- 2020年02月27日 10:07
【読書感想】遅いインターネット
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- 作者:宇野 常寛
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2020/02/20
- メディア: 単行本
Kindle版もあります。
遅いインターネット (幻冬舎単行本)
- 作者:宇野常寛
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2020/02/19
- メディア: Kindle版
内容紹介
インターネットによって失った未来をインターネットによって取り戻すインターネットは世の中の「速度」を決定的に上げた。しかしその弊害がさまざまな場面で現出している。世界の分断、排外主義の台頭、そしてポピュリズムによる民主主義の暴走は、「速すぎるインターネット」がもたらすそれの典型例だ。インターネットによって本来辿り着くべきだった未来を取り戻すには、今何が必要なのか。気鋭の評論家が提言する。
僕はダイヤルアップ接続の時代からインターネットを使っているのですが、いつのまにか、今のネットの「速さ」に慣れ、それが当たり前のことだと感じるようになっていました。
「遅いインターネット」という言葉に、「いまさらダイヤルアップやISDNには戻れないだろう」と思ったのですが、この「遅い」というのは、接続速度の問題ではないのです。
著者は、序章で、こう述べています。
そう、気づいたときは既に手遅れだった。それも、決定的に。
いまこの国のインターネットは、ワイドショー/Twitterのタイムラインの潮目で善悪を判断する無党派層(愚民)と、20世紀的なイデオロギーに回帰し、ときにヘイトスピーチやフェイクニュースを拡散することで精神安定を図る左右の党派層(カルト)に二分されている。
まず前者はインターネットを、まるでワイドショーのコメンテーターのように週に一度、目立ちすぎた人間や失敗した人間をあげつらい、集団で石を投げつけることで自分たちはまともな、マジョリティの側であると安心するための道具に使っている。
対して後者は答えの見えない世界の複雑性から目を背け、世界を善悪で二分することで単純化し、不安から逃れようとしている。彼ら彼女らはときにヘイトスピーチやフェイクニュースを拡散することを正義と信じて疑わず、そのことでその安定した世界観を強化している。
そして今日のTwitterを中心に活動するインターネット言論人たちがこれらの卑しい読者たちを牽引している。
彼らは週に一度週刊誌やテレビワイドショーが生贄を定めるたびに、どれだけその生贄に対し器用に石を投げつけることができるかを競う大喜利的なゲームに参加する。そしてタイムラインの潮目を読んで、もっとも歓心を買った人間が高い点数を獲得する。これはかつて「動員の革命」を唱えた彼らがもっとも敵視していたテレビワイドショー文化の劣化コピー以外の何ものでもない。
口ではテレビのメジャー文化を旧態依然としたマスメディアによる全体主義と罵りながらも、その実インターネットをテレビワイドショーのようにしか使えない彼らに、僕は軽蔑以上のものを感じない。
建設的な議論の場になり、世界を変えることが期待されていたインターネットは、「いかにうまく失敗した人の悪口を言うかの大喜利会場」か、「極端な考えに染まった人たちが、自分たちの正義を確認しあう道具」になってしまっているのです。
まあ、それもあまりに極論的なもので、実際は、何気なく中立的な意見にも触れているのだとも思うのですが。