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「パラサイト」と「万引き家族」

 アカデミー賞を獲ったという映画「パラサイト 半地下の家族」をつれあいと見てきた。半地下に暮らす貧しい家族が、富裕層の家に寄生をし始めるという筋だ。

 見るいやいなや、ぼくとしては映画「万引き家族」との比較がどうしてもしたくなってきたので「万引き家族」も見た。なぜなら、格差と貧困、家族、非合法というキーワードで語られる両者はよく似ていると思ったからである(そして世界的に有名な賞を獲得しているという点でも)。

「パラサイト」について

 例えばケン・ローチ監督の「家族を想うとき」を見れば、運送ドライバーの過酷な労働とそれによって引き起こされる貧困は、英国の生活ではあっても、自分たちの身近な問題として共感的に見ることができた。

 しかし「パラサイト」では、主人公家族の貧困ぶりに思い入れることはほとんどできなかった。貧困の内容をなす労働はあまり共感的には描かれず、住居の貧困ばかりが印象に残ったからである。半地下で暮らすという状況が日本にいる自分とはあまりに違いすぎて「韓国ではそういう家庭が結構あるのかしら…」と漠然と思うしかなかった。

 「貧困で苦しむ者は綺麗でなければならない」という呪いにぼく自身がかけられているせいかもしれないが、富裕家庭に寄生を始める様子は次第に「えげつない」という印象を強めていく。つれあいはこの点で相当な精神ストレスを感じたようで、「見終わって激しく消耗した」と述べたほどだった。

 そのためか、ラスト近くで「臭い」を軸にして引き起こされるクライマックスのエピソードにも何らぼくは共感を寄せられなかった。

 しかし、つまらない映画ではない。

 格差や貧困というテーマから、ぼくの左派的感性にシンパサイズさせるという見方はほとんどできなかったというだけである。

 本作は結末に至るまでユーモラスな調子が根底に漂っている。この映画はまるで筒井康隆のスラップスティックを見ているような面白さがある。筒井の『毟りあい』とか『俗物図鑑』『大いなる助走』のようなグロテスクな笑いと凄惨さとドタバタである。

「万引き家族」について

 他方で、「万引き家族」は、様々な事情を持つ人が東京の下町のオンボロな一軒家に集い、疑似家族を構成している物語だ。「祖母」の年金、「父」の建設労働、「母」のクリーニングのパート…などで成り立ち、「息子」は「父」とともに万引きをして「家族」に「貢献」している。

 ここでは、家族は批判されている。公式の家族は虐待の源泉であったり、居場所を奪うものであったりする。思惑や目的で集まった集団の方がむしろ「使える」社会関係資本として機能するのだ。

 警察やマスコミの指弾の声が映画では流れるが、疑似家族の事情を見てきた鑑賞者にとってはその空々しさは隠せない。公式の「正論」の虚構を、疑似家族の本音が暴いていくことになる。

 家族の絆を強調することになった「パラサイト」と、この点では実に対照的である。

 そして、ぼくとしてはその方が実感にあう。ぼくは今の自分の家族に「不信」があるわけではないが、家族に過度の期待を背負わせるということへの違和感が拭えない。そして、公式の制度(福祉など)や公認の社会関係資本(町内会やPTA)が「救ってくれる」という実感が世の中で乏しいのもよくわかるからだ。

 そのような「建前」から外れた、自分にとって身近で切実な関係の中からむしろ頼れる絆が生まれてくるという実感がある。

 作中では、万引きを知りながらやんわりと意見をする近所の老人が登場する。それがこの「家族」の「息子」である「しょうた」に揺らぎを与えるのである。

 以下のサイトでは、「しょうた」の揺らぎ、公準の正義と、自分が親しんできた絆の実感との間での動揺、その両義性について述べている。

 つまり、「しょうた」が暮らしていた疑似家族が現実の批判者として絶対的に正しいわけでもない。「しょうた」が新たな環境に置かれるくだりは、決して不幸に戻ることではないように、公準の正義の中には、そうは言っても正しさが存在するからだ。ぼく自身、今の福祉や教育制度が不十分だとは思いつつも、すべての国民がその恩恵によくすべきだと考えている。だから、疑似家族のままでいることがいいとは思えない。

 だけど、あの疑似家族が示した絆には捨てがたい魅力があることも確かで、「しょうた」がその両義性の中で揺れるのは、まったくその通りなのである。

 見終えた感覚は、「パラサイト」が「エネルギーを使い果たした」と感じたのに対して、「万引き家族」は絶望と一抹の救いとが混在するものとなった。

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