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『ねんとな』話題の“僧医”を発見、45歳で僧侶が医学部入った理由


死を扱う僧侶と、命を扱う医師。一見、相反するような職業だが、“僧医”としての生き方は、両者に“深いつながり”があることを教えてくれたーー。

死者の魂を弔う僧侶、そして救急救命医として病院に勤める2つの顔をもつ主人公・松本照円(伊藤英明)が患者を救うために奮闘する。医療ヒューマンドラマ『病室で念仏を唱えないでください』(TBS系・金曜22時~)では、そんな“僧医”の照円が、患者の心と命に寄り添う姿を魅力的に描いている。

このドラマは、『ビッグコミック増刊号』(小学館)で連載されている、こやす珠世の漫画が原作。しかし、“僧医”として生きる人物は、フィクションだけでなく、現実の世界にもいる。

「僧侶=死を扱う職業、というイメージをお持ちの方は多い。病院に入院する知人の見舞いに法衣姿で行くと、守衛さんに『霊安室はこちらです』と人目につかない通路を案内されたこともありますよ(笑)。今の立場は医師ですから、病院ではいつも白衣。でも、僧侶として心、そして魂に寄り添うことは、常に心がけています」

穏やかな表情で語るのは、大館記念病院(秋田県)で理事長・院長を務める対本宗訓さんだ。対本さんは僧侶でありながらも、45歳で医学部に入学し、現在は地域医療を担う医師という、異色の経歴を持っている。

’54年、愛媛県の山寺で、対本さんは長男として生まれた。僧侶となるため厳格な父に育てられ、小学1年生で得度、自然と「般若心経」も覚えたという。

「初めてお檀家さんのお葬式に出たのは小4のとき。生まれる以前に祖父母を亡くしていたので、寺の子でありながら、人の死に触れるのはそのときが初めてでした。棺の扉の向こうにご遺体の顔が見えたときは、トラウマになるほどびっくりしたのを覚えています」

生や死について学ぶために、京都大学の哲学科に進むことに。卒業後は、京都の天龍寺で修行する。

「厳寒の時期、素足にわらじを履いて托鉢にまわりましたし、嫌というほど座禅もしました。1年目は慣れていないもので、長時間座禅をするといるはずのない弁髪姿の中国の子どもの幻が見えたことが……。修行に耐えられず、夜逃げした仲間も何人かいました」

厳しい修行の末、臨済宗で14ある本山の1つを管長として任されるまでになった。7年間、宗門の近代化に力を注ぐなかで、かつて35歳のとき父親の死に直面した経験がしだいに心に蘇ってきて転機となったという。

「それまでの死はお檀家さんの死であり、私には“遠い死”でした。しかしーー。お釈迦様がおっしゃられたような、“生老病死”の苦しみに直面した人たちに寄り添うのが仏教ですが、まずは体の苦しみを取り除かなければ、どんな言葉も、心に届かないことを痛感しました。また、死の前には恐れや不安、肉体的な苦痛があり、死後は家族が悲嘆にくれ続ける。肉親の死に直面したことで、こうした連続した苦しみにも、寄り添い続けなければならない、と気づかされたのです」

そして宗門のトップとして、看護大学の客員教授を2年ほど務めたりもし、現場の医療従事者との意見交換を重ねることに。

「『患者さんの相談に乗ってあげてください』とよく言われました。でも、医学的知識がまったくないから、どの程度の苦しみなのか、今後どうなるかわからないのです。トータルとしての“人”に関わるためには、宗教者として心や魂に寄り添うだけではなく、何よりも体のことがわからなければならないーー。こう思い、“行動する僧侶”として医師になることを決意しました」

45歳で、3,000人を預かる本山のトップが医学生をめざす……。その決意には、さまざまな方面から反対する声も少なくなかった。しかし、対本さんの決断に共感し、応援する人たちからは浄財が集まり、帝京大学医学部への進学がかなった。

「医学とは“サイエンス”ですから、情には左右されず、冷徹な姿勢で学んでいかなければならないものです。しかしたとえば解剖実習では、人体を系統的に解剖しながら、その機能や構造を徹底的に勉強します。献体していただいた故人の志に思いを寄せ、心の中で合掌しつつメスを進めました。今でこそ“医療倫理”という言葉をよく耳にしますが、約20年前の医学部には、哲学的なテーマとして『命』を扱っている教科書や講義はほとんどありませんでした。だからこそ、宗教者としての経験を医療現場でも生かさなければならない、と感じました」

研修医としての生活をスタートさせた対本さん。しかし、当時は命を救うのに精いっぱいだったと振り返る。

「最初に死を看取った患者さんは、私より3つ、4つ上で、亡くなるにはあまりに若かった。神経の難病で呼吸補助装置に繋がれていて『どうして自分がこんな病気になったのか。死ぬのが怖い』と、苦しい息の下で訴えるのです。恥ずかしい話ですが、私は呼吸器の調節に必死で、十分に寄り添ってはあげられませんでした」

こうした経験もあり、研修期間を終えると、病いだけでなく、心までトータルケアをする「ホリスティック医療」を学ぶために、第一人者である帯津良一氏の門をたたく。

「週に1回、院長回診にも同行させてもらいました。漢方や太極拳、音楽療法、西洋医学と伝統医学を組み合わせた統合医療を学ぶうちに、ホメオパシー(自然治癒力を促す補完医療)などにも興味を持ち、イギリスで3年あまり臨床研究をしました」

帰国後、東京都内で内科のクリニックを運営していたところ、現在勤務する病院から経営再建の依頼を受け、まずは下見に赴いた。

「4年前の3月。ちょうどお彼岸の前後で残雪がありました。病院に着いて、まず職員通路を歩くと、掲示板に《本日午後一時から、新院長のご挨拶》と貼り紙があるんです。新院長は誰かと聞くと『先生のことです』と(笑)。『私、まだ承諾したわけじゃありません』と言っても『先生に断られたら病院が潰れます』と聞いてくれない。でも、そうまで言われると“ご縁”と考え引き受けてしまうのが、坊さんなんでしょうね」

患者の心に寄り添い続ける院長生活も4年がたった。病院の経営状況が飛躍的に改善したこともあり、新病棟建設の構造が立ち上がっているという。

「仏像も十字架もない、簡素な部屋にするつもりですが、一人で時間を過ごすための“祈りの部屋”を新病棟には造りたい。終末期の患者さんをケアするうえで、そのような空間の必要性を感じています」

“死者の魂を弔う”だけが僧侶の仕事ではないーー。対本さんの表情には、そんな思いがあふれていた。

「女性自身」2020年3月3日号 掲載

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