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デジタル法定通貨(CBDC)についての考察

デジタル法定通貨(CBDC: Central Bank Digital Currency)に注目が集まっています。中国人民銀行がデジタル人民元構想を発表したほか、カンボジアではデジタル法定通貨バコンが実用化に向けて検討が進められています。また、日銀を含む先進国中央銀行も共同で研究調査を始めることを発表しました。自民党の議連がデジタル法定通貨に関する提言を行い、私も事務局として参加する自民党金融調査会(山本幸三会長)でもデジタル通貨に関するPT(村井英樹座長)のもとで議論を重ねています。

他方で、「デジタル法定通貨とは何か」といった議論の前提となる理解は必ずしも十分といえません。そこで、私なりの理解に基づき、デジタル法定通貨の論点を整理してみました。

まずデジタル法定通貨と言った時「Suicaや◯◯ペイと何が違うの」と聞かれます。電子決済という点では変わりませんが、デジタル通貨を紙幣代替と捉えた場合、利息やポイントはつきません。他方で、民間のキャッシュレス決済手段と違い、手数料は発生しません。また、通常の預金は銀行が破綻しても全額保護されるとは限りませんが、デジタル通貨は銀行を介する形態でも全額保護されます。さらに、銀行側から考えると、銀行を介した場合(※)であってもデジタル通貨を元手に信用創造することはできません(準備率100%)。

(※)デジタル通貨は銀行を介する形態(デジタル人民元)と銀行を介さない形態が存在します。前者は利用者が銀行にデジタル通貨口座と預金口座を両方保有するイメージ、後者は利用者がスマホにデジタル通貨を直接保有するイメージ。

このあたりはあくまでも紙幣の置き換えと考えると分かりやすいと思います。タンスに現金を入れても増えない反面、現金で買い物しても手数料を取られることもなければ一方でポイントが付くこともありません。

もちろん設計次第で、民間のキャッシュレス決済手段や口座取引に近づけることも可能ですが、その場合は紙幣の代替を超え民間のキャッシュレス事業者や銀行との競合が発生します。どこまでが民間事業の圧迫となり、どこまでがむしろ民間イノベーションの生み出す公器といえるのかといった判断が重要です。

また、企業間などの大口資金決済や為替取引などの国際資金決済にもデジタル通貨を活用することも考えられます。しかし、「そもそも企業間決済や為替取引の大宗は既にデジタルなのでは」との疑問が生じるはずです。この場合、「デジタル通貨」とは「ブロックチェーン等の新たなテクノロジーを活用し既存の大口決済システム(Fedwire等)や国際決済システム(Swift等)を置き換える」ことと同義です。

ここまで特定のデジタル通貨が発展した場合、より決済しやすい、送金しやすい、保有しやすいとの理由で国際的にそのデジタル通貨が普及するようになり、今の覇権通貨であるドルの地位を脅かす可能性が出てきます。通貨の覇権は発行国の経済力や軍事力に依拠しますからデジタル人民元はなおさらその現実味を帯びます(他方で取引の自由度の観点から、資本移動が規制されている人民元がただちに覇権を握るのは難しいですが)。

では、デジタル通貨の障害はなにか。私は匿名性と安定性(電力、セキュリティなど)だと思います。デジタル通貨を紙幣の置き換えと捉えた場合、匿名性は必須ですが(紙幣に名前は書きませんから)、匿名性とブロックチェーンの相性は良いとは言えません。また、紙幣はアナログであるが故に災害やサイバーアタックに強いところもあります。災害時に日銀から市中銀行に現金を輸送して、受け取った市中銀行は現金を店頭に並べて預金者不安を緩和したりします。ここもデジタル通貨の弱点でしょう。

反面、デジタル通貨の強みは効率性です。我が国では直接的なものだけでも、年間2兆円の現金の輸送管理等のコストがかかっていると言われています。また、デジタル通貨というキャッシュレス決済に関する公的な統一基盤ができることにより、様々な民間事業の相互運用性が高まることも考えられます。このほか(匿名性と相反する部分もありますが)デジタル通貨はマネーロンダリングやテロ資金などの不正資金を防止することもできます。

こうした中で、前述のとおり、日銀が各国中銀とデジタル通貨に関する調査研究をスタートさせると発表しました。このこと自体は歓迎できますが、私はもう一歩踏み込んで、日銀が単に各国中銀との調査研究にとどまらず、知見のある民間事業者と連携し、サンドボックス特区等を活用しながらデジタル通貨の実証事業を行なっても良いのではないかと思います。法的・技術的なハードルは様々なあるものの、それだけ、デジタル通貨の分野における先行者利益は大きいはずです。

加えて、デジタル通貨という括りに限らず、大口資金決済や国際資金決済の高度化は取り組まねばなりません。ブロックチェーンやセキュリティトークン等を用いたこれらの高度化もやはり国家的プロジェクトとして政府・日銀が強力に押し進めるべきです。

以上のように、課題もある反面、デジタル時代に欠かせないインフラとなりうる魅力を持つデジタル法定通貨について、これからも精力的に議論してまいります。

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