筆者はこれまで牛、ウナギ、サンマ、クジラなど食についての記事を書いてきたが、理屈よりも食べるという本能に根付いたものだけに、感情を刺激するのだろう。
例えば、イチゴ。筆者が昨年8月にネットメディア「現代ビジネス」で「韓国で日本の果物が無断栽培…日韓『農業戦争』が勃発していた」を配信し、日本産イチゴが韓国へ流出したことを論じたところ、韓国の大手メディア中央日報系のテレビ局「JTBC」が昨年8月23日のニュース番組で記事について批判的に取り上げた。
昨年7月ごろは、日本政府が韓国への半導体部品の輸出規制を決めたことで、両国の対立が深刻化していた時期だった。筆者は食を主要な取材分野としている物書きとして、2018年の韓国・平昌五輪から騒がれていた「日本産イチゴの韓国流出問題」を通して、両国のナショナリズムがどのように表れているかを描きたかったのでこの記事を書いた。
記事の内容としては、日本の農業界が遺伝資源保護について認識が甘かったため、韓国に日本産のイチゴが流出した経緯を紹介した。この問題をめぐって、韓国の大手メディア「中央日報」と「ハンギョレ新聞」の近年の記事がナショナリスティックなトーンで書かれていることを踏まえた上で、韓国での国際社会の中でのしたたかさを日本政府も学んでいかないといけないと結んだ。
対して、韓国側の報道はこの記事を「突拍子もない主張」とした上で、「(韓国メディアの)記事内容を事実と断定しながら『盗作』『奪取』と批判する内容が多い」と指摘した。
正直、日本国内のネット記事をわざわざ韓国の大手メディアが取り上げることに驚いたが、そもそも筆者は「盗作」や「奪取」と表現したことはない。複数の韓国メディアの表現のトーンや農林水産省の公式資料、品種登録の国際条約などの客観的な事実に基づいて記事を書いている。こちらからいたずらにナショナリズムを煽ろうとした意図はない、とここで改めて強調しておきたい。

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結局のところ、あらゆるメディアは戦争をはじめ、もめごとが大好きで、基本的にそれでカネ儲けをしている。私が執筆しているネットメディアの大部分が、昨年の日韓関係悪化の際は掲載記事のランキング上位をすべて「文寅在」「韓国」などのキーワードが入った記事が占領した。
日本と韓国の世論や報道の仕方を見ていると、韓国の方では「少し冷静になった方がいい」などの論調も一部で出ていただけに、日本が一方的に嫌韓に走ったのは国際的地位が下がる中で、「今まで下に見ていた国に追いつかれたくない」という心理がより強かったことが原因のように思う。しかし、韓国も経済成長する中で国際的地位が高まっており、根本的な認識の変化が必要になるだろう。そうでなければ、いつももめごとのきっかけになるイチゴが気の毒だ。