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リベラルな国際秩序再興のためには、各国の「国内を強く」すると同時に、多様性をどこまで受け入れられるかが重要に

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 引き続き行われたセッション2では、「米大統領選の意義と目指すべき国際秩序」をテーマとした議論が展開されました。


国益を最大化するためには、国際協力こそが最も効果的である

 セッションの冒頭、今年1月までアジア開発銀行(ADB)の総裁を務めていた中尾武彦氏が問題提起を行いました。その中で中尾氏はまず民主主義の現状について論及。グローバル化と技術の進化は日進月歩であるとした上で、その恩恵を享受できず、取り残された非エリート層の市民の苛立ちや不満が拡大している現象が多くの民主主義国で見られること指摘。その不満を解消できない民主主義システムへの不満も同時に高まっているとしました。また、メディアや知的エリートといったこれまで民主主義秩序を支えてきた層もSNSの言論空間に押されて、その影響力を低下させていることも民主主義の弱体化を加速させている要因であるため、影響力を維持するための努力は不可欠であると各界の有識者が居並ぶ会場を見渡しながら語りました。

 中尾氏はさらに、グローバル化と主権国家の関係についても言及。自身のADBでの経験を振り返りつつ、他国からの干渉や影響力を排除したいと考え、グローバル化と国際協力に後ろ向きな小国は数多いと解説。しかしその一方で、気候変動や金融危機、そしてまさに現在進行中の感染症などは即座に国境を越え得る課題である以上、やはり国際協力と、それを担う国際機関は不可欠であることを強調しました。同時に、国際協力の進展に向けてこれまでの日本のADBなどの取り組みを概観。こうした1980年代に行われてきたような取り組みが現在のアジアのグローバル・バリューチェーンの基礎となってきたと評価し、長期的な視野に基づく取り組みの重要性を説きました。

 中尾氏は最後に、米中両国についても言及。中国もこれまで「干渉されてきた」という鬱屈した思いを抱えているとの見方を示すと同時に、そうした中国の行動とその背景にある意図を丁寧に分析しながら対応していく必要があると指摘しました。米国については、自国第一主義自体はどこの国にも「国益」というものがある以上はある程度はやむを得ないと理解を示しつつ、「国益を最大化するためには、国際協力こそが最も効果的である」ということを折に触れて説き続ける必要があると語りました。


次期政権にかかわらず米国の変化は望めない以上、同盟国・友好国も自助努力すべき

 続いて、米国から外交問題評議会(CFR)シニアバイスプレジデントのジェームス・リンゼイ氏が問題提起に登壇しました。リンゼイ氏は、これまで米国が主導してきたルールベースの国際秩序が崩れ始めてきているのは、実はこの秩序が多くの国と人々に豊かさをもたらすなど成功を収めてきたが故であると切り出しました。例えば、途上国も豊かになって都市化され、エネルギー消費量が増大したことが、国際社会を分断させる一因となっている気候変動問題を加速させたと指摘。世界貿易機関(WTO)の機能不全にしても、加盟国が164カ国・地域、世界貿易に占める割合が97%以上となるなど、多くの国々が自由貿易の恩恵を受けようと加入した結果、利害調整が複雑化し、機能不全となった、といったある種のパラドックスがあると指摘しました。

 もっとも、要因はそれだけではなく、やはり中ロなど権威主義体制からの挑戦、さらには、米国自身の外交展開の失策による国際社会からの信頼失墜も大きいとリンゼイ氏は語りました。
 
 その米国の信頼低下の要因として、リンゼイ氏はトランプ大統領についても言及。"米国ファースト"に確固たる信念を持ち、マルチよりもバイの方が米国の利益になると確信しているトランプ氏の行動を変えることは容易でないとしました。同時に、米国内での世論調査では、米国国民の中では実は、"米国ファースト"の意識は低下しつつあると明るい材料も挙げましたが、しかし今秋の大統領選で外交が主要な争点になることはないということも断言。しかも、民主党の候補者も気候変動以外ではトランプ氏と大差ない姿勢であるため、「民主党政権になれば米国が即座に多国間主義に再転換するというのは幻想だ」と釘を刺しました。

 その上でリンゼイ氏は、そのように次期政権にかかわらず米国の再転換は期待薄である以上、同盟国・友好国も「米国と共に何ができるのか、と考えるべきだ」と自助努力を促しました。

 最後に、リンゼイ氏は中国についても言及。トランプ氏も多くの米国国民も、中国と積極的に対立したいと考えているわけではなく、既存の秩序から恩恵を受けているのであれば応分の責任や負担も担うべきだと考えているとすぎないとし、中国側で過激な対米強硬論が台頭することを牽制しました。


リベラルな国際秩序再興のためには、各国の「国内を強く」すること、そしてシンクタンクの役割が重要

 続いて、イギリス・王立国際問題研究所(チャタムハウス)所長のロビン・ニブレット氏がビデオメッセージを通じて問題提起を行いました。ニブレット氏はその中でまず、世界には自由民主主義国、権威主義国など多くの異なる政治システムが並存とした上で、現在の世界は、気候変動やデータ管理、テロなど国境を超えた共通のグローバルな課題に直面していることを指摘。したがって、異なる政治システムの国同士だからといって分断するのではなく、共通の課題に向けて共に取り組んでいかなければならない状況にあると語り、そのためには長期の国際協力を可能とするような包摂的なシステムを構築すべきであると主張しました。

 同時にニブレット氏は、リベラルな民主主義国家側の課題についても問題提起。これまでグローバル化による利益追求にのみ注力してきたことで、国内に格差を生じさせるなど、分断をつくり出したことが、民主主義に対する不信を生み、民主主義を弱体化させたと分析。そこで例えば、教育、インフラ、投資などを通じて、国内の変化が「単に勝者を利して敗者の現状をより悪化させるだけのものではない」ということを国民は理解してもらうための努力が必要であると主張。とりわけ、米国がリベラルな秩序のリーダーとしての役割から離れつつある中では、日欧豪などの各国は共に民主主義の国として「国内を強くしなければならない」と説き、それこそが終局的にはリベラルな価値を守ることにもつながるとしました。

 一方、中ロなど権威主義国家については、外から変化を促すことは困難であるとしつつ、共存していくしか選択肢はない以上、過度に敵視することは妥当ではないとも指摘。中国のような強権的で管理型の政治システムを採用したいと考える政治指導者はいても、その中で暮らしたいと考える市民はいない、と指摘しつつ「我々はこのリベラルなシステムに自信を持ち、守護し、促進いくべき」と語りました。

 その上でニブレット氏は最後に、シンクタンクの役割について言及。この「東京会議2020」に参加しているシンクタンク自身も、リベラルな国際秩序の中で育ち、市民社会の一部となってきたと振り返りつつ、リベラルな国際秩序を維持・発展させていくために何ができるのか、シンクタンク同士も国境を越えて連帯していかなければならないと呼びかけました。


 問題提起の後、ディスカッションに入りました。

倫理宣言からガバナンスの確立へ

 カナダ・国際ガバナンス・イノベーションセンター総裁のロヒントン・メドーラ氏は、各氏の問題提起に同意しつつ、これまでリベラルな国際秩序から各国が恩恵を受けてきたということを再確認しながら、秩序維持に向けて努力を積み重ねていくしかないと語りました。その上でメドーラ氏は、テクノロジーの飛躍的進歩とそれを規律する秩序・ルールの空白の問題について言及。1948年の世界人権宣言のような倫理宣言を、例えばデジタル分野で打ち出すことを提案。世界人権宣言は法的拘束力はないものの、各国国内でその趣旨を盛り込んだ法制度の整備につながっていったように、倫理宣言もやがて実効的なガバナンスの確立につながっていくとその狙いを説明しつつ、こうした議論を通じて国際協力の機運を高めていくべきだと語りました。

 米国・ユーラシアグループテクノロジー地政学担当部長のポール・トリオロ氏も、新技術に関する倫理原則について提言。とりわけAIでは、各国政府、地域、民間といった各レベルが倫理原則策定の必要性を認めているため、協力の余地は大きいと語りました。またトリオロ氏は、こうした倫理原則の必要性は中国も認めているため、中国も引き込んだ議論は十分に可能であるとしましたが、その一方でAIと監視カメラのテクノロジーとを融合させた顔認証システムによって国民管理を進める中国の危険性についても指摘しつつ、人権の観点をどう盛り込んでいくかは大きな課題となると問題提起。他にも、市民からのボトムアップ型で議論しているEUと、政府からのトップダウン型の中国との間の議論も難航が予想されることなどの課題を提示しました。

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