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『Facebookは危険』で済ませてしまっていいのか?

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Facebookの凋落?


ここのところソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)各社は、 LINEのような一部例外を除くと、おしなべて精彩を欠く印象があるが、中でもFacebookに係わる報道は、ネガティブなものばかりが目に付く。先日発表された上場後初の四半期決算の結果も芳しくなく、市場には失望感が広がり、株価はまたしても最安値を更新することになった。FacebookのようなITジャイアントは、ビジョンや経営がしっかりしていれば、短期損益に一喜一憂する必要はない、というのが昨今の大方のコンセンサスではある。だが、最近のFacebookの場合、その『根幹』に関わる変質が起きているのではないかとの懸念もあり、関係者ならずとも気になるところだ。


株価以上に日本のFacebookユーザーを驚かせたのは、先頃発表された米国 American Customer Satisfaction Index(ACSI)の最新の調査の結果だ。何と、米国において利用者の満足度が最も高い SNS は Google+、最も満足度の低いサービスは Facebook だというのだ。日本では特にここ最近で急速に普及が進んでいるFacebookだが、年齢構成で見ると40歳代を中心に利用が進んでいるとの調査結果もあり、『Facebookは初めてのSNSで、よくわからないけど、周囲にすすめられて、おっかなびっくり始めた』という人や企業も少なくないはずだ。それが、いきなりこんな結果を見せられれば、冷や水を浴びせられたような気になるのも無理はない。

ニフティとコムニコ、「Facebook」利用調査を実施 |ニュースリリース|ニフティ株式会社:ニフティとなら、きっとかなう。


米国では、これを機会にGoogle+がFacebookを逆転するのではとの気の早い意見もあるようだが、少なくとも日本ではこれに同意する人はあまりいなさそうだ。少なくとも私の周囲ではGoogle+を使っている人をほとんど見かけないし、さほど普及が進んでいるという情報もない。しかも、Google+がプライバシー保護に優れているという評価にも違和感を感じずにはいられない。プライバシー問題という意味では、Facebook以上に様々な問題を引き起こしてきたのがGoogleだからだ。だから、日本では、SNS全体に腰が引けてしまう大人(40歳以上)の数が増えるかもしれない。



確かにリスクは拡大してみえる


現実問題、Facebookは、ユーザーの母数が拡大するにつれて、リタラシーに欠けるユーザーが増えてきた結果、必要以上にプライバシーを公開したり、気が緩んでいるとしか思えない迂闊な発言が問題を引き起こすようなケースも増えてきているし、そのようなユーザーを狙ってなりすましやIDやパスワードを不正に取得するようなサイバー犯罪も増えている。*1


しかも、このような会員急増に伴う副作用や必要悪とも言える現象だけではなく、最近のFacebookは、新しい仕組みを導入したはいいが、いきなりユーザーから強い非難や反発をあびて提訴されたり、即刻その機能を閉じてしまうようなことが相次いでいる。例えば、こんな感じだ。


まず24日に明らかになったのが、自分の近くにいるユーザーのリストが表示される「Find Friends Nearby(付近の友達を検索)」という機能。これには「プライバシーの侵害だ」「ストーカー行為を誘発する」などの批判が相次いだ。さらに、すでに同様のサービスの提供を開始していたフレンドゼム社が、アイデアを盗まれたとして訴える構えを示した。この機能は26日朝までに削除された。

これと前後して、ユーザーのプロフィル画面にあるメールアドレスが、ユーザーネームに「@facebook.com」を付けたアドレスに突然書き換えられた。簡単な操作で元のアドレスに戻すことはできるが、これに対しても批判が続出している。

<フェイスブックに何が起きている? 新機能連発に批判の声(CNN)> What’s really, truly going on with Facebook? | Hashigozakura




ちょっと自分で調べていただければ、すぐにわかることだが、過去に遡っても見ても、Facebookは『プライバシーに関するトラブルメーカー』と言ってもいいくらい、次から次へとプライバシーや情報漏洩に関する物議をかもしてきている。このようなことが積もりに積もって、米国では、Facebookは最も満足度の低いSNS、という評価を受けてしまっているとも考えられる。(もちろん、それ以外にも、インターフェースがひどいというような理由も多い。)これでは、従来の企業の常識で言えば、Facebookだけではなく、SNS自体からの撤退も視野にいれるべきという意見が優勢になっても不思議はない。特に、過半数はSNSの利用経験を持たない40歳以上=企業経営層の間には、企業でのSNSの利用や導入を見直すのはもちろん、社員のSNS利用にもあらためて制限をかけようとする動きが広がることにもなりかねない。


だが、それは本当に正しい経営判断なのだろうか。



ザッカーバーグ氏の信念


ちなみに、Facebookは、どうしてこれほどの批判や避難をあびながら、それでも、プライバシーに関するトラブルメーカーであることをやめないのだろうか。こうなると思い当たるのはFacebookの最高経営責任者(CEO)である、マーク・ザッカーバーグ氏の『信念』だ。それは、今回の株式公開にあたって、米証券取引委員会(SEC)に提出された申請書類に添付された手紙にもはっきりと表明されている。これを読むと、あらためて彼の経営理念の背景にある『思想』『信念』に思いを巡らせないではいられない。

企業文化は「ハッカーウエー」、速く・大胆に・オープンであれ  :日本経済新聞



以前から指摘されていたことではあるが、ザッカーバーグ氏は、情報の透明性についての信念、すなわち『情報が透明になればなるほど世の中はよくなる』という信念を持つと言われている。そして、Facebookは、その信念を具現化するツールというわけだ。


Facebookが実現しようとしているソーシャル・グラフには、巨大なビジネス上のポテンシャルがあることは誰しも認めるところだし、だからこそ、検索でインターネット業界のトップに立ったGoogleもFacebookに覇権を譲る日は近いと誰もが考えるようになった。誰より、当のGoogleが、何度失敗しても執拗に自社のSNSの構築と普及にこだわっている。そして、そのビジネス上の巨大なポテンシャルを求めて、Facebookの周囲には『旧来のビジネスマインド』を持った人たちが殺到した。



日本のデジタルネイティブとの共通点


だが、ザッカーバーグ氏の手紙を読むと、本人は経済的な利益に対しては実に恬淡としていて、それよりも、『ハッカーの自由』『情報の透明性の実現』等をより重視していることがはっきりと感じられる。もちろん、どこまでそれが強い信念なのか、どうしてそういう信念を持つに至ったかを知るには、この手紙だけでは足りないが、それでも、一般人にとっては目のくらむような経済的な利得より(それを軽視しているとまでは言えないまでも)、自由とオープンを求める環境の実現の方を重視していることは伝わってくる。そんなものは、建前に過ぎないと『大人』は言うかもしれない。だが、生まれたときからインターネット環境に囲まれていた、いわゆる『デジタルネイティブ』と呼ばれる日本の若者の性向と比較しても、ザッカーバーグ氏の言動には明らかに類似点がある。インターネットを水や空気のように感じて育った世代は(どういう理由かを言い当てるのは難しいが)、どういうわけか国を超えて同様の『価値観』を共有していると言っていいように思える。



ザッカーバーグに似る『はてな』の近藤社長


『はてな』を起業して、一世を風靡した近藤淳也社長も、当初、徹底した社内の情報共有と極端なオープンさで話題を読んだことは記憶に新しい。当時、『はてな』では、プライベートな出来事や、本来秘密にすべきプロジェクトや人事情報まで事細かに共有されていると言われていた。『情報の私物化禁止』とまで標榜していた。そして、近藤社長も、ザッカーバーグ氏と同様に経済的利益については実に淡白で、株式上場による創業者利益を得るチャンスに恵まれているのに、まるで興味がないかのような振る舞いは周囲の大人を驚かせていたものだ。『デジタルネイティブ 時代を変える若者たちの肖像』*2という本にこの辺りの事情が書かれている。



近藤さんの口癖に『人間の暮らしを変えるようなサービスを展開したい』というものがある。きれいごとのように思えるかもしれないが、近藤さんの行動や、はてなの組織運営は、すべてこの思いを達成するために行われているといっても過言ではない。『日本発の世界標準をつくり、世界の人々の暮らしに影響を与える』という、いつかなうかもわからない壮大な目標が、『株式上場すると数十億円』という創業者利益を手に入れるという現実を、やすやすと上回るのである。 同掲書 P70



取材実感として、近藤さんだけではなく、デジタルネイティブたちは総じて物資的な欲が少なく、自分が好きな道を追求する傾向が強いように思う。だとすれば、経済至上主義の果てにいつしか社会を覆い尽くしてしまったこの閉塞感を、デジタルネイティブたちこそが打ち破っていく可能性を持っているのではないか。  同掲書 P72




合致しないスタイル


昨今の『はてな』はこの当時ほどの破竹の勢いはなく、最近の近藤社長もここまで徹底しているかどうか私は知る立場にはないのだが、少なくともこの時点での近藤社長は、『手紙』から感じられるザッカーバーグ氏と非常に似ている。ただ、この二人も起業家として語ることを求められれば、このような社会改革を壮大に語ることにもなるのだろうが、おそらく、彼らを含むたいていの『デジタルネイティブ』はそのような使命感に突き動かされているというより、自分の自然な生き方やスタイルを続けていきたいと感じているだけなのではないか


日本でも米国でも、従来の会社組織には、その組織のあり方や、それを前提とした働き方、人生設計等、あらゆる点で、『デジタルネイティブ』にっては、不自由で不合理で、自分たちのスタイルにはまるで合致しないと考えてしまうような環境が今でも濃厚に残っている。『デジタルネイティブ』が、自分たちが、自分たちらしく、今まで馴染んできたやり方で働きたいと思ってそれを口にしただけで、旧来の会社/組織/慣習しか知らない『大人』にとっては、過激で革命的に感じられてしまう。



SNSを駆使する優秀な学生


例えば、今の学生は企業へ入社する前から、同期、同業他社の同期、あるいは趣味志向に応じた個別のコミュニティとの交流をSNSを通じて持っている。仕事も当然その前提で取り組むことになる。知らないことがあれば、ネットのコミュニティを通じて情報を収集するだろうし、何らかのプロジェクトをやるにも、社内のメンバーだけではなく、社外のメンバーを含めてベストチームを作ることを志向するはずだ。イベントで人を動員するにあたっても、SNSを使って何千人も動員できる力を持っている強者もいる。彼らはFacebookを含むSNSに非常に豊かなネットワークを持っているから、企業内に閉じこもって仕事をするより、ずっとダイナミックでスピーディに動ける。その点では『大人』よりはるかに経験豊富だ。ネット内のフラットな関係になじんでいるため、地位や年齢、所属へのこだわりもない。優秀な学生ほどそうだ。


そんな『デジタルネイティブ』には、やれFacebookは『情報漏洩のリスクがある』だの、『無駄な遊び』だのと言って、会社からのアクセスを禁止したり、あろうことか従業員に使用制限まで押し付けるような会社はどう見えているだろう。そんな会社は不合理とばかりに、優秀な若者から我先に離脱してしまうのではないか。(そう考えると、昨今の『ノマド論争』の多くも『デジタルネイティブ』とそれが理解できない旧来の企業人の不毛な論争に聞こえてしまうのだが、どんなものだろうか。) 


ザッカーバーグ氏と近藤社長の主張が似てしまうのも、旧来のビジネス組織とそのビジネスのやり方の不自由さが、生まれた時からネットに親しんできた若者には生理的に受け入れられないことが一番直接的な原因ではないか。そして、今の日本の閉塞状況を見ていると、そのようなSNSを最大限に使いこなせる若手こそ、これからの日本を救う(逆に言えば、旧来の企業組織の信奉者こそ日本を潰す恐れがある)のではないかと思える。その意味では、『ネットはもっともっとオープンで自由であるべきという』彼らの主張も理解できる。



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