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ノーベル経済学者スティグリッツの提言が日本経済に及ぼす影響 - 中野雄太

HRPニュースファイルの中でも何度か紹介したことがあるコロンビア大学教授であり、2001年のノーベル経済学者のJ・スティグリッツが最新刊を発刊しました。http://amzn.to/OVkTD8

近年話題となったウォールストリート占拠の根源となった「1%」の富裕層と「99%」の貧困層という現象は、同教授の見解に基づいているとも言われています。同教授は、左翼ではありません。「情報の経済学」と呼ばれる新しい分析手法を開発したケインズ派に分類される学者ですし、市場経済における問題がなければ自由主義はメリットをもたらすことを肯定しています。その意味で、共和党の保守系やTea Partyのようなリバタリアン=自由主義者とは距離感があるのは事実です。

上記の書籍を含めて、スティグリッツは米国内の所得不平等とグローバリゼーションに対する批判を主に展開しており、米国内に大きな影響を与えています。同時に、スティグリッツの支持者は全世界にもいるため、彼の提言が全世界に与える効果も無視できません。

では、どのような影響力を及ぼすのか。以下のようにまとめてみました。

(1)格差是正とグローバリゼーション批判派を勢いづかせる

同教授は、クリントン政権では大統領経済諮問委員会委員長を務めた後、世界銀行で上級副総裁、主席経済学者として活躍しましたが、米財務省やIMF(国際通貨基金)を痛烈に批判したため、世界銀行の上級副総裁を辞任しています。同教授が執筆したGlobalization and Its Discontents(邦題:世界不幸にするグローバリズムの正体)では、米国主導の政策提言(緊縮財政や貿易自由化など)がもたらす問題点を指摘しています。

学者であると同時に実際の政策現場での体験だけに、スティグリッツの「告白」は、IMFや世界銀行、米財務省に動揺を与えました。

スティグリッツによれば、先進国と途上国の格差が開いているのは、ワシントンによる一部エリートに原因があるとします。また、ウォールストリートの金融マンによる法外な報酬は社会正義として許容範囲を超えており、米国は格差是正をするべきであるとします。08年にノーベル賞を受賞したP・クルーグマンやスティグリッツの同僚で国際的にも知名度の高いJ・サックス教授も同様の批判を展開しています。

このような流れはオバマ大統領と米民主党にとっては追い風になるでしょうが、前回の中間選挙で共和党が躍進して保守勢力が復活していますので、米国内で氏の意見がどこまで反映されるかは定かではありません。

(2)日本への影響とは

同氏の政策提言を日本で応用するに当たって注意が必要なのは以下の二点です。

例えば第一に、日本でも最近は貧困問題が注目されており、所得税の最高税率や相続税率の引き上げが提言されています。また、資産課税を通じて所得の再分配強化も議論にあがっています。そこで、特に注目に値するのが次の論点です。

スティグリッツは、『世界の99%を貧困にする経済』の中で富裕層の減税は間違いであると論じています。

教授は「トリクルダウン説」を否定します。つまり、富裕層が豊かであれば、そのおこぼれが中間層や低所得層へ滴り落ちる(トリクルダウン)するという考えです。これは、共和党の中に根強く存在する考え方であり、近年ではTea Partyが強く主張するロジックです。しかし、同氏はむしろ、公共投資や社会保障関係を手厚くすることによって低所得層や中間層を底上げすることを主張します。税制面では所得税と法人税の累進性強化、実効性の高い相続税の導入を提案していることを見ても分かる通り、伝統的な米国の自由主義に対するアンチテーゼです。こうした論点が、日本でも幅を利かす可能性は高く、財務省をはじめとする増税派の理論的根拠になることでしょう。

第二に、米国主導によるグローバリゼーションへの批判は、TPP反対派と通じるものがあります。

実際に、米国による理不尽な要求があるのは事実ですが、それを抑止するためにTPPは参加国全部の合意を取り付ける制度です。スティグリッツは、グローバリゼーションのメリットを十分に把握しているとはいえ、効率的な資源配分を阻害する原因が、ワシントンのエリートあるとしており、彼らに対する不信感は相当なものです。

ここ数十年のスティグリッツには、過激な体制批判の傾向があります。上記で紹介したメッセージは極めて政治性の強いものです。日本ではスティグリッツファンが多いだけに、安易に同氏の政策提言が実行される可能性があります(具体的には、増税とTPP反対に使わる可能性が高い)。注)

しかしながら、日本には、長年のゼロ成長から脱するためのマクロ経済政策こそ優先的に取り組むものです。日本は、日本としてやるべき政策を実行するのみです。同氏の意見は、あくまでも参考意見として研究するのがよいでしょう。 (文責:中野雄太)

注)スティグリッツは消費税増税には否定的です。この点は我が党と同じスタンス。

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