選ばないと誓います」

ここで弁護人の質問は終わります。

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