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「黒川氏定年延長」と同じ“理屈”の「籠池夫妻判決」~もはや日本は法治国家ではない

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 先週水曜日(2月19日)に、大阪地裁で一審有罪判決を受けた籠池夫妻が、昨日夕方、判決書を携え、私の事務所に来られた。判決について意見を聞きたいということだった。籠池夫妻とは初対面だった。

 私にとって最大の関心事は、この事件で、補助金適正化法違反ではなく詐欺罪を適用した検察の起訴に対して、裁判所がどのような判断を示したのかという点だった。

 籠池夫妻が逮捕された際に、私は【検察はなぜ”常識外れの籠池夫妻逮捕”に至ったのか】と題するブログ記事を著して、

詐欺罪と補助金適正化法29条1項の「偽りその他不正の手段により補助金等の交付を受ける罪」(以下、「不正受交付罪」)は「一般法と特別法」の関係にあり、補助金適正化法が適用される事案について詐欺罪は適用されない

と指摘し、多くのメディアの取材に対しても、この点について断言した。

 補助金適正化法が適用されても、「無罪」となるかどうかは別である。しかし、その場合、被害額は、不正受給による「差額」となり、受け取った金額「全額」が被害額となる詐欺罪とは大きく異なる。法定刑もかなり異なるので、籠池氏の量刑にも大きな影響があったはずだ。特に、妻の諄子氏は、府・市からの補助金詐欺は無罪、サスティナブル補助金の詐欺だけで懲役3年執行猶予5年を言い渡されており、もし、補助金適正化法違反であれば、有罪であっても、せいぜい罰金刑だったであろう。

 さっそく籠池氏に判決書を見せてもらい、該当部分を読んだ。

 唖然とした。こんなものが「判決」と言えるのだろうか。全く理由にもならない理由で詐欺罪の適用を認めている。しかも、さらに、驚いたことに、その点についての判決の「理屈」は、最近、黒川東京高検検事長の違法な定年延長を容認した政府答弁と大変良く似ているのである。

 前記ブログ記事を出した後、起訴の直前に出した【検察は籠池氏を詐欺罪で起訴してはならない】と題するブログで、補助金適正化法の「不正受交付罪」に関する立法時の国会議事録も調べ、その際の政府答弁も引用するなどして、詐欺罪の適用はあり得ないことを詳細に論じた。

 補助金適正化法は、昭和30年に制定されたものだが、詐欺罪と同法29条1項違反の罪との関係についての質問に対して、政府委員の村上孝太郎大蔵省主計局法規課長は、

偽わりの手段によって相手を欺罔するということになると、刑法に規定してございます詐欺の要件と同じ要件を具備する場合があるかと存じます。しかしながら、この補助金に関して偽わりの手段によって相手を欺罔したという場合には、この29条が特別法になりまして、これが適用される結果になります。

と答弁している。村上氏が著した解説書でも、「同法違反の予定する犯罪定型は、補助金等に関して刑法詐欺罪の予定する定型を完全に包摂しており」と述べており、立法経緯からは、適正化法違反が詐欺罪の特別規定で、同法違反が成立する場合には、詐欺罪は適用されないという趣旨であることは明らかだ。

 学説も、ほとんどが不正受交付罪は詐欺罪の特別規定だとする「特別規定説」を支持しているが、「国の補助金の不正受給についても、補助金適正化法の不正受交付罪ではなく詐欺罪を適用できる」とする佐伯仁志氏などの少数説が一部にあり、その根拠として重視しているのが昭和41年2月3日の最高裁決定で、そこでは両罪の関係について、

犯人側の為した行為自体は同一であり、相手方のこれに対応する態度の如何を構成要件の中に包含する罪とこれを構成要件としない罪とがある場合、検察官は立証の有無難易等の点を考慮し或は訴因を前者とし或はこれを後者の罪として起訴することあるべく

と判示しているが、同最高裁決定は、補助金適正化法が施行される直前の昭和30年に被告人ら3名が国庫補助金を不正に受給しようと「共謀」し、同31年に施行された後にそれを実行して不正受給を行った事実を、検察官が補助金適正化法違反で起訴したことが「刑罰の不遡及を定める憲法39条に違反するのではないか」が争われた事案であり 国の補助金の不正受給に対して詐欺罪を適用した事案に対して判断を示したものではないことなどから、国の補助金の不正受給についても詐欺罪を適用できることの判例上の根拠となるものではないことを指摘した。

 検察の実務では、一貫して、国の補助金の不正受給については、詐欺罪ではなく補助金適正化法違反を適用してきたのであり、両罪の関係について、不正受交付罪が成立する場合には詐欺罪は適用できないことを大前提にしてきたと考えられる。また、最高裁も含め、裁判所も、同様の見解をとってきたことは、最近の裁判例からも明らかであり、「判例上、国の補助金の不正受給についても詐欺罪が適用できるとされている」とする上記少数説は、全くの筋違いだと指摘した。

 確かに、補助金適正化法制定当時の「立法事実」は、現在の状況には適合しなくなっている面もある。しかし、国の補助金の不正受給事案に対して詐欺罪と同程度に重く処罰するのであれば、補助金適正化法違反の罰則の法定刑を引き上げるか、詐欺罪の適用を明文で認める立法が必要である。検察が、従来の罰則の運用の前提となっている解釈を勝手に変えて、厳しく処罰することなど許されない。突然、籠池夫妻の事件に限って詐欺罪を適用して処罰するというのは、法治国家においてはあり得ないのである。

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