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第436回(2020年2月22日)

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2月7日発表の昨年12月の景気動向指数CI(一致系列)は94.7。3.11後の景気停滞期に近い水準で、景気判断は5ヶ月連続の悪化。2月17日に発表された昨年第4四半期(10月から12月)実質GDPは6.3%減少。昨秋の消費増税、台風等の影響で5期振りのマイナス。COVID19による新型肺炎の影響で、今年の経済は波乱含みのスタートです。

1.ブラック・スワン

昨年6月、米国有力投資ファンド「カーライルグループ」創始者デビット・ルーベルスタインが日経新聞のインタビューを受けていました。

「現在の金融市場にとってブラック・スワンとは何か」と問われ「地政学リスク」「政府債務」「パンデミック(感染症大流行)」と回答。COVID19による新型肺炎を予見するような内容でした。

かつて英語に「無駄な努力」を示す慣用句として「黒い白鳥(ブラック・スワン)を探すようなもの」という表現がありました。「黒い白鳥」はいないという前提です。

ところが1697年、オーストラリアで黒鳥(黒い白鳥)が発見され、鳥類学者の常識も英語の慣用句も覆りました。以来「常識が覆ること」「物事を一変させること」を象徴する言葉として「ブラック・スワン」が定着。

金融界では「あり得ないことが発生し、常識が覆り、予想外の大きな影響を受けること」を示す「ブラック・スワン理論」が登場。筆者の日銀時代には聞いたことがありませんでしたが、元ヘッジファンド運用者の心理学者ナシーム・ニコラス・タレブの2006年の著書「ブラック・スワン」で提唱されました。

その後、確率論や経験論では予測できない現象(事象)が発生し、それが多大な影響を与えることを総称した比喩として浸透。今では「ブラック・スワン理論」に基づいた運用戦略を実践している投資会社もあるそうです。

因みに「ブラック・スワン」と呼ばれる「黒鳥(Cygnus atratus)」はカモ目カモ科ハクチョウ属でオーストラリア内陸部に生息する固有種。白鳥のような「渡り」は行わず、オーストラリアに定棲。黒い羽根の先端(二列風切羽)だけが白い美しい姿です。

COVID19が「ブラック・スワン(あり得ないはず)」のパンデミックと断定するのは時期尚早ですが、未発症感染者にも感染能力があり、パンデミックの危険性は否定できません。

英国の専門家グループは「2月初で感染者は推計25万人」と推計。COVID19対策は、SARSではなくスペイン風邪を参考にして講ずるべきと指摘しています。

メルマガ前号で記したとおり、A型インフルエンザH1N1だったスペイン風邪の死者は2年間で5000万人に上り、第1次大戦の終結を早めたと言われています。

一方、大戦後のパリ講和会議でドイツに過大な賠償金が課された一因は、それに批判的だった米国ウィルソン大統領がスペイン風邪に感染して体調を崩し、重要な局面で影響力を発揮できなかったためと伝わります。

つまり、スペイン風邪は第1次大戦を早く終わらせた一方、第2次大戦の遠因になったとも言えます。パンデミックが世界の歴史を動かした過去があるからこそ、前述のルーベルスタインは「ブラック・スワン」と指摘しているのです。

偶然ですが、ブラック・スワンの生息地オーストラリアは、スペイン風邪の際に海港における厳格な検疫が奏効し、国内へのウィルス侵入を6ヶ月遅らせることに成功。

しかし現在のように、航空機で多くの人が移動し、かつ無発症感染者に感染力がある状況では、オーストラリアのような成功の再現は困難です。

独立行政法人経済産業研究所のレポート(2月4日付)は「中国からの感染者入国阻止は無理」「100年ぶりのパンデミックを引き起こす可能性」と断じています。

メルマガ前号で整理したとおり、武漢での症例発生は昨年12月初、中国政府が集団渡航禁止等の措置を始めたのは更年後の1月下旬。年末年始に大量の中国人が日本をはじめ世界各国に渡航していますので、水際対策はその段階で失敗しています。

「まず大騒ぎし」「その後は根拠なく影響を過小評価し(正常化バイアス)」「飽きて関心が別のことに移る」という傾向が強いのが、日本の社会とメディアの特徴。

現在は初期段階ですが、「COVID19の致死率は低いので大丈夫」とコメントするメディアや専門家が出始めています。

スペイン風邪の致死率はCOVID19の武漢での致死率と同程度と聞きます。しかし、死者は5000万人。影響を根拠なく過小評価することは、注意力を低下させ、スーパースプレッダー(多数の人に感染させる感染者)出現の可能性を高めます。

正常化バイアスはメルマガ(Vol.303、2014.1.6号)や拙著(「3.11大震災と厚労省」丸善出版、2012年)で取り上げてきましたが、COVID19の今後においても要注意です。

2.チャイナ・セブン

2月3日、春節後に再開された中国株式市場で株価が暴落。中国人民銀行は1.2兆元(約18.7兆円)という異例規模の資金供給を実施。

9.11米同時多発テロ直後、FRB(米連邦準備制度理事会)は1104億ドル(約13.1兆円)の資金を供給しましたが、米中の市場規模の差を考えると、中国人民銀行による今回の資金供給は極めて大規模。

中国政府は、保険会社による保険金早期支払い、COVID19の影響が大きい地域・業界・企業に対する金融優遇措置(不良債権基準の緩和、約8兆円の支援融資)等、矢継ぎ早に対策を講じています。

COVID19は、SARS(2002年から2003年)と比較すると、中国経済のみならず、世界経済に深刻な影響を与えることが懸念されます。その背景は以下のとおりです。

第1に、中国経済の規模が拡大していること。GDP(国内総生産)の全世界GDPに占めるシェアは2003年8.7%に対して2018年18.7%(以下同)。輸出は5.8%対12.9%、輸入は5.3%対10.9%。いずれも倍以上に拡大しています。

日本の輸出に占める中国のシェアは、2003年12.2%対2019年19.1%、同輸入は19.7%対23.5%。当然ですが、いずれも拡大。

中国からの年間出国者数は、2003年0.2億人に対して2018年1.6億人、8倍です。中国の旅行収支は2018年2400億ドル(約25兆円)の出超。中国人旅行者減少は世界経済に大きな影響を与えます。

年間訪日客数はもっと劇的。2003年45万人(シェア8.6%)に対して2019年959万人(同30.1%)。実に21.3倍。同年の中国人の日本での旅行消費額は1.8兆円(同36.8%)です。

第2に、感染震源地が武漢であること。つまり、香港が震源地であったSARSとは根本的に異なります。

武漢は「チャイナ・セブン」と言われる中国イノベーション中核7都市のひとつ。他の6つは、北京、上海、杭州、深圳、西安、成都です。武漢を含む中国湖北省には世界の自動車、素材、集積回路、電子部品、医療機器、工作機械、宇宙関連等企業の生産拠点が集積。

世界のサプライチェーンの中核地域が機能不全に陥っているわけですから、SARSの影響とは比較になりません。

第3に、長期化の可能性が高いこと。震源地が武漢であることと関連しています。

武漢は中国本土の交通の要衝。武漢を含む湖北省全体が非常事態、封鎖状態になっていることから、生産停止、物流停滞、世界経済に与える影響の長期化は必至。

SARSの際は、中国の感染者数が急増した2003年5月の小売売上高前年比が4.9%と低迷(それでもプラスです)。感染者数がピークを越えた6月には同9.6%と回復。影響は2ヶ月足らずでしたが、今回はそうはいきません。

第4に、経済対策が打てないこと。中国の景気対策は巨額公共投資、財政支出拡大が常套手段。SARSの時にも行いました。

しかし今回は、湖北省に限らず、中国全土で集会、移動、経済活動等を制限。つまり、大規模公共事業等が行いにくく、感染症対策と経済対策が相反関係にあるためです。

第5に、東南アジアへの影響が大きいこと。中国のみならず、東南アジア全体が世界の成長エンジンになっている現在、中国経済停滞がアジア経済を停滞させ、結果的に世界経済にSARSの時とは比較にならない影響を与えます。

とくに、輸出の中国依存度が高い台湾、ベトナム、マレーシア、中国のサプライチェーンに組み込まれているタイ、ラオス、カンボジア等は大きな影響を受けます。もちろん、中国人旅行者減少は東南アジア諸国にもマイナスです。

第6に、金融市場への影響。投資家の心理的要因も関係します。昨年9月以降、世界的に株価が上昇し、日米欧の現在の株価には割高感があります。

その背景は各国の金融緩和ですが、米中対立の緩和も影響。緩和に向けた「第1段階合意」の内容は空疎ですが、株式市場は合意を囃して株価上昇に拍車。

株価の割高・割安を示すPER(株価収益率)を米中摩擦が本格化した2018年3月対比で見ると、米国S&P500は約19倍、TOPIX(東証株価指数)も約14倍。こうした中でCOVID19騒動が発生しました。

投資家に「売りの口実」を与えているCOVID19。その影響が深刻化、長期化すると、クラッシュのリスクがあります。そうした深層心理はいつ、どこで顕現化するか予測不能です。

第7に、他のマイナス要因と輻輳していること。世界的には、米中摩擦、中東情勢、欧州混乱(ブレグジット)等。

日本固有の問題としては消費増税、電子決済増嵩(ポイント還元に伴う電子決済増嵩は中小零細企業のキャッシュフローを悪化させ、資金繰りに影響)、人手不足、働き方改革に伴うコスト増等です。

そこに加わってきたのがCOVID19。世界と日本の経済への影響は深刻に捉えた方がよいでしょう。世界も日本も外的ショックへの耐性が低下しています。

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