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政治リーダーの「耐えられない軽さ」。日本人に聞かせたいハヴェル元チェコスロバキア大統領の言葉

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言葉の耐えられない軽さ 

 「桜を見る会」をめぐってホテル側と食い違う首相答弁や首相が飛ばしたヤジのニュースを見ていると、日本という国の政治リーダーの「言葉」がつくづく軽いことに絶望的な気持ちにさせられる。一強政治の弊害なのか、首相の言葉が軽いだけではない。官房長官やそれを支える官僚たちの言葉も軽い。

 チェコスロバキア出身のフランス人作家ミラン・クンデラに「存在の耐えられない軽さ」という小説があったが、それにならえば本当に「言葉の耐えられない軽さ」だ。

 本当にこのままでいいと感じている国民は少なくないはずだ。政治や社会がかつてと比べて「劣化」したという評価については、筆者も強く同感する一人である。日本の政治は今後どうなっていくのか。「劣化」した状態から抜け出すための打開策ははたしてあるのか。ニュースを伝える報道機関の側もある種の「思考停止」で閉塞状況に陥っているように見える。「言葉」が大事にされない国。日本はこのままいったいどうなっていくのか懸念ばかりが膨らんでいく。

言葉の知性的な重みが今も記憶に残るハヴェルの演説

 筆者は以前、ヨーロッパを拠点にして国際報道の記者を長く務めていた経験がある。そうした折りに取材で接した「政治リーダー」の中には演説などの「言葉」に力と品格と責任感をもち、言葉の「重み」が強く印象に残った政治家たちがいた。そうしたヨーロッパの政治家の中でも鮮烈な印象を放っていたのが、1989年に東ヨーロッパのチェコスロバキアでの「ビロード革命」の立役者となり、革命後にチェコスロバキア大統領(その後、チェコとスロバキアが分離した後にはチェコ大統領)に選出されたヴァーツラフ・ハヴェルである。

 ハヴェルは元々は劇作家。社会主義体制の時代には投獄されていた人物である。反体制派の指導者としての言葉や大統領になってからの演説など、どれも「知性」にあふれる言葉を残している。社会主義体制が崩壊しテ最初の新年となった1990年の念頭。チェコスロバキア大統領として国民向けのメッセージで以下のような言葉を発したのは有名だ。

「この日にみなさんは前任者からわが国がいかに発展しているのかを聞かされてきました。みなさんが私にこの職務につくように提案されたのは、私もまた嘘をつくようにというためではないと信じています。わが国土は繁栄していません」

(阿部賢一東京大学准教授による「NHKテキスト『100分de名著』」での邦訳を参照)

 1992年にチェコスロバキアが連邦を解消してチェコとスロバキアに分離することが決まった時の連邦議会での大統領演説でも名言を残している。プラハの連邦議会で取材していた私は、通訳を介して言葉を聞いて胸が震えるほどの感動を覚えたことを鮮明に記憶している。それは以下のような内容だった。

「2つの国が分かれてしまうことは大変残念に思います。しかし、私たちは歴史で初めて、人類がまだ成し遂げたことがない実験に挑むのです。歴史上、国と国が分かれる時は必ず流血や犠牲がありました。私たちは初めて血を一滴も流さず、平和のうちに国と国が分かれるという壮大な実験に挑むのです。これを成し遂げることが出来たなら民主主義にとって大きな意味があることです」

 連邦をつくっていた2つの国が分かれてしまうことに反対を表明していたハヴェル。だが、その分離が避けられないならば、感情的な憎悪ではなく、理性の力で乗り越えていこうと国民に訴えたのだ。

 こういう知的な側面を見せたハヴェルは、大統領という堅苦しい立場に囚われることがない人物だったらしい。大統領府があるプラハ城からオープンカーのハンドルを握って自ら出かけていくTシャツ姿のハヴェル大統領を筆者も目撃したことがある。

 ところでNHKのETVが毎週月曜夜に放送している『100分de名著』で2月中にこのヴァーツラフ・ハヴェルの著書「力なき者たちの力」(1978)を特集している。計4回の放送のうち、第1回の「嘘の生」からなる全体主義という回が、現在の日本にそのままあてはまるような問題提起になっていたのでぜひご紹介したい。

ポスト全体主義がもたらす思考停止状態

 番組ではハヴェル研究の第一人者である阿部賢一東京大学准教授が全体的な解説者を務めている。NHKの番組ホームページでは以下のように紹介している。

ハヴェルの研究を続けるチェコ文学者の阿部賢一さんは、現代にこそ「力なき者たちの力」を読み直す意味があるといいます。豊かな消費社会を享受しながらも、IT技術による高度な情報統制や、個人生活の監視が巧みに強化されつつある現代社会は、たやすく「ポスト全体主義」体制に取りこまれていく可能性があるといいます。番組では、この著作を現代の視点から読み解くことで、世界を席巻しつつある高度な管理社会・監視社会や強権的な政治手法とどう向き合ったらよいかを学ぶとともに、全体主義に巻き込まれないためには何が必要かという普遍的問題を考えていきます。

出典:NHKEテレ「100分de名著」番組ホームページ

 ハヴェルは著書『力なき者たちの力』で、1970年代当時のチェコスロバキアの社会主義体制(独裁主義)を表す表現として「ポスト全体主義」と呼んだ。その「ポスト全体主義」の根幹を成すものとして「イデオロギー」に注目している。

寄る辺なさや疎外を感じ、世界の意味が喪失されている時代にあって、このイデオロギーは、人びと催眠をかけるような特殊な魅力を必然的に持っている。さまよえる人びと対して、たやすく入手できる「故郷」を差し出す

 体制の掲げるイデオロギーという理念に盲従していくことで、自分の「故郷」つまり居場所を見出し、次第に思考停止の状態に陥っていき、自分の生き方にいたるまでありとあらゆる事柄をイデオロギーに託すようになるのだという。この「故郷(居場所)」を獲得するために人は「理性」「良心」「責任」の3つの対価を支払わねばならないとハヴェルは主張する(阿部准教授による「NHKテキスト」解説文を参照)。

 番組ではハヴェルが著作中で日常生活でたとえ話にした「青果店の店主」のエピソードを図解して解説した。

 当時のチェコスロバキアのような社会主義体制での青果店は個人経営でなく、国営企業のネットワークで、一種の組織的の中で行われていた。

 青果店の店主がショーウィンドウに「全世界の労働者よ、一つになれ!」というスローガンを掲げたという例をとって、本当に店主がこの考えに熱狂していたのかと読者に問いかける。

 慣習的な行為として掲げていて「みんながやっているし」「断ると面倒なことになるかも?」などの内心の声も示され、店主はこの社会で生きるための「ささいなこと」としてスローガンを置いたのかもしれないと解説する。

 しかし、番組はもしもスローガンの主語が「全世界の労働者」ではなく、「私」という個人だったら、店主は「ささいなこと」と思えるのだろうかと疑問を呈する。本音ではどう感じるのだろうかと問う。

 「私は恐怖心を抱いているので、ただただ従順なのです」という本音。それをスローガンとしてショーウィンドウに置くことに店主は躊躇して恥ずかしく思うだろうと書いている。

 「全世界の労働者」というスローガンの「記号」が、「私」の本当の気持ちを覆い隠してしまう。

「スローガンという記号」で「イデオロギーが口実となる」

 イデオロギーとは「世界と関係を築いていると見せかける方法」であり、ある種の「ベール」「口実」なのだとはハヴェルは説明する。

 そんな構図が示されていく。

 この説明を聞いて、スタジオMCの伊集院光のコメントが私たちの身近にもあふれている「イデオロギー」の存在に気づかせてくれる。

 ハヴェルのいう「イデオロギー」は政治的な主張に限らないというのだ。

(伊集院光)

「自分自身に存在する『イデオロギー』として『愛は地球を救う』というのもの・・・」

「最近、ちょっと思ったのは『絆』という言葉。いろいろな言葉の中から『絆』を選んだときは僕はまだいいと思いますけど、自然にあれを掲げると『いい言葉なんだよ』となっちゃったりすると、おそらくこれ(青果店のスローガンのたとえ)に近いような・・・」

(阿部賢一准教授)

「これは『私』を出しにくくなってしまう。大きな主語じゃないと世間に通用しないとなる。

 番組ではイラストを使ったVTRでこのスローガンによって人びとがどうなっていくかを解説する。

(ハヴェルの「力なき者たちの力」を解説するVTR)

「ただみんながやっているから、という理由だけで人びとは流れに従うようになる。

こうして日常の風景が作られ、スローガンを通して、誰もがゲームを受け入れるようになります。互いに権力を認めるよう強制し始める。

こうした状況を作り出すのも、スローガンの効用なのです」

 スローガンがあふれて、イデオロギーが支配する状況が作られる状況になるとハヴェルは書いた。

「二人はともに支配される客体であるが、同時に支配する主体になる.体制の犠牲者であると同時にその装置になっている」

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