- 2020年03月03日 18:14
原発事故から9年、放射能や原発の実態は
1/22011年3月11日に発生した福島第一原子力発電所事故。あれから、この3月で9年が経とうとしています。この9年、メディアでは徐々に「復興」というポジティブな面にスポットが当てられ、人々から少しずつネガティブな記憶が薄れていく一方で、目に見えずにおいもない放射能と、原発事故による課題は確実に存在し続けています。福島第一原発事故を検証し、実態を伝えるメディアを運営する団体に話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)
福島第一原発事故の国際評価レベルは最悪の「レベル7」

2011年3月11日に起きた福島第一原子力発電所の事故を検証し、原発事故の実態をできる限り事実に即して伝えるメディア「Level7」を運営する一般社団法人 原発報道・検証室。
代表の明石昇二郎(あかし・しょうじろう)さん(57)は、1987年に青森県六ヶ所村の核燃料サイクル基地計画を取材して以来、ルポライターとして原発問題をライフワークとしてきました。

「大事故の発生から9年が経った今もなお、事故で漏れ出した放射性物質や放射線による健康への影響や、自然環境への影響に関する情報をはじめ、原発事故発生当初の状況や避難を強いられた方々の現状など、事故による被害を過小評価させるための嘘の情報が蔓延しています。政府や東京電力が率先して過小評価し、あるいはひた隠しにして、メディアも報じていない事実が山ほどあるのです」と明石さん。
「原発事故について報じられることも少なくなってきました。もう終わったことにしたい人もいるのでしょうが、残念なことに原発事故は終わっていません。『Level7』は、事故現場をはじめとしたさまざまな現場で今、何が起きているのかを多角的に検証し、発信するサイトです。事実を正確に知ることこそが、事故の風化と再発を防ぐことにつながると確信しています」
サイト名である「Level7」は、福島第一原発事故が、原子力施設事故の深刻度を示す国際原子力事故評価尺度(INES)で最も深刻な事故であることを示す「7」に認定されたことから名付けられました。
「評価レベルは軽いものから順に0〜7の8段階で、その中で『7』は最悪のもの。レベル7に認定されたのは、1986年に発生したチェルノブイリ原発事故に次いで世界で2例目です」
メディアでは報じられない「タブー」

明石さんをはじめとして、「Level7」で記事を執筆する7人のメンバーは、いずれもテレビや新聞、雑誌といったメディアの第一線で活躍している方たちです。しかし「原発に関する報道にはタブーがある」と明石さんは指摘します。
「私自身も、福島第一原発事故を受け、ある新聞社からの依頼で書いた原稿について『この表現は削除したい』と言われたことがありました。あくまで事実を書いた記事でしたので『それでは原稿を引き上げます』と伝えたら、そのまま載せてくれたのですが…」
「どこまでやるかは人それぞれですが、ジャーナリズムの現場では、事実を伝えるために譲れない一線は『譲れない』と主張し、闘わないといけないところがあると思います」
では、なぜメディアは事実を報じようとしないのでしょうか。
「大事故が起きる前のテレビでは、電力会社のCMがバンバン流れていましたよね。今でこそ少なくなりましたが、マスメディアにとって電力会社は今も巨大なスポンサーです。だから、電力会社を真正面から批判するような報道はタブーになりがちです。そんな事実も踏まえ、どこまでならばマスメディアで情報を発信することができるのかを、私たちも散々試してきました」

「『Level7』のメンバーは皆それぞれ、原発に対して批判的な視点を持っている方々です。福島第一原発事故が起こる前から原発の問題を取材し、事実に基づいて原発への警告を発信してきましたが、福島第一原発での大事故を食い止めることはできなかった。原発事故後、若干タブーが薄れた部分もあると感じてはいますが、自分たちがもっと上手に、そして効果的に原発の危険性を伝えることができていれば、福島での事故を防げたのではないかという忸怩たる思いもあります」
「皆さんの役に立つ仕事でなければ、それはジャーナリズムとはいえないのではないでしょうか。しかし、ことにこの原発の問題についてはそれができていなかった。事故が起きてしまった事実は変えることはできませんが、事故の事実を検証し伝えていく活動は、今後も大事だと感じています」
3月11日、福島第一原発で何が起きたのか

2011年3月11日、福島第一原発で一体何が起きたのでしょうか。
「はっきりとは解明されていませんが、地震と津波によって発電所の電源が途絶え、原子炉がコントロールできなくなったことが事故の原因だといわれています」と明石さん。
「地震発生時、最初に地震の揺れによって、発電所に電源を送る鉄塔が倒れ、電源が絶たれました。非常用のディーゼル発電機が立ち上がるはずが、津波が押し寄せたことですべての電源が途絶えてしまったのです。『ステーション・ブラックアウト(全電源喪失)』と呼ばれる状態に陥り、高熱になっていた核燃料を水で冷やすことができなくなってしまいました。原子力発電は、核燃料で水を熱し、発生させた蒸気でタービンを回して発電します。福島第一原発事故では、電源が失われた後、原子炉内を冷却できなくなり、核燃料がどんどん過熱していったのです」
「その結果、核燃料はどろどろに溶けてしまいました。これが『炉心溶融(ろしんようゆう)』です。そのため、放射性物質を封じ込めておくことができなくなり、空や海に向け、甚大な量の放射性物質が漏れ出しました」
- オルタナS編集部(若者の社会変革を応援)
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