- 2020年02月27日 06:00
人権より2次感染防止を優先、香港の新型コロナ対策 - 武田信晃
1/2感染の拡大が止まらない新型コロナウイルス。日本ではダイヤモンドプリンセス号の対処方法が問題になっているが、その裏側で、乗員乗客合わせて約3600人が乗車した、ダイヤモンドプリンセス号とほぼ同規模の大型クルーズ船「ワールドドリーム号」が2月2日に台湾に向けて香港を出発していた。そしてその航海中に、1月下旬に行われた同船の航海ツアーに参加した中国人8人が、広東省での下船後にコロナウイルスに感染していたことが判明。船は急遽2月5日に香港に戻った。
香港で最も有名な通り弥敦道も人が減り、歩く人はマスクを着けている(筆者撮影、以下同)
香港政府は検査が必要として、この8人と接触した乗員1800人の検査を実施。その間、乗客を含め1人の下船も認めなかった。そして、乗員に感染者がいないこと、香港出発時に乗船したツアー客は中国人と接触していないことから、4日後の2月9日に全員の下船を認めた。それ以降、ワールドドリーム号からの感染者は出ていない。
ワールドドリーム号は乗員1800人の検査を4日で終わらせた上、その後同船からの感染者が出なかったという結果からすると、日本政府と香港政府の検疫レベルに差が出たことは否定のしようがない。
中国から来る人は全員14日間の強制隔離
中国と陸続きの香港では、どうやって中国本土から来る人を減らすのかがポイントとなった。大変なのは公立病院の医療従事者で、感染のリスクを背負いながら治療をすることになる。中国からの来港者が多ければ香港の防疫が困難になることから、医師らが「医院管理局員工陣線」を組織し、中国との税関の完全封鎖を求めて2月3日からストライキを実施し、政府との話し合いも求めた。
しかし、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は、中央政府に気を使ったのか、中央政府の指示なのかはわからないが、税関の完全封鎖と話し合いは拒否。ストライキは継続され、香港市民を不安に陥れることになったため、林鄭行政長官にもプレッシャーがかかった。結果、段階的に税関閉鎖は進み、最終的には、2月8日以降中国から香港に入る人(中国人、香港人、外国人全て)に対して14日間の強制隔離を行うことを決定。
驚くのは、湖北省を訪問して香港に戻ってきた香港居民については、カルロス・ゴーン氏の逃亡劇で話題に上ったリストバンド状の電子追跡機器を着用させて、自宅隔離させていることだ。2次感染を増やすくらいなら、ある程度の人権も制限する対策を施すのが香港のスタイルだ。
中国人は言うまでもなく強制隔離などはされたくないため、香港に来ることがなくなった。結果、香港から17年ぶりに北京語があまり聞こえなくなった。筆者にとっては「あ~、昔はこんな雰囲気だった」とタイムスリップした感じだ。
香港政府は、3月1日まで公務員は緊急性を要する業務以外、在宅勤務を実施させているほか、小中学校は(香港の中学校には日本でいう高校を含む)、すでに一時休校しているが何度も延長され、2月25日に、休校解除は最速で4月20日と発表された。香港最大のメガバンク香港上海銀行(HSBC)は香港内にある24の支店で2月3日より業務を一時停止することを発表し、香港最大のバス会社、九龍巴士(KMB)は同じ2月3日から21路線の運行を暫定的に停止している。
その他、多くのイベントも延期・中止となっている。4月3日から日本代表も参加する予定だった7人制ラグビーの大会「香港セブンズ」が10月に延期し、映画の街らしくアジアでは有数の規模をほこる「香港国際映画祭」も夏まで延期。俳優で歌手の劉徳華(アンディ・ラウ)らの各種コンサートは軒並み中止となり、映画館では、観賞する際にマスクの着用が義務付けられた。
エレベーターのボタンはセロハンで覆われ、「2時間に1回消毒」と書かれている
商業ビルやマンションなど、ほとんどの建物のエレベーターボタンにはビニールシートが張られ、そのシートを2時間に1回、ビルの清掃員が消毒をしているが、これはSARSの時と同じだ。地下鉄など、公共交通機関や人が混雑するところでは感染拡大を防ぐためにマスクの着用が呼びかけられている。
筆者は先日、料理のガイドブックの『ミシュラン』の香港・マカオ版で星を獲得したレストランを取材したのだが、その時のPR担当者が「距離が大事よね」といって自分の片手を先に伸ばした。私も片手を伸ばして最低1メートル以上の距離を確保したのだが、こういったことを自然としてくる。
地下鉄駅でマスクの着用を促す告知
このように、税関封鎖の件を含め、日本と比べると対策の徹底具合の差は一目瞭然だろう。
- WEDGE Infinity
- 月刊誌「Wedge」のウェブ版