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どこかで見た光景

五輪が始まってまだ2日目ながら、大会前の悪い予感が案の定、次々と的中しつつある。

体操では、内村選手、山室選手といったエース格の選手たちが、得意種目で相次いで失敗。

競泳では、北島康介選手が準決勝で思わぬ不振にあえぐ。

もちろん、その裏返しで、ノーマークでメダルを勝ち取る選手も出てくるから、この4年に一度のビッグイベントは面白いのだが、看板選手の不振が、他の選手の活躍を打ち消して、五輪そのものの印象を悪くしてしまうこともあるから、もう少し予定調和的な結果があってもいいかなぁ、と思うところ*1

中でも、我が国が誇る伝統芸=柔道くらいは、と思うのだが・・・。

残念なことに、全階級の中で、もっとも確率が高いと思われていた女子の軽量級で、日本を代表する柔道家が相次いでロンドンの畳に散り、メダルなし・・・という悲惨な結果になっている。

48キロ級の福見友子選手の敗退を伝える日経新聞の記事を、阿刀田寛記者が書かれていて、その情感あふれる、厳しくも温かい“福見評”を読んで、少しホッとしたところもあるのだが*2、それでもこの残念過ぎる結果が変わるわけではない。

52キロ級の中村美里選手にしても同じ。

組み合わせ抽選の結果、前回敗れた相手と再び初戦で再戦する可能性が高くなった、という記事を見た時点で、熱心な観戦者であれば、嫌な予感が誰しも胸をよぎったはずだが、それでも、「2回戦敗退」を現実に突き付けられると、何と言ったらいいか、分からなくなる。

少なくとも、この4年間、国内でも、国際大会でも、世界の頂点に立つにふさわしいだけの結果を示していた選手たちがなぜ・・・というのは、誰もが思うことではなかろうか。


・・・で、相も変わらず、五輪の時になると、「外国勢の“変な柔道”がまかり通っていて、日本選手が力を発揮できない」とか「審判の質が悪くて日本選手が割りを食っている」とか何とかいうコメントがあちこちから湧いて出てくるのだが、ルール改正等もあって、2大会ほど前に比べれば、今の外国人選手は、遥かに“日本的”なスタイルに近づいているし、判定問題に関してはお互いさまのところもある*3

そもそも、長いリーチ生かして奥襟とって半身で攻める、ってレベルの話であれば、20年前の五輪の頃から登場している話なわけで、日本勢とて一流選手であれば万全の対策を取っているはずだし、五輪以外の国際大会でも状況は同じなのだから、“世界女王”の称号を持っている選手たちが敗れた理由の説明としては、あまりに根拠薄弱というべきだろう。

となると・・・

結局、行き着くところは、「4年に一度の大舞台に向けての目標設定の仕方の差」という話になってしまうような気がする。

競技者がある種の“職業”として柔道を続けることができる環境がある日本では、毎年コンスタントに大会に出て、実績を残し続けている選手でないと、なかなか大きな舞台に立つ機会には恵まれない。

特に、ポイントランキング制が導入された前回五輪以降は、その傾向が顕著になっているように思われる。

もちろん、どの選手も五輪で実績を残すことに対しては、特別な思いを抱いているはずで、今回の大会を大目標にして調整してきた選手がほとんどだと思うが、国内で競り合えば競り合うほど、最終的な焦点がぼやけてしまい、「4年に一度のチャンス」にピンポイントに焦点を合わせて、一発逆転を虎視眈々と狙っている他国のライバルに足元をすくわれてしまうことになるのではないか・・・

福見選手が、この4年間日本人選手に煮え湯を飲まされ続けた前回金メダリスト、アリナ・ドゥミトルに敗れ、中村選手が、この4年間世界選手権での上位実績がなかったアン・クメ選手に敗れた、という結果を目の前にすると、邪推ながらそういう感想しか出てこない。

そもそも、今の日本選手と外国人選手の間には、正攻法で組んで圧倒的な強さを見せられるほどの技術の差もなくなってきているように思えるだけに*4、次回以降は、いかに五輪本番にピークを合わせるか、に集中できるような代表選考方法に切り替えた方が良いような気がする*5

同じ条件で競争すれば・・・といっているうちに、あったはずの技術力の差がいつのまにかなくなっていた、というのは、柔道と全然関係ない世界でも良くある話で、個人的には妙な既視感を抱いてしまったりもするのだけれど、柔道にはまだ“貯金”が少しは残っている、と思うだけになおさら・・・である。

*1:個人的には深夜の平泳ぎの決勝には、まだ密かに期待しているのだが・・・。

*2:日本経済新聞2012年7月29日付け朝刊・第29面。

*3:男子の海老沼選手の3位決定戦などは、途中で一本負けで試合が終わっていても不思議ではなかった。

*4:以前は、早い段階で当たる外国人選手の中には、日本勢の“打ち込み練習”に付き合うためだけに出てきたのか、と言いたくなるような気の毒なレベルの選手も多かったのであるが、今は、隙あらば、返し技を食らっても不思議ではないレベルの選手しか出場していないような気がする。それゆえ、慎重になり過ぎて指導もらって負けるパターンも増えてきているのだろう。

*5:野村選手にしても、谷亮子にしても、そういう意味では先駆者だったし、実際五輪でも強かった。

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