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オスカー4冠「パラサイト」に隠された日本人は知らない「韓国“下剋上”社会の常識」 現地記者が解説 「半地下の一家は貧困層ではなかった?」「台湾カステラ屋って何?」「社長夫人はなぜ英語交じり?」 - 金 敬哲

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 英語以外の作品として初めてアカデミー賞作品賞を受賞した韓国映画「パラサイト 半地下の家族」。半地下の部屋で貧しい生活を送るギテク(ソン・ガンホ)の一家と、IT企業を経営する裕福なパク社長一家の対比が描かれているこの作品には、日本人には分かりにくい韓国ならでは事情が登場する。

【画像】半地下の部屋で食事をするキム家夫婦

 先に公開した文春オンラインの記事(「アカデミー賞作品賞『パラサイト』を観たら知りたくなる韓国“不平等”社会『5つの疑問』に現地記者が答える!」)に引き続き、韓国国外の観客にはわかりにくいポイントについて紹介したい。(*以下の記事では、映画の内容が述べられていますのでご注意ください)


『パラサイト 半地下の家族』 © 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

疑問1 なぜ韓国でボーイスカウトは人気があるの?

 インディアンに憧れるパク社長の息子は、カブスカウト(小学生ボーイスカウト)に加入している。ギテクの息子で、パク社長の家で家庭教師として働くギウも、映画後半でボーイスカウト出身であることが明かされる。ボーイスカウトは韓国でそんなに人気なのだろうか?

 1908年に英国で創設されたボーイスカウトは、現在170カ国で運営されて、韓国でも約13万人の青少年が活動している。具体的には野外活動などを通して冒険心とチームワークを育むほか、多様なボランティア活動も行う。

 このボーイスカウトが韓国でポピュラーなのは、中高や大学の入学試験で大事な「スペック」となっているからだ。

 スペックとは、入試や就職に必要な資格やスキルのこと。韓国では、難関の中・高校でもペーパーテストなしで、選考は「内申書」と「自己紹介書」だけというところがほとんどで、最も重要な資料となる「自己紹介書」に書き込めるクラブ活動やボランティア経歴が必要になる。ボーイスカウトの活動歴は、その一つとなるのだ。また内申書対策としても、「ボランティア活動」で内申点が得られるため、一挙両得になる。

 ただ最近、ボーイスカウトは人気を失いつつある。野外活動などで時間を使うボーイスカウトに対して、試験勉強だけでも大忙しの子供たちの時間をさらに奪われると考える親が増えているためだ。

 ボーイスカウトで得られるボランティア活動の内申点も、むしろ短時間で終わる社会団体の活動の方が効率的だと思われている。さらに、大学入試の自己紹介書を廃止する改革案が教育省から発表されており、実際に廃止となればボーイスカウトの人気はさらに下火になるだろう。

 興味深いのは、半地下に住む一家の息子であるギウが、ボーイスカウト出身という点だ。ボーイスカウトは1年の会費だけでも数十万ウォンに達し、ユニフォーム代や日々の活動費、海外研修費など、親にとっては相当な経済的負担になる。

 無職の両親と半地下部屋で暮らしているギウが幼い頃ボーイスカウトだったという設定は、この家族が最初から貧困層なのではなかったという伏線だと言える。

疑問2 ギテクが失敗した「台湾カステラ屋」「チキン店」って何?

「半地下の家族は、最初から貧困層なのではなかった」という背景は、一家の大黒柱、ギテクの過去からも窺える。

 ギテクは過去、2度も商売に失敗し、無職になった。一つはチキン店で、もう一つは台湾カステラ屋だ。ギテクが選んだこの2つの業種は、特別な技術がなくてもある程度の資金さえあれば、フランチャイズで簡単に店を始められるという共通点がある。

 まず、フライドチキンを扱う「チキン店」は、韓国で最もポピュラーな外食店だ。開業する場合、材料や調理マニュアルはすべてフランチャイズの本社が提供し、内装業者も本社が紹介してくれる。店舗を確保し、フランチャイズ費用さえ支払えば、誰にでも開業できる。統計によると、2019年2月時点で韓国のチキン店は約8万7000店もあり、マクドナルドの全世界の店舗数の約2.4倍にもなるという。その分、競争は熾烈だ。

 一方、「台湾カステラ屋」は、台湾・台北近郊の淡水区の有名なお土産で、その場で焼きたての大型カステラを切り分けて販売する。台湾では「シフォンケーキ」と呼ばれているが、日本のカステラに似ていることから、韓国では「台湾カステラ」と呼ばれている。

 台湾カステラ屋も初心者が簡単に開業できることで知られ、フランチャイズなら本社で1週ほど製造手法を学んだら、すぐに開店できる。単一品目しか扱わないので管理も容易である。韓国では2010年代半ばに起きた「台湾ブーム」で人気を集めるようになり、2016年には韓国国内に17種類のフランチャイズが存在し、計400店が営業していたほど人気を集めた。

 しかしブームから1年ほど経った2017年、卵、小麦粉、牛乳、砂糖以外は何も入れないことが売りだった台湾カステラに、食用油と添加剤を使用していたことがテレビ番組で暴露されて、飽和状態だった台湾カステラ屋は、急激に衰退。いまではほとんど店舗を見かけなくなった。台湾カステラ屋は、韓国で最も短期間で消えた外食産業として知られている。

 韓国の自営業者は全雇用形態の約25%を占め、日本の2.5倍に達している。OECDの平均の17%より8%も高い。その理由は、企業からリストラされた中年男性が、最も簡単に再就職できる飲食業など零細自営業に流れているからだとされている。

 ギテクも企業に勤めて、ある程度の水準の生活をしていたにもかかわらず、退職後にきちんとした準備もないまま、初心者にもできる「チキン店」「台湾カステラ屋」のフランチャイズ店に手を出したことが窺える。ギテクの2度にわたる失敗で、家族は半地下での生活にまで落ちてしまったのだろう。

 この中高年の「チキン店」をめぐる悲哀については、拙著『韓国 行き過ぎた資本主義』(講談社現代新書)でも詳しく解説している。

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