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女子会に芸者を呼ぶ時代に?八王子の花街で現代のお座敷遊び事情を聞いた【止まり木の盛り場学 第6回】

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惑わぬはずが惑いまくる「40男」コンビが昭和の盛り場の現在を伝える人気連載「止まり木の盛り場学」。フリート横田さんと渡辺豪さんが今回おとずれたのは、東京・多摩地域の八王子市。独立後21年営業を続けているという置屋の現役女将に、お座敷遊びのいまを聞きました。
 

甲州街道の宿場町・八王子にあった遊郭

渡辺 やってきました八王子。近世以降は江戸と現在の山梨をつなぐ甲州街道の宿場町として整備されたものの、通過する参勤交代の大名も少ないせいもあって、街道周辺は貧しかったのですが、江戸が一大消費都市として成熟した江戸時代後半からは風向きが変わる。

横田 富国強兵、殖産興業!なんてスローガンを叫んでいた明治のころって、メインの輸出品が生糸や絹織物ですよね。数少ない外貨獲得のアイテムだったわけですもんね。「絹しか売るものがない国が軍艦を持った」みたいな言い方さえあったくらい。だから官民あげてバックアップして、相当のカネが動いた街だったはずです。

となると、当然遊廓もあったわけですよね。

渡辺 起源はやはりというか街道の飯盛旅籠(食事も提供する旅館)に給仕などに従事する「飯盛女」と呼ばれた娼婦でしたが、幕府は黙認する姿勢を取っていました。宿場を維持する経費を確保するためにもセックス産業が利用されたわけです。

街道沿いで営業していた飯盛旅籠と飯盛女が、明治30年の大火事を契機に宿場町から離れたエリアに囲い込まれました。昭和33年の売春防止法施行をもって、色街としての役割は終えています。今も色街として続いている吉原とは対照的ですね。

昼の「色街」を歩く 日本最大のソープランド街・吉原の現在【止まり木の盛り場学 第1回】

八王子の遊廓があったメインストリート。現在は倉庫や住宅が建ち並ぶエリアに

横田 それでも駅前には、街を歩いてもどことなく面白い街の匂いがありますね。そして今も、当時から続く「止まり木」が残っていますよね。

渡辺 べにとおしろいの匂いじゃないんですか、横田さん。

横田 ・・・・・・おっ見えてきましたよ。

渡辺 老舗の飲食店が集中するエリアからなにげない路地を折れると、急に黒塀。〽粋な黒塀、見越しの松に〜なんて歌詞の面影が残る花街、八王子三業地ですね!


三業地・・・芸者置屋、料理屋(料亭)、待合の三つの業種を集めた指定地を言う。花街。花柳界。

黒塀伝いに路地を歩くと瀟洒な構えの家が見えてくる。置屋「ゆき乃恵」だ。40男二名は即座にその門をくぐり、我先に玄関に殺到、今度はことさらにゆったりした動作を作りながら低くした声をそろえる。「ごめんください」。

京都の花街でも見られる芸者さんの芸名と置屋の名が入ったうちわが玄関に艶を添える

芸者さん いらっしゃいませ。

横田渡辺 我々は「止まり木」を探している40男でして、あの、孔子曰く「40にして迷わず」などといいますが我ら迷いまくりの・・・

芸者さん どうぞおあがりください。

迎えてくれたのは半玉(見習い芸妓)のてる葉さん

横田渡辺 今日はよろしくお願いします。

めぐみ こちらこそ。

芸を仕込む厳しさの中にも優しい眼差しを絶やさない女将のめぐみさん。装い・所作・語り口、一つ一つが美しい

置屋「ゆき乃恵」の女将と芸者に聞く、八王子花街のいま

こうして、置屋「ゆき乃恵」の女将めぐみさんと芸者さんたちとのやりとりが始まる。

渡辺 いまは何軒くらい置屋はあるのですか?

めぐみ 私も組合長をしていた方の置屋に15年いたあと、「ゆき乃恵」という屋号をいただいて21年目です。今は全部で7軒あります。うちから3軒独立しているんですよ。

横田 私はこれまでいくつか花街の取材をしてきましたが、残念ながら衰退・縮小しているところが多いです。ですが、八王子は「ゆき乃恵」さんの活躍で、盛り返したと聞きました。こちらから「のれん分け」するように、置屋も増えていったのですね。

置屋とは、芸者の所属するプロダクションのようなもので、女将である「お母さん」の元、芸者数人がときには、ともに寝起きする。


渡辺 お座敷遊びとは無縁な我々も、なんとお呼びしていいのか・・・それと芸者さんは何人いますか?年齢層とか。

めぐみ 私は今も芸者でもあります。お母さんじゃなくてお姉さんでいいですよ(笑)。今は全員で17名います。下は17歳から上は70代までですね。

横田 踊りなどのお稽古は、あの歩いてすぐにある見番でやられるのですか? そのお代などは自前ですかねやっぱり。

見番(けんばん)・・・検番とも書く。三業組合の事務所で、芸者の取次も行う。

めぐみ そうですね、補習のように置屋でやったりもしますけど。最初の稽古(の費用)は面倒みますけど、芸事は身銭をきらないと、身につかないんです。そこは欲がでないといけないですね。いまはみんながんばってやってます。まあ私も何十年やっていてもお金はたまりませんよ(笑) でも綺麗事だけではないにしても、もっと大切なものをいただいていますから。

渡辺 芸者さんが入ってくるキッカケは、やはりご紹介ですか?それともネットとか。

めぐみ 今はネットですね。

秋田県出身の芸者てる葉さんは、21歳。まだ若い「半玉」さんとして現在は地毛で髪を結い、振袖姿。現在、三年目。千葉出身のふく弥さんも三年目だが、転職組として年齢がお姉さんのため、かつらを付けた留袖姿。両者とも以前は置屋の二階で下宿し、お母さんが衣食住と最初期の稽古費用は面倒を見ていた。基本給はなく、完全歩合だ。

てる葉 私もネットで調べて募集しているところを探しました。八王子の三業組合は、ホームページの更新度も高くて、イベント情報も頻繁に出していたので、ここだ、と思ったのです。

渡辺 ああ、凄く現代的な視点ですよね。助成金かなにかで作って放置状態になっている伝統産業のサイトって多いですものね。「閉じた世界」であることがむしろ花街の魅力の一つであった業界なのでしょうが、てる葉さんのような若い世代は、ネットの動向に敏感で、自分とこれから飛び込もうとする組織の相性まで嗅ぎ取ってしまうのかもしれないですね。

女将さんの指示のもとポージングするとピタリとはまる。ポーズ指導する女将さんの目線や姿態、品の作り方に、おじさん二名は「はっ」と息を飲む

8割が地元客 若手経営者が遊ぶ街に

横田 かつては「三業地」というくらいですから、どこの花柳界であってもそれぞれの業種の店が揃って指定地域内で商売が完結できていました。普通の街とは交わらないのが花街だった。つまり「境界」が明らかにあったわけですけど、待合がなくなって二業地になったり、そもそも料理屋さえなくなってしまって、花街としては成り立たなくなっていきました。なのに、八王子は元気に見えます。

めぐみ 確かに料亭はもう4軒しか残っていないです。昔、私が来たころはまだこの辺(三業地周辺)を超えると、「遠出」と言って、別料金をいただいて出かけるほどでしたが、まわりがなくなっちゃいました。だからもう、行かざるをえなかったし、「行きやすくなった」という面もあります。今は川越や桐生まで出かけますし、のびのびやってます。座敷のない、ホテルの大広間で踊ることもありますしね。

渡辺 店がある種の「格」のようなものを持っていて、芸者さんが遠出したがらない店もあった。これが芸者やお座敷遊びの品格を保つと同時に、レジャーや飲食業の多様化に伴って、活動範囲の足枷にもなったのでしょうね。八王子の場合、むしろ行動範囲が広がったということですか。

横田 衰退は規模を小さくすると同時に、花街とそうでない街の「境界」と、古い慣習も溶かした…。そこに女将さんたちの意識と行動が加わった。他の花街でも耳にしたのは、境界がなくなりつつあるので、芸者さんの「貸し借り」が結構ある、という話を聞きました。

たとえば有名な六花街の話でしたが、こっちのお座敷で人が足りないから、助っ人で来てくれ、というやりとりがある、と。オープンにはやってないのかもしれないですが。昔では考えられなかったことですよね。

六花街・・・東京六花街。芳町・新橋・赤坂・神楽坂・浅草・向島の花街を言う。

めぐみ こちらもあるにはありますけど、都内から八王子は遠いでしょ? だからやっぱり八王子でまとまってやっています。お客様の8割が地元ですしね。

渡辺 お客さんの世代はどうでしょうか?シニアのイメージが強いですが。

めぐみ いえ、30代くらいの経営者の方々の人が多いですよ。皆さま、ジュニアですけれども。お爺さんが機屋(はたや)さんだった、というような。

渡辺 え〜!それはびっくり!私たちより若い世代がしっかりとお座敷遊びを継承していたとは。

横田 なるほど、若旦那ですね。地場産業、絹織物で財を成した方の子孫が別事業をやっていて、たとえば駅周辺の物件のテナントのオーナーをやってるとか、ですかね。

めぐみ そういう方もいらっしゃいますね。

いつにもまして熱を帯びて質問を浴びせる横田、それを優しく見守る芸者衆

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