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「被災者にはつらいシーンがある。それでも…」佐藤浩市が映画「Fukushima 50」で見せた福島復興への思い

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東日本大震災と福島第一原発事故の発生から丸9年を迎える中、事故直後の福島第一原発で対応にあたった作業員や技術者の姿を描いた映画「Fukushima 50」(フクシマフィフティ)
が、今月6日に全国公開される。

映画は当時の吉田昌郎所長(故人)らの証言を基にしたノンフィクション作品を原作に、事故当時の原発構内の様子を克明に描き出した。大震災や原発事故の記憶の風化が懸念される中、今回の作品に期待される役割は何か。主演の俳優・佐藤浩市さん、監督の若松節朗さん(いずれも以下、敬称略)に話を聞くと、撮影における葛藤、福島の復興への思いが浮かんだ。

若松節朗と佐藤浩市=大本賢児撮影

原作は、週刊新潮編集部副部長などを務めた門田隆将氏の著書『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』(角川文庫)。門田氏は、事故から1年4か月後の2012年7月から、原発事故当時の様子に関する吉田所長の証言を記録してきた。

映画のタイトルは、事故後の第一原発に残った作業員約50人に対し、欧米のメディアが与えた呼称「Fukushima 50」に由来。佐藤は、第一原発1・2号機当直長だった伊崎利夫役、俳優の渡辺謙が吉田所長役を熱演。他にも、吉岡秀隆、緒形直人、火野正平、平田満、萩原聖人、吉岡里帆、斎藤工、富田靖子、佐野史郎、安田成美らが出演している。

事故直後の対応にあたった作業員は、当直長だった伊崎を含めて地元の福島出身者が多い。映画では、第一原発の事故を最小限に抑えようとしつつ、そのためには故郷に放射性物質を拡散させねばならない葛藤などを描いた。

――佐藤さんは当直長の伊崎利夫役です。どんな心構えで撮影に臨みましたか。

佐藤 僕たちは第一原発がその後どうなるかという結果を分かりながら、演じています。最悪な事態は避けられたという結果です。

しかし、当時第一原発にいた人はそうではなく、最悪の事態があるかもしれないと想定をしつつ、それを避けるために「自分たちに何かができるのではないか」との思いで残られました。そうした当事者の気持ちが作品を観る人に伝わってくれるためには何ができるのかと考えながら撮影に臨みました。

当直長の伊崎利夫役を演じた佐藤浩市=大本賢児撮影

――伊崎さんのモデルとなった方自身も地元の富岡町出身です。映画では、原発事故に伴って故郷を離れざるを得ない地元の人の苦悩に思いを馳せたセリフも登場します。

佐藤 現場の原発で働く人は現地雇用の方が多いです。撮影に際して最初に思ったことは、伊崎さんなどそうした境遇にある方にとって、古里や家族の肩越しに国があったのか、それとも、国の肩越しに古里や家族を見たのか。どっちの思いから原発に残ったのかを考えましたが、分からないところがあった。それでも、考えながら数日間撮影していくうちに、きっとそんなことはどちらでもよかったんだなと思うようになりました。

原発事故の後は、おそらく家族や古里などへの思いがたくさんあったのだろうけど、あるときからそれは関係なくなっていった。何か自分にできるのであれば。それが何かはっきりとは分からないけれど、「そこにいることしかないんだよ」という思いになり、漠然と命題を把握していった。そういうことではないかと考えるようになりました。

大熊、双葉の両町にまたがって、6基の原子炉建屋が並ぶ第一原発。2011年3月12日に1号機、14日に3号機で水素爆発が起き、定期検査中だった4号機も3号機から放出された水素が流れ込んで爆発。1~3号機でメルトダウン(炉心溶融)する事態となった。

メルトダウンを起こした3号機=2019年1月、長屋陽撮影

映画では、余震が続く第一原発構内で、作業員が2人一組となり、格納容器内の圧力を下げるために排気する「ベント」と呼ばれる作業に決死の覚悟で臨む姿が印象的だ。

そこでは、被ばくによるリスクを考慮し、若者よりも年配の作業員を優先する選別が行われた。その指揮を担う立場にあったのが当直長だった伊崎で、スクリーンからはその苦渋のかじ取りの様子が伝わる。

――当時の第一原発で何が起きていたのかは、きっちりと頭で整理しにくかった。映画では、それぞれの作業員が期待や苦悩などさまざまな感情を抱えながら対応にあたった様子が克明に伝わります。

若松 最大震度7の地震が発生してから、原発内で何が起きていたかということをほとんどの人が知らず、第一原発の中央制御室(原子炉サービス建屋内で運転を行うエリアで、今回の映画の主な舞台。通称「中操」)で何が起きていたかを克明に表現しなければならないと考えました。

メルトダウンまでの過程や、吉田所長のドキュメンタリーなどは結構ありますが、作業員の姿を扱った作品はほとんど世に出ていない。実際の第一原発の現場にいた人の証言を聞いたり、指示を仰いだりしながら撮影をすすめましたが、それでも想像で賄わねばならない部分は出てくる。その部分は、俳優、役者の熱い芝居のおかげで、ドキュメンタリーのように仕上がりました。

――実際に作業にあたった方の証言は貴重です。

若松 放射線に向かう作業員の人たちはプロフェッショナルだから、やはり放射線というものがどれだけ怖いか十分に分かっています。特に、線量というものに関しては、佐藤浩市さんをはじめいろいろな方と話しながら丁寧に扱いました。

福島第一原発に出入りする作業員らは放射線量が厳しく管理されている=2019年1月、長屋陽撮影

事故への対応を指揮した吉田所長。そして、現場の最前線を率いた伊崎氏は電力会社の同期でもある。互いに性格や考え方を熟知し合った2人は、政府や東京本店の意向に翻弄されながら懸命に事故対応にあたる。

福島出身の伊崎氏に対し、吉田所長は福島が故郷ではない。それでも、東北の今後を思ってか、これまでの技術者人生で愛着も湧いた福島の歌を口ずさむシーンが出てくる。

――伊崎氏にとって、吉田所長とはどういった人物だったのでしょうか。

佐藤 自分が演じた伊崎氏という立場とは違い、現場のリーダーとして本店、まさに東京とのやり取りを担っています。現場の最前線の人間と東京との間にいる難しさがあったと思います。

逆に言うと、もともとは本店、東京サイドの人間であり、外から福島に来て、そして福島の歌を歌う。それが誰かに聞かせるためではなく、自分の中でふっと口に出てくるというのは、若松監督が見た吉田所長の位置づけだったのでしょう。さらには、そうした吉田所長の福島への思いが現場の人間に伝わったという点に、吉田所長の姿が集約されていると考えます。

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