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「理髪業者にマスクをかけさせよ」 100年前の“感染症騒ぎ”は新型肺炎とそっくりだった? 「マスクのごときはどこの店でも品切れ続きのありさま」 - 辻田 真佐憲

「なかでもマスクのごときはどこの店でも品切れ続きのありさま。従ってまた、例の一時ねらい奸商[悪徳商人]が出て、すでに粗悪品を売ったり、値段を暴騰させたりしている」

 これは100年前の「東京朝日新聞」の記事である(1920年1月19日朝刊5面。なお、読みやすいように一部表記を改めた。また[ ]カッコは引用者註。以下同じ)。

 当時の日本も、現在と同じく、感染症に悩まされていた。当時のそれは、「スペイン風邪」と呼ばれるインフルエンザ(流行性感冒)。1918年以降、世界的に猛威を振るい、第一次世界大戦を上回る犠牲を出したといわれる。日本では、軍隊や学校で流行し、38万人以上が亡くなった(内務省調べ)。

 画家のクリムト、社会学者のマックス・ヴェーバー、劇作家の島村抱月、建築家の辰野金吾、皇族の竹田宮恒久王らが亡くなったのも、ほかならぬこのスペイン風邪が原因だった。 

©iStock.com

マスクは「家庭で作ればよい」

 このような伝染病にたいする自衛策として、警視庁(当時、公衆衛生も担当)が推奨したのが、人混みを避けることや、うがい薬やマスクを用いることなどだった。そのため、関連商品の需要が急速に高まったのである。

「読売新聞」にも、悪徳商人たちの跳梁跋扈が紹介されている。

「利智にさとい商人たちは、截(た)ち落としの黒繻子や、輸出羽二重のくず切れでマスクを作り、三十銭、三十五銭で売っておりましたが、それでも飛ぶように売れるに味を占めて、六十銭、六十五銭と値上げしたさうです」(1月18日朝刊4面)。

 まるで「転売ヤー」の振る舞いだが、それへの対応も現在とそっくりだった。すなわち、自家製マスクの普及がそれである。

 警視庁は、簡易なマスクの作り方をさっそく考案して配布。「読売」もさきの記事で、「こんなもの[粗悪品]は金銭を出して求めるまでもなく、家庭で作ればよいので、戸板裁縫女学校では、各自に作らせて用いております」として、マスクの作り方を詳しく取り上げた。

「こいつ、マスクしていないぞ」問題

 もっとも、このような啓発活動にもかかわらず、マスクの使用はかならずしも徹底されなかった。

 ある電話局の局長は「朝日」の取材に、「マスクは嫌だという、若い女には困りますよ」と嘆いている(1月23日朝刊9面)。マスクは「体裁が悪い」として、とくに女性に不人気だった。それ以外でも、人混みの電車では「暑苦しい」としてせっかくのマスクを外してしまうものもあった。

 つぎつぎに犠牲者が出て、工場が閉鎖され、交通・通信が麻痺しているのにこれなのだから、当時の日本人は豪胆というか、怖いもの知らずだった。

 もちろん、マスク不使用を非難する声も読者投稿欄に寄せられた。「[鼻がつまっている人は、]人造の予防マスクをかけたらどうか。自分のためばかりじゃない。公衆衛生の立場からもだ」(「朝日」1月17日朝刊3面)。

「読売」の読者投稿欄には、いささか時期が遅いけれども、「理髪業者にマスクをかけさせよ」という具体的な主張も掲載されている。

 この投稿者は、先日床屋で、せきをしながら仕事をしている男を見かけた。これでは感染が広がってしまうかもしれない。それだから、「理髪業者に顔剃りの場合マスクをつけさす」ようにしてはどうかというのである(10月2日朝刊4面)。

 100年前は新聞投稿だが、現在では、スマホで盗撮して、SNSにアップロードすることなどが懸念される。「こいつは、マスクをしていないぞ」と。

 先日も、福岡市で「せきをしているのにマスクをしていない人がいる」として、地下鉄の非常通報ボタンが押されるトラブルがあった(「『マスクせずにせき』乗客が非常通報 福岡・地下鉄車内でトラブルに」「西日本新聞」2月20日)。マスクをめぐるマナー問題は、けっして過去の話ではない。

肛門を縮めて感冒対策?

 ところで、当時の投稿欄のなかには「トンデモ」も散見された。

「朝日」の読者は、「僕が実行している感冒除けの法」として「肛門縮め」なるものを紹介している。いわく――。

「諸君、試みに肛門を縮めてごらんなさい。体にどんな変化が起こりますか。下腹に力がはいり、口は堅く閉ざされるでしょう。そして神からもらった鼻というマスクが働きだします。これがもっとも単純で根本的な感冒除けです。またこれを不断に実行すれば不断の健康が得られます」(1月17日朝刊3面)

 口を閉じるのはいいとしても、この投稿者は「肛門縮め」によって、身体が肥え、胃腸病が治り、下腹が大きくなり、心まで少し締まりができたという。

 胡散臭いことこのうえないが、これを笑って済ませられるだろうか。マスクの暴騰や、マスク非使用者への非難などは、あまりに今昔で似ているからだ。

 とすれば、同じような「トンデモ」が発生しないとも限らない。個々人で肛門を縮めるのは勝手だけれども、怪しげな民間療法の類には、くれぐれも注意していきたいものである。

(辻田 真佐憲)

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