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やせたい気持ちはどこから?文化人類学者・磯野真穂さんに聞く女性とダイエットの関係

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多くの人が持つ「やせたい」という気持ち。でも、その気持ちに振り回されすぎてしまうと、体調を崩してしまうことだってあります。ではどのように「やせたい」気持ちと付き合えっていけばばよいのか・・・。そんな疑問をもとに、著書『ダイエット幻想』(ちくまプリマー新書)が話題の文化人類学者・磯野真穂さんに、「やせたい」気持ちの背景や、女性と「やせ」の関係について話を聞きました。

◇「やせたい」気持ちはどこから?

“この本をあなたがいま開いているということは、きっとあなたが心のどこかで、「やせたい気持ちとうまく付き合えていないこと」に気づいているからだと思います”(『ダイエット幻想』「はじめに」より)

――「はじめに」の一文にドキリとしました。やせたい気持ちと全然うまく付き合えてない! と。

『ダイエット幻想』では、やせたい気持ちを否定するのではなく、やせたい気持ちとうまく付き合う方法を考えるために書きました。

まず考えてほしいのは、「やせたい」のか、「やせたいと思わされているのか」ということです。生まれたころから「やせたい」と思っていた人はいません。

文化人類学者の磯野真穂さん

私が2016年から行っているワークショップ「からだのシューレ」で取ったアンケートがあります。女性に初めて「やせたいと思った」時期を聞くと、小学校高学年から中学までに集中しています。第二次性徴期を迎え、身体が丸みをおびてくる時期です。

男の子から直接「デブ」とからかわれたり、「女の子は50キロ以下でいてほしい」という情報に触れたり、「やせてないとおしゃれに見れない」と思ったりして、「やせたい」と思いはじめます。

「やせたい」と思うのは、生まれつきだからではなく、私たちの社会に「やせている人の方が素敵である」という価値観があるからです。そんな社会の声に囲まれて生きているうちに、いつの間にか「やせたい」が自分の内面から出てきた気持ちのように思えてくる。

私は文化人類学者なので、『ダイエット幻想』では、違った価値観を持つ人々の事例を紹介しました。例えば、ヌアーと呼ばれる民族は、男の子が成人するための儀式として刃物で頭を一周する傷を三本つけます。この傷こそが彼らの社会における「大人の印」です。小さい足の女性が素晴らしいとされていた10世紀の中国では、纏足(てんそく)がおこなわれます。幼いころから成長しようとする足を縛り、女性たちは激痛に耐えながら小さい足を目指しました。

食べ物のアクセスが簡単ではなかった時代には、太った身体のほうが魅力的だとされてきました。いま私たちが「やせた身体」を素敵だと思うのは、「食べ物に囲まれた中で、自己管理を怠らない」ことが素晴らしいとされる社会だからです。

その構造を知ったうえで、「朝から晩まで体重のことしか考えられない」とか「太ることが怖くて楽しく食事できない」ようながんじがらめの毎日で送っているのであれば、「やせたい」と思わされる環境から逃げる方法もあるのだと、伝えたいなと思いました。

◇女性とやせ

――「自信のない時にダイエットをしてみるというのは、自分の人生を心地よくするための手軽な方法」と書いているのが興味深かったです。

「やせた?」が誉め言葉になっているように、ダイエットは他人からの承認を得るのに手っ取り早い方法です。やせたら周りの態度が変わることは、私たちの社会でよくある光景ですが、不思議ですよね。性格が変わったわけでも、成績がよくなったわけでもなく、単に体重が軽くなっただけです。

――やせると、承認されたい気持ちが満たされるんですね。

でも注意したいのが、この国では「やせすぎていないと、“やせている”と思われないこと」です。戦後すぐの20代の女性たちと、今の20代の女性たちのBMI(※体重を身長の二乗で割ったもの)を比べても、今の方がやせている。栄養失調の時代よりもやせているんです。それでも、「自分は太っているのではないか」と若い女性たちが思ってしまう現状がある。


ダイエット幻想 (ちくまプリマー新書) - 磯野真穂(Amazon.co.jp)

――女性がやせを目指してしまう理由に、「女性は男性よりも外見の評価にあいやすい」ことを挙げていますよね。

「結婚相手に求める条件」(「出生動向基本調査」2015厚生労働省)について男女に聞いた調査によると、男性は女性の経済力(4.7%)、職業(6.0%)よりも容姿(24.1%)を重視していることがわかります。一方で女性は男性の経済力(39.8%)や職業(30.0%)を、容姿(15.9%)よりも重視している。

私たちは学校教育において、まじめに勉強して、よい成績をとることを推奨されますよね。男性はちゃんと勉強して「いい大学」「いい会社」に入れば、金銭的に豊かになることができる。学校教育の内容と矛盾していません。しかし女性は、成績が良く、高給が得られる職業についても、結婚する際には自分の容姿をより重視されるダブルスタンダードに直面します。

歴史的に見たときに、女性は男性に「選ばれる」ことによって幸せが確保された面がありました。だから見た目を気にしなければいけない。「女性誌はいまだに『愛され』を捨てられない」と、『なぜ私たちは、恋をして生きるのか』(ナカニシヤ出版)の著者である哲学者・宮野真生子さんが言ったように、女性たちが自ら、「愛す」のではなく「愛され」の立場になろうとする現実がある。

働く30代女性を対象にしたある雑誌には、「意志ある愛され顔」のコピーがついていました。これは現代の女性が置かれている矛盾した状況をよく表しています。自立して仕事をするには「意思」がなければいけない。しかし男女関係が意識されると、「愛され」を求めてしまうのです。

特に日本において、その傾向は強いと思います。自立して生きる女性に使われる “Girls Power”も、日本では「女子力」と訳されてしまう。ちょっと意見を言うと「怖い」と言われてしまうので、「しなやかな強さ」のような、よくわからない言葉が女性に使われる。

そして、日本で一般的にかわいい、きれいと言われる女性芸能人のBMIはネットで調べてみると、おしなべて18前後で、医学的は「やせすぎ」です。これだけ「多様性」が叫ばれる社会でも、体型については多様性が認められていない。

写真AC

このBMIが18くらいの体重を「シンデレラ体重」と呼ぶようで、早稲田大学で私の授業を受けている女性学生が友人にアンケートを取ったところ、半数を超える学生がシンデレラ体重を肯定的に、かつ目指し得る体型と捉えていました。

「シンデレラ体重」が生まれた背景には、日本の女性に、無害で子どもらしい要素が望まれているからでは、という仮説を私は持っています。シンデレラ体重を維持しようとすると、胸やお尻のある丸みを帯びた体型になることは難しい。つまり女性たちは、大人にならないことが求められているのではないでしょうか。

――しかも多くの女性たちが、大人になる途中の第二次性徴期に「やせたい」と思ってしまう。

そうなんです。本当はもっと早く、大人になっていいと思うんです。

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