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「都会の人は誤解している」全市町村一周青年が、過疎村・秘境村で見たもの - 荻野 進介

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「1,741ある日本の全市町村へ行く、全てのまちで写真を撮る夢が本当に叶いました」

【画像】仁科さんが撮った秘境村の写真を見る

 ツイッターにこのように投稿し、大きな反響を呼んだ青年がいることをご存知だろうか。2年かけて全市町村一周の旅を敢行した、広島大学経済学部4年生・仁科勝介さん(23)に道中について聞いた。


仁科勝介さん

◆ ◆ ◆

原付による日本一周計画、初日に転倒し大怪我に

 まさかこんなことになるなんて……。2018年3月27日、僕は山口県山口市の病院で車椅子に乗りながら天井を見つめていた。

 その前日、僕は岡山県倉敷市の実家から、原付バイクに乗り、日本にあるすべての市町村を廻る旅に出発した。その数、1741。最初の目標は9カ月かけて1000市町村廻ること。これが達成できたら、大学在学中に1741すべての自治体を廻り切ろうと考えた。

 家族に見送られ、実家を出たのが前日の早朝のこと。相棒のカブ号(排気量110ccの中古のスーパーカブ)に跨り、まずは西に向かい、九州に渡り、鹿児島を目指す。

 スピードは出さない安全運転を心がけていたが、事故は思いがけないところで起きた。片側一車線道路を進んでいたところ、後ろから車が来たので、側道に寄ったら、いきなりカーブだ。しかも、路面には砂利が溢れている! カブ号はスリップしてバランスを崩し、僕はみごとにこけてしまった。

 起き上がると骨折はしていないようだったが、右ひざが大変なことになっていた。肉がごっそり削げて、骨が見えていたのだ。タオルで膝を縛るが、すぐに赤く染まった。今日の目的地である山口市の親戚の家まであと200キロもある。右足の激痛をこらえながら、カブ号に跨るとアクセルを開いた。

 そこから6時間ほどかけて、親戚の家に着いた。すぐに病院に行く。最初の夜間病院では断られ、2軒目でようやく診てもらえた。医者からは「なぜ救急車を呼ばなかったのか」と怒られ、「明日、九州に渡りたい」と言うと、呆れられた。「あり得ない。全治半年、悪かったら、右足がなくなるかもしれない大怪我なんだよ」と。

 こうして僕の日本一周旅は、初日にして大きな壁にぶち当たってしまった。

準備に2年、資金は150万円

 僕は広島大学経済学部の4年生だ。この日本一周旅をしたいと思ったきっかけは大学1年の夏、ヒッチハイクで九州一周をした時にさかのぼる。

 見知らぬ人のご好意で車に乗せてもらう。僕が車に乗った場所も降りた場所も、その人たちにとっては馴染みの深い土地であり、ふるさとであったりするが、僕はまったく知らないところだった。そこが不思議だった。

 日本は想像以上に広い。自分は井の中の蛙なんだな、と痛感した。井戸を出たい。もっと、外の世界を知りたい。そこで考え付いたのが、日本にある市町村すべてを廻る旅に出かけることだった。写真が好きなので、道々の光景をサイトにアップしよう。そうすれば、世界にひとつしかない、自分だけの日本地図が出来上がるはずだ……。

 準備には大学2年、3年の2年間をかけた。決行時期を4年になる直前の2018年3月末とおき、その年は休学すると決めた。3年の前期までに卒論とゼミ以外のすべての単位を取り終えるようにした。

 まず必要なのはお金だ。それまでやっていた大学の生協での短期アルバイトを長期にしてもらい、職員並みにほぼ毎日働いた。夏休みにはキャンプ場での泊まり込みの仕事もやった。もちろん、節約も心がけ、150万円を貯めることができた。

相棒は原付、ニコン、写真をアップするためのPC

 相棒となる乗り物は原付にした。中型バイクも考えたが、価格と燃費、耐久性を考えると、原付に軍配が上がった。

 持参するカメラは愛用のニコンだ。迷った挙句、望遠レンズは持たず、50ミリ1本にした。地べたを這う旅であり、写真映えする風景ばかりではないだろう。それぞれの場所で、自分が見た飾らない感じを表現したい。そのためには単焦点レンズがふさわしいと考えた。撮った写真はその日中に専用サイトにアップすることにする。

 肝心のコースは月ごとに、九州や東北といった、廻る「地方」を決めた。出発の数週間前から、1日ごとに走るコース、つまりスタート地点とゴール地点を定めた。数日前から前日にかけ、それぞれの市町村で立ち寄るスポットを最終決定した。1日の目標は日の出から日の入りまで走って10市町村前後を巡ること。距離にして約200キロとなる。もちろん雨天決行だ。

 泊まるところは、野宿も想定したが、知り合いがいる地はその家を頼った。ネットカフェや、二輪愛好家が集うライダーハウスも活用する。食費は極力切り詰める(もちろん、名物は食べた。結果としてコンビニ食が多く、ローソン、ファミマ、セブンのカップ麺はほとんど食べた)。

 観光地などの名所旧跡は訪れるようにした。入場料は必要経費だ。そうしたスポットがない市町村では、役場や駅など、わかりやすい場所に行って原付を停め、周辺を歩き回って写真を撮ることにした……。

怪我を押して旅を再開、北海道で自信がつく 

 こうした計画をこなしていけば、9カ月で1000市町村を廻ることができるはずだったのに、初日の怪我で、すべておじゃんになってしまった。

 不幸中の幸いは、骨には異常がなかったことだった。実家近くの病院で診てもらうべく、カブ号を親戚の家においたまま、新幹線で一旦、倉敷に帰る。1カ月後にまた来てください、という診たてだったので、親戚の家にとって返し、九州に向け、恐る恐る旅を再開した。4月半ばになっていた。右ひざが痛み、当初は5分に1回はカブ号を停め、休息を取らなければ走れなかったが、じきに慣れていく。

 5月26日、沖縄を含む九州を廻り終えて、大分県別府市から愛媛県の八幡浜へ船で渡る。四国東の最南端、室戸岬に着いたのが、5月31日のことだが、この日は嬉しいことがあった。右ひざの傷が閉じている感じがしたのだ。膿も出なくなっている。そこから瀬戸内側に出て、船で本州に渡り、6月5日、予定通り、倉敷に戻り、病院に行くと、通院不要を言い渡された。嬉しかった。

 こうなると、旅のペースが上がり出す。京都の舞鶴から北海道の小樽へフェリーで渡ったのは、6月18日のことだ。北海道には179の市町村があるが、約1カ月で160を廻ることができた。行ける!これは大きな自信になった。

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