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新型コロナで社員に「有休」をとらせる日本企業のおかしさ

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サラリーマンを襲う「組織分離不安」

似たもの同士コミュニティは人々に組織分離不安をもたらす。組織に長くいると、組織から物理的に離れることに対して心理的不安を覚えやすい。母子分離不安ならぬ、組織分離不安である。

ここで言う不安の要因には2つの側面がある。まず、同じ環境から異質な者がたくさんいる環境に出ていく不安である。次に、組織から離れることで目前の仕事が達成できなくなるという不安である。これらの不安は組織に対する好悪の情とは別に発生する。会社が嫌いだと思っていたとしても、仕事に対して忠実でありたいと思えば組織分離不安は発生する。

さらに言えば、良くも悪くもわが国の場合、長時間労働が初期設定となっている。個人の持つ人的なネットワークは所属している企業を中心に張り巡らされていることが多く、会社に行かないとそれらとアクセスするのがむずかしい。情報の取得という側面からも、少しの体調不良であれば休むよりも組織にいる方が情報にアクセスすることができて合理的という判断につながる。

「一緒にいる時間」という評価軸が行動を決めてしまう

似たもの同士コミュニティの中で、企業は一緒にいた時間の長さで人々を評価してきた。わが国においては労働時間の長さと昇進には正の相関があるとされている(注2)。企業側にとっては、一緒に居る時間の長さはコミュニティに対する忠誠心の証しとして可視化しやすい一つの指標である。そして、長時間をかけて多角的に従業員を評価するという効用もあった。

一緒に居る時間の長さが評価の一部とされることは、人々の行動に強く作用した。休むと自分の評価が下がるので休んではいけないという行動の規則を強化したのである。

こう考えていくと、日本のビジネスパーソンが少しの体調不良ごときでは休まないのも、それなりに彼らにとっての合理的な意思決定なのかもしれない。しかしながら、彼らにとっての合理的な意思決定は、ウイルス対策にとっては全くの逆効果で、むしろウイルス蔓延の促進剤となってしまっている。

注2:Kato,Takao, Daiji Kawaguchi and HideoOwan(2013)Dynamics of the Gender Gap in the Workplace: An Econometric Case Study of a Large Japanese Firm.” RIETI Discussion Paper Series 13-E-038

「有休で自宅待機」では休みづらいまま

事態を好転させるには、トップの「一緒に居る時間の長さが評価の要素になることは断じてあってはならない」という強い意志の明示と、その実行のための指示が不可欠である。似たもの同士コミュニティの根幹となっている行動の規則は、休むことによって自分の評価が下がること、情報が得られないことである。そこから組織分離不安が生まれる。これを逆張りすればよいだけだ。

トップが末端の意志決定者まですべてに対し、休むことの重要性を徹底させることが可及的速やかになされるべきアクションであろう。「トップはああ言っているが、現場の部長が認めない」といった、よく見聞きするねじれ現象がないように徹底させるべきである。場合によっては、部下を体調不良で出社させた上司への罰則規定を設けることも必要かもしれない。

ようやく出された政府の基本姿勢方針(2月23日時点)では、37.5度の熱が4日以上続いた場合、保健所などに設置されている「帰国者・接触者相談センター」に相談するよう呼び掛けている。逆に言えば、それほどの高熱が4日間は続かないと検査すらさせてもらえないということだ。

その際、テレワークを未導入の中小企業の場合、多くが自宅待機のために有給休暇をとることになる。陰性と陽性、どちらに転ぶか分からないものに対して有休を取るのを嫌がる人もいるだろう。社会を守るためなのに、自宅待機を有休で対応するというのもおかしなものである。

コロナウィルスが蔓延し完全なるパンデミックが発生すると、経済的な打撃は長期にわたり、その影響は計り知れない。ここはトップが何らかの特別措置を講じるなど、強い意思決定を早急に示すべきだろう。

「その場にいないといけない」という思い込みを変える

同時並行で、これを機にITを活用した業務効率化をよりいっそう進めた方が良い。人口減少というわが国の逃れられない社会環境に対応するためにも必須である。現状で蔓延している、その場にいないと「おいしい情報」が得られないという思い込みを根本から変えるべきである。もちろん、会うことは重要である。しかし、ただ居ることは重要ではない。

災い転じて福となす——。この故事は危機対応を行う際に重要な発想の一つである。私達は紛れもなく、新型コロナウイルスという見えない敵との戦いの中にある。この戦いが終わった後には、再び人口減少と人手不足という従来の課題が待っている。その為にも、組織を強くすること、新たな手法や考え方を組織に入れることは不可欠である。

今回のウイルス対応を、似たもの同士コミュニティからダイバーシティコミュニティに変化する第一歩を踏み出す好機と捉えて、各企業が行動を早急に起こすことを強く望む。

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高田 朝子(たかだ・あさこ)
法政大学ビジネススクール 教授
モルガン・スタンレー証券会社を経て、サンダーバード国際経営大学院にて国際経営学修士、慶応義塾大学大学院経営管理研究科にて、経営学修士。同博士課程修了、経営学博士。専門は組織行動。著書に『女性マネージャー育成講座』(生産性出版)、『人脈のできる人 人は誰のために「一肌脱ぐ」のか?』(慶應義塾大学出版会)、新刊『女性マネージャーの働き方改革2.0 ―「成長」と「育成」のための処方箋—』などがある。
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(法政大学ビジネススクール 教授 高田 朝子)

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