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【読書感想】熱源

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【第162回 直木賞受賞作】熱源

  • 作者:川越 宗一
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2019/08/28
  • メディア: 単行本


Kindle版もあります。


【第162回 直木賞受賞作】熱源 (文春e-book)

  • 作者:川越 宗一
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2019/08/28
  • メディア: Kindle版

内容紹介
樺太(サハリン)で生まれたアイヌ、ヤヨマネクフ。開拓使たちに故郷を奪われ、集団移住を強いられたのち、天然痘やコレラの流行で妻や多くの友人たちを亡くした彼は、やがて山辺安之助と名前を変え、ふたたび樺太に戻ることを志す。

一方、ブロニスワフ・ピウスツキは、リトアニアに生まれた。ロシアの強烈な同化政策により母語であるポーランド語を話すことも許されなかった彼は、皇帝の暗殺計画に巻き込まれ、苦役囚として樺太に送られる。

日本人にされそうになったアイヌと、ロシア人にされそうになったポーランド人。
文明を押し付けられ、それによってアイデンティティを揺るがされた経験を持つ二人が、樺太で出会い、自らが守り継ぎたいものの正体に辿り着く。

樺太の厳しい風土やアイヌの風俗が鮮やかに描き出され、
国家や民族、思想を超え、人と人が共に生きる姿が示される。

金田一京助がその半生を「あいぬ物語」としてまとめた山辺安之助の生涯を軸に描かれた、

読者の心に「熱」を残さずにはおかない書き下ろし歴史大作。


 第162回直木賞受賞作。「ひとり本屋大賞」5冊め。
 アイヌとポーランド人の話、というのを聞いて、「ああ、『虐げられた人たち』の感動物語なんだな」と思っていたんですよ。
 わかりやすい、お涙頂戴、みたいな話だったら、拍子抜けだな、って。
 
 正直、読み進めていくうちに、圧倒されてしまいました。
 こんな骨太な小説は、久しぶりに読んだような気がします。
 
 命が、軽い。
 北海道でなんとか生活していた人たちが、疫病でバタバタと倒れていく場面を読みながら、僕は唖然としていました。
 予防接種が存在していた時代でも、多くの人がその効果に不安を持っており、積極的に受けようとしなかった。
 その結果、大勢の人たちが、読んでいて、「えっ?」と思うくらい、いきなり命を落としていくのです。
 自然や病の猛威に対して、人間が無力ではなくなってから、まだ100年くらいしか経っていない。

 そして、この世界では、いろんな人たちが、自分たちを差別し、押しつぶそうとする世界に対して、時には妥協し、ときには抵抗しながら生きているのです。

 主人公のアイヌ・ヤヨマネクフもそのひとりなのですが、彼はアイヌであることを誇りに思いつつも、力による抵抗ではなく、教育や文化の保存によって、日本やロシアと折り合いながら、生きていこうとします。
 ああ、ヤヨマネクフは、きっと、何か「すごいこと」をやってのけるのだろうな。
 僕はこの小説の前半を読みながら、そう思っていました。
 
 これから読む人の楽しみを奪ってはいけないので、詳しくは書きませんが(というか、僕はこの小説を、ぜひ、多くの人に読んでもらいたいのです。とくに、『王様のブランチBOOK大賞』に輝くような作品に、食傷している人たちに)、彼らは「何者か」になろうとし、「何事か」を成そうとして、試行錯誤を続けていきます。それはもう、読んでいると、心の中で応援せずにはいられないくらいの切実さをもって。
 何もしなければ、「より大きな国」に取り込まれ、差別されるだけの存在になってしまうから。
 でも、時代の流れ、あるいは、人の運命というのは、こんなに頑張っている彼らに、けっして甘くはない。

「努力」や「志」の重さが、必ずしも「結果」に結びつくとはかぎらない。

 多くの物語というのは「努力・友情・勝利」あるいは、「野心・成功・劇的な敗北」のいずれかに属しています。
 しかしながら、ほとんどのリアルな人生は、「努力・友情・突然死」とか、「野心・逡巡・諦念」みたいな、なんとも言えない中途半端さを残して終わっていくのです。
 

個人的な印象としては、この『熱源』の読後感は、『ストーナー』に近かった。

fujipon.hatenadiary.com

 だからこの『熱源』は中途半端な作品である、なんてことは全くありません。
 あまりにもあっけなかったり、中途半端だったりすることが、かえって、「リアルな手触り」を残していくのです。
 主要登場人物のひとりは、結局その後どうなったのか書かれておらず、僕は一生懸命読み返し、ネットで調べてしまいました。
 「不明」だったから描かれなかったのか、それとも、あえて語る必要はない、と作者は考えたのか。
 
 どんなに足掻いてもうまくいかないのが人生だけれど、だからこそ、「懸命に努力したけれど、目立った成功を収めることもなかった人々」というのは、なんだかとても愛おしい存在のように、僕は感じたのです。そういう生き方もまた、人の在り方なのだ、と心強くもなりました。

 人ひとりの命は軽い。あまりにも軽い。
 でも、多くの人が積み重ねてきた文化や祈り、命を繋いでいく、という行為は、とてつもなく重い。

「”優勝劣敗”は自然の道理なり、アイヌ人種においても免るるべからず”。北海道で学校勤めをしているとき、和人によく聞いた」

「どういうことだ」

 日本語を交ぜた太郎治の言葉に、ヤヨマネクフは首を傾げた。

「アイヌは劣っているから滅びる定めの人種ってことさ」

 それからの太郎治の話は、聞いていて胸が悪くなった。北海道のアイヌは窮乏し、人口も漸減している。その原因の説明にさっきの道理とやらが持ち出されるらしい。和人の中での議論は、そこから二つに分かれる。だから放っておけ、あるいは、人類愛として保護すべきである。ただし太郎治の見たところ、窮乏の原因は和人による場所と漁場、狩場を奪われたことにある。

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