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最低賃金たったの7円の引き上げだなんて最低だ

 最低賃金とは、法律で決められている賃金の最低額です。それを下回らずに働けばなんとか生活できる賃金の額を労働者に保障するためのもので、それを下回る額で雇用してはなりません。

 国の中央最低賃金審議会は、2012年度の最低賃金の引き上げ額を決めました。時間あたり平均7円引き上げて、全国平均で744円にするというものです。
 これは全労働者が対象ですが、主に非正規で働く人の賃金に反映される場合が多くなります。正規労働者の場合には、これを上回る水準で雇用されるのが普通だからです。
 この国の決定を受けて、各都道府県の地方審議会が個別に地域の最低賃金を決めることになります。そのための審議が、地方ではこれから始まります。

 現在の最低賃金(時給)は、北海道705円、東京837円、愛知750円、大阪786円、沖縄645円などとなっており、全国平均で737円です。これを7円引き上げて全国平均で744円にするというのが、今回の答申です。
 時給744円で週40時間、年2000時間働く場合、年収は148万8000円にしかなりません。時給837円の東京でも167万4000円にすぎず、200万円を下回ってしまいます。
 これから税金や社会保険料が引かれ、電気代を含む水光熱費や家賃がかかります。実際に使える可処分所得はずっと少なくなるでしょう。

 これで生活できるのでしょうか。生活できるかどうか、この最低賃金でよいと決めた審議会の委員、とりわけ毎回引き上げに反対している経営側の委員に、是非、試してもらいたいものです。
 これではまともな生活ができるはずがありません。だから、ワーキング・プアという日本独特の現象が生まれるのです。
 働いているのに生活できない「ワーキング・プア」は、死ぬまで働く「過労死」や対価なき「サービス残業」とともに、外国人には理解できない日本の労働におけるミラクルとなっています。

 もう一つの大きな問題は、最低賃金の引き上げ額が少ないために生活保護支給額を下回る「逆転現象」がなかなか解消されないという問題です。現在11の都道府県で逆転現象が残っていますが、今回の引き上げでも一部でまだ解消できません。
 働くより生活保護を受給した方がいいと考え、働く意欲をなくすモラルハザード(倫理観の欠如)が起こりかねないという問題があります。そのために、最低賃金を上げるのではなく、生活保護水準を下げるという対応がなされる危険性が生まれています。
 これは逆行した対応であり、改善ではなく改悪だと言うべきでしょう。ますます、生活できない人が増えるだけですから……。

憲法25条は、「健康で文化的な最低限度の生活」を保障しています。最低賃金の水準は、このような憲法で定められた国民の権利を保障するものではなく、国は第2項で定められた義務を果たしていないことになります。
このような状況を改善するために08年に最低賃金法が改正され、地域別最低賃金を決定する場合には、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性にも配慮する(最低賃金法第9条第3項)と定められました。今回の決定は、この改正最低賃金法にも違反しています。
 また、中長期的な最低賃金の引き上げに向けた基本方向を合意した08年6月30日の「成長力底上げ戦略推進円卓会議」の決定にも違反しています。「賃金の底上げを図る趣旨から、社会経済情勢を考慮しつつ、生活保護水準との整合性、小規模事業所の高卒初任給のもっとも低位の水準との均衡を勘案し、当面5年程度で引き上げることを目指し、政労使一体となって取り組む」としていたのですから……。

 それだけではありません。「全ての労働者に適用される『全国最低賃金』を設定(800円を想定)する」「景気状況に配慮しつつ、最低賃金の全国平均1000円を目指す」とした民主党の09年マニフェスト違反でもあります。
 最低賃金の引き上げは、自民党政権の下で、07年14円、08年16円、09年10円となっていました。09年秋の政権交代後、10年17円と上げ幅が大きくなりましたが、その後、11年7円、12年7円と一桁台になっています。
 菅政権以降、引き上げ幅が鈍化していることは明らかです。最低賃金引き上げ幅の推移においても、政権交代の成果を認めることはできません。

 もはや、民主党政権においても、貧困問題を解決する意思が失われてしまったということでしょう。最低賃金政策でも自民党以下の対応しかできないなんて、野田政権は最低だと言うしかありません。
今日の『朝日新聞』の「天声人語」は、「企業が悪い、と叫ぶつもりはない。だが資源に恵まれない日本の最大の資源は、額に汗する『人』ではなかったか。千分の1秒の金融・証券取引で巨富を手にする仕組みの一方、大勢が『1時間7円』に泣く図はいびつだ。格差を縮める政治の意志は、どこにある」と書いていますが、はっきりと言うべきでしょう。「企業が悪い」「格差を縮める政治の意志は、どこにもない」と……。

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