記事

外資系企業に勤めてわかった「日本人の働き方が“あまちゃん”である理由」 「言われたことをきちんとこなす人」が評価されているが…… - 牧野 知弘

 これまで日本人は勤勉な国民だと言われてきた。朝から晩までよく働く。これは以前より多くの外国人から指摘されてきたことだ。日本人は残業も長いし、休暇もとらない。

 一方で外国人、特に西洋人と呼ばれる人たちは、家族を大切にし、休暇はきちんととる。いつまでも会社に残ることもなく、定時に帰る。このような反省にたって今、日本社会では「働き方改革」なる大運動が推進されている。


©iStock.com

夜や休日の“持ち帰り残業”が増えただけ?

 この運動はだいぶ成果が上がっているように見える。夕方の通勤電車は5時すぎどころか4時半くらいから混雑が始まり、夜中の電車はむしろ驚くほど空いていることが珍しくなくなった。以前のように上司が残業など命じようものならパワハラの汚名を着せられ、悪くするとその上司は叱責や降格処分になりかねない。休暇についても以前よりもはるかに取得しやすくなったというのが、最近の大企業を中心とした企業社会の実態ではないだろうか。

 こうした就業環境の是正自体はまことに結構なことである。だがこれで本当に日本人、特に事務系勤労者の労働生産性は高まったといえるのだろうか。残念なことに聞こえてくるのは仕事を積み残してしまい、夜や休日には会社に居られない社員たちが家に持ち帰ったり、早朝出社したりする姿だ。残業代が減って、早く会社を出ても遊びに行く金がない、などという情けない話も耳にする。

 会社での評価の仕方にも変化がみられる。以前のようにモーレツ社員が推奨されなくなった結果、時間内に無難に仕事を片付ける社員のみが評価される傾向にあるようだ。つまり仕事上の冒険をしない、言われたことをきちんとこなす人が評価される時代になったともいえようか。激しく残業をする、もう少しラディカルに言えば、会社から求められている以上に仕事をするような社員が評価されることが少なくなった。

入社して驚いた“外資系企業の3つの魅力”

 私はセミナーやビジネスパーソン向け研修の講師をやることも多いのだが、みんなが集まりやすい夕方以降に開始時間を設定すると、「働き方改革」にひっかかるので社員の出席を見送る、などといいだす会社が出てきた。では、家族を大切にする外資系の会社では、実際にどんな働き方がなされているのだろうか。

 古い話で恐縮だが、私は大学を卒業して勤めた銀行をわずか3年で辞め、外資系コンサルティングファームに転職をした。

 外資系であっても当然、入社時には会社の様々なルールや制度の説明を受ける。それは当時の私にとってはとても新鮮かつ魅力的な内容だった。特に次の3点はそれまでの日本の会社では考えられないものだった。

・残業という概念はない(年俸制)
・いつ会社に来てもよいし、来なくてもよい
・休暇は好きなときにとってよい。暇ならどんなにとってもかまわない

 当時の私が感じたのは、「なんてバラ色の会社に入ったことだろう。朝はどんなに寝坊してもよい、好きな時間帯に働いてよい、休暇は時期も期間も自由、年俸制もなんだかおしゃれでかっこいい」というものだった。

プロジェクトごとの「隙間」がない!

 ところが、私はその後3年間ほどこの外資系コンサルティングファームにお世話になったが、結論から言えば長期の休暇なんてとんでもない、毎晩深夜まで残業の連続だった。つまり、年俸制なので自分の時給はどんどん減っていった。

 朝は早朝からブレックファーストミーティング。一つのプロジェクトが終わってもさらに次のプロジェクトに加わる。結局、プロジェクト単位で働く社員にとっては、プロジェクトごとの「隙間」がないかぎり、休暇なんて夢のまた夢なのだった。

 また、個々の社員は「芸者」のような存在だ。プロジェクトが立ち上がって社内でチームを組成するときに「お呼び」がかからないことには、やがておまんまの食い上げ、つまりはクビ、ということになる。スケジュールに「隙間」などが生じてしまっては、自分自身が社内で評価されずに「店晒し」になっていることと同義なので、結局休暇なんてとりようがないのだ。

 入社したときの「魅力的な会社生活」を思い描いた自分の浅はかさにあきれたものだ。

外国人社員は実に「効率よく」働く

 では一方で同じ会社で働く外国人社員たちはどうだったか。実は彼らは、私たち日本人社員以上によく働く人たちだった。時間という概念ではなく、「効率」という意味合いで彼らは実に上手に働くのだ。

 まず、朝が早い。仕事が立て込んでくると早朝から彼らはオフィスに来て働く。ランチはほとんどが「出前」だ。当時のパートナーだったドイツ人はマグロの赤身が大好物。赤身だけがのった寿司を一桶、ほとんど毎日のようにランチで食べていた。ちょっと味覚が変なのではないかと思ったが、ランチで外に出る時間も惜しんで働いていたということだ。

 早朝から働いている外国人社員は夕方5時や6時になるとさっと帰ってしまう。しかし「実働時間」で考えると実に効率的な働き方をしているともいえるのである。

 一方の我々日本人スタッフはどうだったであろうか。まず、言い訳になるが通勤時間が長い。外国人スタッフは赴任手当のようなものがあるので、代々木や広尾といった都心部に与えられた住宅からやってくる。しかも車での通勤はあたりまえ。

 ところが日本人スタッフは朝の「くそ混み」電車で通勤は1時間。最初からハンデがある。だが彼らの仕事での集中力は、我々日本人には到底かなわないようなものだった。

日本人は意外と「働いていない」時間が多い

 日本人は昼間も雑談をしたり、ちょっとお茶をしたり、意外と「働いていない」時間が多くある。仕事のストレスを解消にちょっと一杯などと居酒屋にいたりすれば、翌日の仕事効率にかえって支障が出たりする。結局積み残した仕事を休日も会社に出てきて片付けることとなる。

 私から見ていると外国人は休日をしっかりと「休む」。「休息」するために平日は猛烈に働くという概念が確立しているように見えた。これにはキリスト教の倫理観もおおいに影響しているのではないかと思われる。日本人はこうした時間調整能力に欠ける傾向がある。結局週末にやればいいや、と仕事を「先送り」してしまうこともありがちだった。

 それでいながら、日本人の多くは、自分は「勤勉」で「一生懸命」にやっていると考える傾向にある。たくさんの時間を費やしたから、とか、ものすごく苦労をしたから「評価される」あるいは「評価されてよい」と考えがちだ。

「がんばった」だけでは評価されない

 今の日本の企業社会でも「がんばった」ことは当然にして評価されるべきだという概念がある。ところが、私の勤めた外資系コンサルティングファームでは、この論理は全く通用しなかった。

 私が参加したあるプロジェクトが終了したときに、そのプロジェクトをふりかえりながら各人の評価が行われた。そのプロジェクトはデータも膨大で、分析には大変な労苦があった。毎日死ぬほど残業し頑張ったプロジェクトだった。ところが私についた評価は、当人としては到底満足できる水準のものではなかったのだ。

一生懸命やることなんてあたりまえ

 私は評価ミーティングにおいて、このプロジェクトの中で私が果たした役割について一生懸命説明をし、自らの分析がなければ成功は覚束なかったことを力説した。とにかく「一生懸命」やったのだ。そのことを評価してくれない会社の評価に、当時の私はおおいに不満があったのだ。

 ところが私のアピールをずっと聞いていたプロジェクトリーダーはこう言った。

「うん、それで?」

 それで、ってどういうことだ。怪訝な顔をする私にリーダーは言った。

「うん、君は一生懸命やってくれた。納期も守った。分析に間違いもなかった。でもそれだけだよね。だいたい一生懸命やることなんてあたりまえだよ。そうじゃなかったらクビだよね、ははは」

働き方改革で“評価の軸”が歪んでいないか

 年俸制、無制限の休暇、自由な勤務時間……。会社が私に何を求めているのかがようやくわかり始めた時期でもあった。一生懸命にやったから報われる、世の中はそんな「あまちゃん」の世界ではなかったのである。

 その後日本の会社にも勤めるようになって、私はこのことの意義を深く意識するようになった。同僚や部下の方からもずいぶんと言われた。

「私は一生懸命やっています。だから評価してください!」

 おそらくこれは単純作業に従事する労働者に対しては十分に考慮されるべき要素なのだろうが、付加価値を創出するような業種ではほとんど評価の対象にはならないことに気付いた。

 翻って、働き方改革が進む今の日本の企業社会ではどうだろうか。決められた時間内に決められた仕事を忠実にこなしていくことだけが評価されてはいないだろうか。ともすると学校の内申書のように“教師”の印象を良くすることだけに専心して、肝心の仕事の意義やそこから見える新しいフィールドの存在に気づかない社員ばかりが評価されるようになってはいないだろうか。

 一生懸命なんてあたりまえ、なのだ。

(牧野 知弘)

あわせて読みたい

「働き方改革」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    SNS誹謗中傷 人命を奪う自覚持て

    たかまつなな

  2. 2

    指原発言に賛辞ばかりでない背景

    文春オンライン

  3. 3

    情報源守る産経に太田がツッコミ

    水島宏明

  4. 4

    橋下氏 同業者に甘い報道に苦言

    ABEMA TIMES

  5. 5

    解除後は出社うんざりな人多数か

    かさこ

  6. 6

    養老孟司氏 考える力身につけよ

    NEWSポストセブン

  7. 7

    新型コロナ流行で出生率に変化か

    BLOGOS編集部

  8. 8

    危機回避で疑問視 専門家の悲哀

    企業法務戦士(id:FJneo1994)

  9. 9

    橋下氏が黒川氏処分への怒り代弁

    鈴木宗男

  10. 10

    東浩紀 ネットで社会完結は幻想

    村上 隆則

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。