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日弁連会長選の「慣行」を支えてきた精神

日弁連会長選挙で最多得票ととともに、候補者に課せられる全国三分の一以上の弁護士会での最多得票という当選要件(いわゆる三分の一要件)の目的は、地方弁護士会(現実的には東京、大阪以外の全弁護士会)への配慮規定であるようにいわれてきました。1975年に日弁連が、会長の選出方法を代議員による選出から、会員による直線選挙制に改めるに際して、代議員制よりも地方会の発言力が弱まることを懸念する反対論を受けて、会内議論の末、この要件を設けたという経緯があります。

 しかし、この要件の目的が、その後の日弁連会長選挙で実効的に果たされてきたのかといえば、それは疑わしいといわなければなりません。なぜならば、その後の会長選挙では、この要件があっても、結果として代議員制時代にでき上がっていた慣行のまま、長く東京と大阪の弁護士会会員による持ち回りが続くことになったからです。長老支配と大都市の会派(派閥)の力を背景とした「上から」の選挙が、この持ち回り体制を支えてきたと以前も表現しましたが(「『改革』が変えた日弁連会長選挙」)、むしろこの制度を無意味化する、要はあってもなくても結論は同じになる力学が存在してきたことを伺わせるのです。

 以前も書いたように、この要件が機能して再投票(最多票獲得者が三分の一要件を満たせず、最多票会獲得者と再度争う)となった2010年選挙で、宇都宮健児氏が主流派の派閥候補を破るまで、この要件が現実的に前記慣行に対してクギをさすような機能を示したことはありませんでした。そして、1986年選挙で当選した神戸弁護士会(現・兵庫県弁護士会)の北山六郎氏以外、東京・大阪以外の会員が会長席に座ることがなかった現実もまた、前記力学の存在を物語っているというべきです。

 ちなみにその唯一の例外である1986年選挙にしても、北山氏が早々に大阪を含む近畿ブロックをまとめ、実質「大阪枠」で出れる体制が作れたこと、対立候補の東京弁護士会候補について、同弁護士会の会派の支持がたまたま割れたことが、大きな勝因となったという見方もあり、その意味では現実的には派閥選挙や前記慣行を打破した地方会員の勝利といえるかは、評価が分かれるところといえます。

 さて、史上初の5氏出馬となった今回の会長選では、前記2010年、2012年に続き、三度、この要件が慣例・派閥候補の当選にストップをかけ、第二東京弁護士会の山岸良太氏と、仙台弁護士会の荒中氏の間で、再投票にもつれこむこととなっています(「5氏出馬の日弁連会長選から見えたもの」)。そのなかで、今、驚くべき文書が、ネットの弁護士間で話題となっています。元最高裁判事、元日弁連会長を含む第一東京弁護士会会員21人が呼びかけ人有志に名を連ね、2月18日付けで同弁護士会会員に配布された「日弁連会長選挙再投票にあたって」と題された文書です。
 「当会は長年にわたり、東弁、二弁とともに、弁護士会に生じる様々な課題を相互の利害を超えて建設的に協議をし、解決し、連携を保持してきました。日弁連の会務運営についても、東弁、二弁とともに一丸となって、英知を出し合って執行部を支え、当会及び日弁連の社会的評価を築き上げてきました。かかる歴史の下、東京三会には、相互に強い信頼関係・絆があります」

 「この度の日弁連会長選挙にあっては、東京三会及び大阪弁護士会以外の弁護士会所属の会員から日弁連の会長を輩出する意義も考慮する必要があろうかとは思いますが、二弁の会員が団結して長年にわたる悲願を達成しようとし、当会に要請してきていることを重要視すべきではないかと思います」

 「当会は、2022年度(令和4年度)創立100周年を迎えます。この度の日弁連会長選挙にあたっては、日弁連の将来はもちろんのことですが、特に当会の将来を考える必要があります。長い歴史を経て築いてきた東弁、二弁、ひいては大阪弁護士会の多数の会員との信頼関係をより強固なものとし、引き続きこれらの先生方に日弁連の会務に尽力していただき、当会がこうした先生方とともに日弁連の会務運営の中核を担っていくことが肝要と思い、第一東京弁護士会の会員各位に対し、あらためて慎重、冷静な選択と行動を呼びかけさせていただく次第です」
 名指しこそしていないものの、明らかに再投票での山岸氏への投票を会員に促すものです。先日の1回目の投票で、第一東京弁護士会は同氏が最多票を獲得したものの、荒氏にわずか32票差まで迫られる接戦会でした。それとともに、1回目中部ブロックで最多票を固めながら3位で落選した川上明彦氏の支持票が再投票で荒氏に回るといった観測が一部に流れたこともあり、この文書はこうした情勢で、第一東京弁護士会での票固めを企図したとはとれます。

 しかし、会内には選挙戦術として、理解できないという声が強く出ています。最多票を獲得しながら最多票獲得会が14会にとどまった山岸陣営としては、三分の一要件の18会の獲得に全力を挙げなければならず、そのためには地方会の反発を買う文書の内容がネットを通じて流れることも、また、この再投票の戦いが、地方会対大都市会の構図になることも、極めて得策とは思えないからです。この文書発表を山岸陣営がどこまで了解していたのかは分かりませんが、むしろ、この内容は同陣営にとって、利敵行為にならないか、ということなのです。そもそもこの再投票は、主流派二氏の対決であり、必ずしも地方会対大都市会の構図でみるべきではない、という声が地方会会員の中にもあります。

 しかし、このこともさることながら、驚いたのはやはりこの文書の内容です。冒頭にかいた東京、大阪の会長持ち回り慣行を支える、強固な意識が存在していること。日弁連の社会的評価はわれわれが支えてきたという自負とともに、まるで東京、大阪の4会以外眼中にないような姿勢。それ以外の会と日弁連を支えることの何が悪いのか、といいたくなるような「中心主義」をいまだに、ここまで振りかざすのか、と、心底驚きました。

 こうみると、少なくともこの文書が示す精神でみれば、やはり三分の一要件などあってもなくても結果は同じであることが分かります。前記したように実質的に機能しなかったことも、そして現在においても、この要件撤廃への欲求が大都市会に根強くあるとされるのも、何も不思議ではなくなります。

 会派と大弁護士会の「派閥主義」が日弁連という組織に何をもたらし、何をもたらせなくさせてきたのか――。それが正面から問い直される日は、果たしてくるのでしょうか。

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