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コンテンツツーリズムのジレンマ

近年、観光地開発やメディアの大きな宣伝によらない、SNS等での個人間の情報共有によって定着してきた「新しい観光地」が増えてきている。その上、アジア諸国の高成長などで、これから観光がますます大きな産業となってくるのが目に見えてくる中で、「コンテンツツーリズム」が観光にまつわる言説で取り上げられる事が多くなってきた。

「コンテンツツーリズム」自体は学術用語なので、それ自体をメディアで見かける事は少ないが、そこに含まれる概念は昔から多く語られている。例えば、ドラマや映画の撮影地を旅行で訪れる「ロケ地巡り」や、最近ならアニメの中に出てくる背景などの元ネタを探して訪れる「アニメ聖地巡礼(アニメ聖地巡り)」なんかはその典型例だ。

要するに、ここでの「コンテンツ」というのは、小説やドラマ、映画、アニメ、テレビゲーム等の「その消費自体が目的となるように製作・編集されたエンターテインメントとしての情報財(注1)」であり、そこに出てくる場所を訪れる事によって「物語を追体験」するような観光形態が「コンテンツツーリズム」である。(注2)

実際、「テーマ」なり「ストーリー」なりハイ・コンセプトな財・サービスが様々な産業において重要だと考えられるようになってきているわけで、そういう意味では「コンテンツツーリズム」は「手っ取り早くストーリー性のある旅行が出来る」側面もあり、旅行者の立場としても観光事業者の立場としても取っ付きやすい分野なのである。

そのような手っ取り早さがあるが故に、「まちおこし」として使われる事も多く、映画やドラマの撮影地となった場所で、そのコンテンツに関するミュージアムを建設する等して観光資源として利用するような例は数多く存在する。(ぱっと思いつくものなら、「坂の上の雲ミュージアム」とか「水木しげる記念館」とか。)

コンテンツツーリズムの為の財政支出の是非はさて置き、どうしても観光資源に乏しい地域では、ヒットしたコンテンツを元に「所縁の地」として観光開発に力を入れる気持ちは分からないでもない。とは言え、「元は何も無い」地域だったりするわけで、コンテンツがあったからと言って、そこに記念館を作って人が訪れるとは限らない。交通の便が悪かったり、周辺に宿泊施設が無かったりすれば、なかなか旅行者も集まりにくいし、だからと言って、そこまでを含めた開発に同意が得られるかも分からない。そして、多くのコンテンツは時間と共に「飽きられる」わけで、敢えて例は挙げないが、一時はコンテンツツーリズムで潤った地域が今や「閑古鳥が鳴く」というのも多くある。

こうした、「時間と共に観光地としての魅力が薄れる」という経験則(注3)があるからこそコンテンツツーリズムでの観光開発は難しいのだ。今現在、コンテンツツーリズムで潤っている地域も、いつかは「継続的に開発を進める」か若しくは「新しい観光資源を見つける」かというジレンマに陥るのは避けられないのだ。そのようなジレンマの打開策としてフィルムコミッションを利用した継続的な「所縁の地増やし」を目指している所も多いが、不確実性も多い上、新たなコンテンツが加わった事で、逆に「以前の観光地としてのイメージ」が崩れて、逆効果という事もあり得る。

こういう意味で、安易なコンテンツツーリズムは問題なのであるが、コンテンツが生まれ続ける限り観光資源が生まれ続ける(かもしれない)という意味では、これからも注目すべき分野である。


参考文献
増渕敏之(2010)『物語を旅するひとびと―コンテンツ・ツーリズムとは何か』彩流社


注1:勿論、宣伝媒体としてドラマやアニメ等が用いられる事もあるが、そのコンテンツ自体が一つの「作品」として完結しており、それを消費する事自体が目的(非手段的目的)であるのは確かである。

注2:テーマパークや歴史博物館等の、ある種のストーリー性があるコンテンツをも含めて「コンテンツツーリズム」と捉えている研究者もいるが、ここでは議論が拡散しないように、狭い意味でコンテンツツーリズムを捉えている。

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