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移民の受け入れは「高学歴女性がさらに豊かになるだけ」か

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日本が移民をもっと受け入れた場合、私たちの生活はどう変わるのか。青山学院大学国際政治経済学部の友原章典教授が、各国のデータをもとに日本社会の変化を予測した。第1回は「女性の社会進出」について――。(第1回/全3回)

※本稿は、友原章典『移民の経済学』(中公新書)の一部を再編集したものです。

Soon I'll be running this city※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PeopleImages

移民が増えると高給女性の勤務時間も増える

日本では、いろいろな分野で人手不足が懸念されているが、その打開策として女性の活躍が提言されている。男女平等なキャリア形成のあり方とも相まって、女性の社会進出が課題となっているが、移民受け入れがその促進に一役買うと期待されている。移民が増えると、女性の家事負担が減り、働きやすくなると考えられているからだ。

ボストン大学のコルテスとチリ・カトリック大学のテサーダによる研究は、こうした見解を支持している(注1)。アメリカにおけるデータを分析した結果、家事代行サービスなどに従事する移民が増えることによって、働く女性の後押しをするというのだ。ただし、恩恵を受けるのは限られた女性のようだ。詳しく見ていこう。

ここでの議論は単純労働者である移民を考えている。彼らの研究では、単純労働者とは高校を卒業していない人のことで、帰化して市民になった人、または市民でない人を移民とする。年齢は16歳から64歳までで、進学しておらず、労働力として申告した移民が分析の対象だ。単純労働者である移民は、彼らが全人口に占める割合に比べ、家事代行や育児支援などのサービス産業で働く割合が、非常に高いことが知られている。分析には、1980年、90年、2000年に実施された国勢調査による移民データを使用している。

分析の結果、1980年から2000年までに流入した単純労働者である移民は、賃金の高い女性(女性の時給分布の上位25%)が職場で働く時間を、週当たり20分増やしていた。女性の賃金が低下するほど、労働時間の増加の程度は小さくなり、賃金の低い女性(女性の時給分布の中央値より下)には影響が見られない。時給を高い人から順番に並べ、真ん中より下にあたる女性、つまり、半分の女性の労働時間には影響がないのだ。

注1:Cortés, P. and J. Tessada, 2011, Low‐Skilled Immigration and the Labor Supply of Highly Skilled Women, American Economic Journal: Applied Economics 3(3), 88‐123.

家事代行サービスに任せ、より働くようになる

こうした結果は、高時給のため時間が大事である(経済学では、時間の機会費用が高いという)女性ほど、単純労働者である移民の流入の影響を受けて、時間の使い方を変えると解釈されている。時給が高ければ、家事代行サービスにお金を払っても、元がとれるというわけだ。

それだけではない。最近まで働いていたが、現在働いていない女性への影響も考察している。それは職業に基づいた分析だ。まず、男性の賃金水準に基づいて、賃金の高い順番に職業を並べる。すると、もっとも賃金が高い職業(たとえば、医者や弁護士)の女性は、労働時間を増やしていた。しかし、現在働いていない女性が、働くようになるわけではなかった。時給が高い職業に就くような人たちは、すでに働いている割合が高いからではないかと推測されている。

また、潜在的に長時間労働が一般的である職業についても、似たような結果が出ている。男性が長時間労働(週に50時間や60時間以上)をしている割合が高い職業で働く女性の場合には、単純労働者である移民が増えると、長時間働く確率が増えていた。

さらに、教育水準が高い女性にも同様な影響が見られる。高度な技能を有する女性の労働時間が増えるのだ。特に、博士号や専門職学位(法曹や医師・薬剤師などへの学位)を持つ女性の労働時間への影響が大きくなっている。一方で、教育水準が高い女性の労働参加(働いていない人が働き始める)は認められなかった。

“移民の恩恵”にあずかれる女性は上位25%

単純労働者である移民の増加によって、一部の女性の勤務時間が増えることは分かった。では、家事に費やす時間はどうだろう。コルテスとのテサーダの仮説は、移民が女性の家事を肩代わりしてくれるので、長時間働けるというものだ。勤務時間は増えても、家事の時間が変わっていなければ、働きやすい環境になったとはいえない。コインの表と裏を見てみよう。

コルテスとのテサーダの分析によると、賃金の高い女性(世帯主である妻または女性の時給が上位25%に入る場合)は、1980年から2000年にかけて流入した単純労働者である移民の影響で、家事の時間を週当たり約7分減らしていた。

また、彼女らが家事代行サービスへ支出する確率やその支出額も増えた。ただし、支出額は、四半期で約200円増えたにすぎない。かなり少額の変化だ。増加額が少ない理由については、分析の対象となった家事代行サービス(ハウスキーピング)には、データの制約により造園、食料品の買い物、洗濯などが含まれておらず、限定的なサービスだからだと説明している(一方、先述の家事時間の分析では、これらの家事も含まれている)。

さらに、家事代行サービスへ支出する確率やその支出額の増加は、賃金の高い女性に限られており、それ以外の女性、つまり、全体の75%の女性には認められなかった。

移民の存在は女性の社会進出を後押しするか

まとめると、単純労働者である移民が増えると、一部の女性は家事代行サービスなどを利用して勤務時間を増やしている。それは、賃金や教育水準が高く、高度な技能を必要とする職業で働いている女性だ。しかし、それ以外のほとんどの女性には、こうした影響はない。恩恵を受けている人とそうでない人がいるのだ。

こうした研究を見ると、日本において家事代行や育児支援サービスの分野で外国人労働者の受け入れを拡大しても、恩恵を受けるのは一部の女性かもしれない。また、現在働いていない女性が働くようになる可能性も、あまり高くないことになる。ただ、受け入れる外国人数や女性の社会進出を支援する政府からの補助金などによって、周辺環境は大きく変わる。将来的な諸要因の変化により、実際にどのような効果があるかは不明だ。

男性の所得格差が拡大してしまうワケ

ここまでの議論では、女性の社会進出は推進すべき目標ととらえている(現在の日本政府のように)。その目標達成のため、移民が役立つかどうかを考えてきた。

ここからは、女性の社会進出に関連して、面白い研究結果を少しだけ見てみよう。移民とは直接関係ないが、女性の社会進出がもたらす影響についてである。女性の社会進出が急激に進むと、思わぬ影響があるかもしれない。

マサチューセッツ工科大学のアセモグルらは、女性が働くようになったことで、男性・女性の賃金が下がっただけでなく、男性の間で所得格差が拡大した事例を紹介している(注2)。女性が高卒男性と競合したため、高卒男子の賃金が低下し、高卒男性と大卒男性の格差が開いてしまったというのだ。

これは、第二次世界大戦によって引き起こされたアメリカにおける女性の労働力参加について研究した結果だ。戦争によって多くの男性が徴兵されたが、男性の動員が多い州ほど、戦後や1950年には、より多くの女性が働くようになっていた。40年には見られなかった傾向である。戦争を契機に、女性が社会に進出したのである。

その結果、労働市場において、いくつかの大きな変化があった。まず、多くの女性が働くようになったことで、女性の賃金が低下したことだ。推計では、男性労働者に対する女性労働者の割合(女性の労働者数を男性の労働者数で割ったもの)が10%増えると、女性の賃金が7%から8%低下する。

注2:Acemoglu, D., D.H. Autor, and D. Lyle, 2004, Women, War, and Wages: The Effect of Female Labor Supply on the Wage Structure at Midcentury, Journal of Political Economy 112(3), 497‐551.

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