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私が死んだあとも、森はずっと生き続ける -「賢人論。」第110回(中編)C.W.ニコル氏

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20代から30代にかけて、エチオピア、カナダ、そして和歌山県の太地町と世界中を駆けまわっていたC.W.ニコルさんは1980年、日本に永住することを決意して長野県の黒姫(信濃町)に居を構えた。40歳のときである。その4年後、彼は荒れ果てた森を買い取り、「アファンの森」と名付けて生態系の復活を試みる作業を始めた。果たしてその森は、どのようにして蘇ったのか? 続いて話を聞いてみよう。

取材・文/ボブ内藤 撮影/公家勇人

経済発展のために自然を破壊する日本人を見て、心が痛んだ

みんなの介護 日本に居を構えようとしたとき、長野県の黒姫(信濃町)を選んだのは、どうしてですか?

ニコル 黒姫には友人がいたからです。詩人で評論家の谷川雁さん。雁さんは「ラボ教育センター」といって、児童向けの物語を2ヵ国語のテープに録音した教材をつくる会社の専務をつとめていて、1970年からぼくはその仕事を手伝っていました。

太地町にいたころ黒姫を訪ねて、『古事記』の翻訳を一緒に手がけました。「ここに描かれている神話は、ぼくの故郷に伝わる古代ケルト神話にとてもよく似ている。なぜだろう?」なんて議論をしながら。

雁さんを頼って黒姫に住むようになってからは、宮沢賢治の作品の翻訳もしました。雁さんは完璧主義でとても厳しい人だったけど、雁さんとの仕事はどれも楽しかったし、刺激を受けました。

みんなの介護 ウイスキーやハム、トレッキングシューズなどのコマーシャルに出演したり、テレビや新聞などのメディアを通じて、自然保護の大切さを訴えるようになったのもこの時期ですね。森林を伐採してゴルフ場やリゾートホテルを建設する日本社会を批判するナチュラリストとして、ニコルさんは有名になりました。

ニコル 黒姫でも、生態系を持った貴重な原生林が容赦なく伐採されていました。「せっかく安息の地として選んだ土地に、何てことをするんだ!」そんな怒りを林野庁長官宛ての公開質問状にして、新聞に掲載してもらったこともあります。

実は、その怒りは、ぼくひとりのものではありませんでした。黒姫で知り合った猟師や、この地で育った多くの人が、黒姫の自然が荒らされていることに心を痛めていた。埋め立てられた干潟を見て「昔、このあたりは夏になると蛍がたくさん飛んでいてね…」と寂しそうに笑っていました。

だけど、そんな彼らにも伐採された森の跡地に建てられたゴルフ場やホテルで働く親戚や友人知人がいます。「森を壊すな」なんて大っぴらに発言しづらいですよね。

だから、ぼくが替わりに彼らの意見を述べていたんです。ぼくには人間関係のしがらみなんてなかったし、誰ににらまれても怖いことなんて、これっぽっちもなかったからね。

日本のために森を育てようと、心に決めました

みんなの介護 ニコルさんのすごいのは、ただ批判するだけでなく、荒れ果てた土地を自ら買い取り、森の再生事業を実践したことだと思います。どんなきっかけがあったのですか?

ニコル 黒姫に住みはじめて少したったころ、何年ぶりかに故郷の南ウェールズを訪ねたんです。

南ウェールズというところは石炭資源が豊富にあって、産業革命の時代から盛んに採掘が行われて経済的な発展を遂げました。ところが、そのかわりに残されたのは、すっかり木々のなくなった、丸坊主の谷や丘です。代わりにそこへ大量のボタ(採掘に伴って発生する捨て石)が捨てられていました。

ぼくが17歳でカナダに渡ったのは、そんな故国の自然の窮状を目にしたくなかったからでもあるんです。もう、こんなところに2度と帰ってくるもんかと思っていました。

ところが、その南ウェールズのボタ山に「アファン・アルゴード森林公園」という森ができているというので、訪ねてみることにしたんです。この目で確かめないことには、信じられない話だったから。

みんなの介護 で、故郷の丸坊主になった谷や丘は、どうなっていましたか?

ニコル 驚いたことに、話は本当でした。そこには確かに、若いけれども、大きく、深い森がありました。

その感動は、今でも鮮明に思い出すことができます。そのとき、即座にこう思ったんです。「ぼくも森をつくろう」と。もう文句を言うのはやめて、自分から行動を起こして日本のために森を育てようと、心に決めたのです。

そのきっかけを与えてくれた「アファン・アルゴード森林公園」への感謝の証しとして、これから再生していく森を「アファンの森」と名付けました。afan(アファン)とは、ケルトの言葉で「風の通るところ(谷)」という意味です。

30年で「アファンの森」は東京ドーム7個分の広さになった

みんなの介護 1986年、東京ドームと同じくらいの広さの約5ヘクタールの土地からはじまった「アファンの森」は、2003年に約9.7ヘクタールに、2019年には約34.3ヘクタールになったそうですね。

ニコル 2012年には、かつてぼくが目の敵にしていた林野庁と協定を結んで、隣接する約29ヘクタールの国有林の管理も任されるようになりました。

みんなの介護 ニコルさんが起こした行動が、林野庁をも動かしたというのは感動的ですね。

ニコル 林野庁の悪口はずいぶん言ってきたけど、ぼくは1980年代の彼らの無計画な政策を批判していただけで、個人攻撃をしたわけではありません。ですから、そのやりとりを通じて良い友人になった人も少なくありません。

そのなかには、林野庁を退官したあと、「C.W.ニコル・アファンの森財団」の理事になってくれた人もいます。

みんなの介護 森の再生活動では、具体的にどんなことをするんですか?

ニコル ぼくが手に入れた土地は、もとは農地として開墾されながら、そのままに放置されていた土地、それから植えたままの針葉樹がヒョロヒョロと伸びている土地などです。

こうした土地に、もともとそこにあったはずの木を植え、手入れをしていきます。周囲の木の成長の妨げになっている高枝を切ったり、密集した藪や竹を刈り払って地面に太陽の日が当たるようにしていきます。

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