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新型コロナウイルスとの戦いは「戦争」である

今日の横浜北部は朝から降ったりやんだりでけっこう肌寒かったですね。

さて、実に久々の更新となりますが、昨晩の番組でも触れた「新型コロナウイルス案件は戦争である」という話について、やや説明が足りなかったかもしれないので、その補足を簡潔に書いておこうと思います。

まず私が今回の騒ぎを「戦争である」と認識したのは、例の神戸大学の岩田教授の告発をめぐる一連の騒動でした。

岩田教授によるクルーズ船ダイアモンド・プリンセス号の船内の感染症対策がなっていないという告発そのものの是非についての判断はさておき、私がその動画やそれに触発された記事を見たり読んだりして感じたのは、

こりゃ戦場だな

ということでした。

いや、もちろん船内は厳密な意味では国と国が威信をかけて兵士たちが武器を携えて戦うような「バトルゾーン」ではありませんし、人が負傷したり、ましてやバタバタ血を流して倒れたりすることはありません。

ところが岩田教授が説明していた船内の様子というのは、「ウイルスが存在するエリア、存在しないエリア、不明なエリアを分けて身を守るという感染症への対応では当たり前のことが、船内では行われていなかった」というものでして、素人である我々の耳にも、とにかく乱雑で何もかもが混乱していることだけは伝わってきました。

ここで私が思い浮かべたのは、戦略研究の業界の人間であれば、誰もが一度は読み解いたことのあるクラウゼヴィッツの『戦争論』や、イギリスの戦史家ジョン・キーガンの名著『戦場の素顔』に描かれた、実に生々しい戦場についての記述でありました。

たとえばクラウゼヴィッツは、冒頭を飾る第1篇の第6章で、いざ戦闘がはじまると戦場が混沌(カオス)となり、

ひと言でいえば、大抵の情報は間違っていると思って差し支えなく、しかも人間の恐怖心がその虚偽の傾向をますます助長させるものとなる

という、入ってくる情報も本当に正しいのかどうかが誰にもわからないような、いわゆる「戦場の霧」というものに状況が発生すると書いているのです。

このようなことを踏まえて、クラウゼヴィッツは自身の中でも最も有名な

摩擦」(フリクション)

という概念を使って、戦争はいかに計画通りにいかないのかを説明していくわけです。

キーガンの『戦場の素顔』ではさらに生々しい記述があり、たとえば第3章で描かれているワーテルローの戦いの戦い(1815年)における最後の一時間に発生した友軍同士の戦闘や事故に関する記述からにじみ出てくる無秩序ぶりはひどい。

イギリス側の英雄であるウェリントン公は、この戦いで何が勝利に結びついたのか当事者としてもよくわからなかったために歴史的な記述をこばんだとほどだと言われておりますが、それは彼自身がまさに戦場の混乱を味わいつくしたからではないでしょうか。

岩田教授が足を踏み入れたダイアモンド・プリンセス号の船内は、もちろんこのような情報の混乱している人間同士の殺し合いが行われている「戦場」とはその趣はだいぶ様子が違います。

それでも彼が発信した、その基本的な構造はそっくり。

それは、自分たちの生き残りをかけてまさに決死の戦いを人間に対して繰り広げてくる目に見えないウイルスと、それを封じ込めようとする人間が、防護服だけではなくマスクさえ足りないリソースや人員不足の中で、しかも3700人という巨大豪華客船に対して、指揮系統やデータ、そして正確な情報が不足したまま(ウイルスの治療薬もなし)隔離措置を暗中模索で講じているという構図です。

これは対処に当たった人々にとっては、まさに「戦場」以外の何ものでもありません。

しかもダイアモンド・・プリンセス号の船内が「戦場」であるすれば、今回の新型コロナウイルス案件そのものも、大きく見れば「戦争」と考えることができるわけです。

しかも実に興味深いのは、この「戦争」を、感染の広がっている世界各国が、それぞれのお国柄の特徴や性質が発揮された形で戦う姿が、実に鮮やかに見えてくることです。

まず日本ですが、これはみなさんもご存知のように、第二次世界大戦の時と同じように、有限的なリソースを、誰が責任者なのかをはっきりさせないままに計画なく逐次投入で徐々に突っ込み、しかもそのツケは現場に回すという、まさに『失敗の本質』で描かれた中身をなぞっているかのような錯覚を見せてくれました。

では韓国はどうかというと、MERSやSARSの経験もあったために、文政権の初動は日本よりも速かったようですが、カルト教会のメンバーが武漢からウイルスを持ち込んで感染を広めてしまうという失態を演じ、しかも検査を強化しすぎているために医療現場が崩壊状態に近づいているという報道もあります。

中国の場合はそもそも武漢が発生源となっているために被害が大きい本物の「戦場」なのですが、その戦争に勝つために中国共産党が行っているのは

①武漢の地方政府の幹部たちを悪魔化

②現場で対応している医者や看護師、献金してくれた人々などを英雄化

③結果として中央政府に批判が集まらないようにする

ということ。単純にいえば、トップは戦いを指導するのではなくて、とにかく情報を統制することによって物語(ナラティブ)を有利にする、というプロパガンダ戦だけなのです。

アメリカはCDCと国務省、そしてトランプ政権のスタッフたちの間で意見の食い違いがありつつも状況に応じてなんとか柔軟に対応し、300人ほどの中に陽性患者14人を一緒の飛行機に自国民はチャーター便で帰国させております。

ただしここまで国外ではウイルスに対応しようとも、国内でのウイルスの封じ込めについてはロクにできていなさそうなところが大雑把なアメリカらしい。

興味深かったのはカンボジアでして、35年間にわたって独裁を続けるフン・セン首相は、タイや台湾に入港を断られたクルーズ船ウェスタッド号を、ほぼノーチェックで受け入れただけでなく、すぐに乗客全員を出国させて事態を収束させる(いや、させてないかもしれないが)という驚くべき大胆な措置をとっております。

このように各国の新型ウイルスへの対処の仕方を見ると、実にその国ごとのやり方の特徴というものが見えてきます。

そしてこれを「戦争」であると仮定すると、彼らのそれぞれの戦い方は、戦略研究でよく論じられる「戦略文化」(strategic culture)として表現されるものとなります。

これをちょっと古い別の言い方でいえば、日本に「日本流の戦争方法」(Japanese way of war)があり、アメリカには「アメリカ流の戦争方法」(American way of war)、そして韓国には「韓国流の戦争」がある、となるわけですね。

戦争はワインと似ている。常に真実を教えてくれるからだ

という言葉を残したのはスウェーデンの元議員で「地政学」という言葉を最初に使ったルドルフ・チェレーンですが、今回の新型コロナウイルス案件を「戦争」と考えると、まさにお国ごとの「真実」が見えてくるのではないでしょうか?

(ボンダイ・ビーチ)

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