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赤勝て白勝て・・なんて言ってる場合じゃない!

なんだか産経と毎日がケンカしてるみたいな状況が起きてる。産経の「産経抄」と毎日の「憂楽帳」。テーマは脱原発と節電について。2012年7月16日に開かれた脱原発の集会での坂本龍一氏の発言を槍玉に上げた「産経抄」に、「憂楽帳」がかみついた形だ。

産経抄(産経新聞2012年7月21日)
▼彼は、「たかが電気のために、この美しい日本の未来である子供の命を危険にさらすべきではない」とのたまった。確かに、たかが電気である。命には代えられない、と思わずうなずきたくなる甘いささやきではあるが、「たかが電気」がどれだけ多くの命を救ってきたことか。

憂楽帳:「矛盾」してていい(毎日新聞2012年7月23日)
それを「矛盾」ととるなら、矛盾でいい。いくら電力を使いまくっても、脱原発は主張できる。原発関係の企業や省庁に勤めていても同じだ。問われているのは、福島のような放射線汚染は未来永劫(えいごう)二度と起きないと言えるのか、ということだからだ。あるいは、最終処分場も決めず、見知らぬ未来の人々に核廃棄物を託してもいいのか、ということだ。エネルギー論というより個人の倫理が問われている。

やじうま的には赤勝て白勝てどっちもがんばれな状況なんだが、そんなこと言ってる場合じゃなかろうと思うのでそういう趣旨でごく手短にひとくさり。

それにしても、この2つのコラムの、志の低さというか幼稚さというか、なんともいえない残念な感じはどうだろう。産経の方は、「おしゃれな文化人」(明らかに坂本氏をイメージさせる描写だが、はっきり書かないのがまたこずるい)のお気楽反原発を皮肉り、「電子音楽」で人気を得た経歴なのに電気はいらないという坂本氏の姿勢を批判してる。一方毎日は、意見は自由だから矛盾も結構、「いくら電力を使いまくっても、脱原発は主張できる」と、節電のための必死の努力をしている産業界の人たちが聞いたら卒倒するんじゃないかと思うくらいの暴論をしれっとのたまってる。こういう文章を書いてるのは、新聞社でもかなり上の方の人たちだろうと思うんだが、おいおいまじかよ、と本気で心配になるレベルだ。

いやいやまさか、大新聞社様がそんなレベルの低い文章を載せるわけがない、何か意図があるんだろう、ということだとすると、これらの文章は人を意図的にミスリードするという意味でさらにたちが悪い。脱原発と節電を考えるとき、タイムスパンを考慮に入れるのは基本中の基本だ。この2つがトレードオフになるのは、発電電力量の構成比も電力需要もすぐには大きく動かせないからで、中長期的にはこれらは政策次第である程度は動かせるパラメータとなる。だから短期の話をしてるのか、中長期の話をしてるのかで、話は全然ちがうはずだが、産経も毎日も、この点を華麗にスルーしちゃってる。産経は「電力大切だよね、原発必要だよね」という短期に焦点を合わせたロジックで中長期の視点を欠いてるし、毎日は「電力ほしい、でも原発いらない」という、中長期的にしか現実味をもたないロジックで短期の視点がない。いくら短い文章とはいえ、あれはひどすぎる。意識的にわざとそうしてるなら、これは欺罔ではないかとすら思う。

ちなみに坂本龍一氏は「原発いらない、電力不足してもいい」というスタンスだろうから、この点においてはある意味一貫してる。その意味をどのくらいわかって言ってるのかは聞いたわけじゃないので知らないが、少なくとも短期的には避けがたい電力不足のリスクやそれに起因する経済及び国民生活へのさまざまな悪影響のリスクを「やむを得ざる犠牲」と割り切った上での意見であれば、当否はともかくひとつの考え方ではあろう。賛成できなくても意味ある対立軸を提供するという意味では、少なくとも産経や毎日の子どもじみたコラムよりはるかにましだ。

脱線はさておき、この「論争」(というか「口論」というか)で一番残念なのは、これではこの、日本全体にとってきわめて重要な問題に関する理解や議論を深める方向にまったく向かわないことだ。この2社の場合、スタンスが比較的はっきりしてるから、おそらく読者層の考え方もちがうんだろう。だからそれぞれの読者層に受けそうな意見を出しておこうということなのかもしれないが、忘れてはならないのは、これらの読者層もそうでない人たちも、日本にいる限り、電力インフラや経済を「共有」してるということだ。私たちは意見のちがいこそあれ、社会全体として、何かを選びとり、何かを捨て去らなければならない。

民主主義において数を競う競争は不可避だが、そのときに必要なのは、「敵」を論破することより、「味方」を増やすことだ。意見をぶつけあうことはもちろん必要だが、その後、異なる意見の中に共通する価値観を見出し、100%賛成でなくてもなんとか合意できる案を作っていくことが必要となる。そのために、意見の違う人たちに語りかけていこう、あるいは自社の読者の視点を広げるような知見を伝えようとするのがマスメディアの社会的責任というものではないんだろうか。「社会の木鐸」ということばは死語になったのか。産経も毎日も、ほんの1年前に、私たちの国が「国難」に際して皆で立ち向かおうとしたことを忘れてしまったんだろうか。その「国難」は、まだ私たちの目の前にほとんどそのまま残っているというのに。あんな低レベルの口論をしてる場合じゃないだろう、というのが正直な感想だ。

まあ、私が買いかぶりすぎなのかもしれない。しょせん民間企業だし、ああやって読者「ニーズ」に応えていかないと生き残れない経営状況なのかもしれないし。もしそうだとしても、議論するならもう少しまともなものにしていただけるといいなあ。でないと記事への信頼も失われると思うよ?

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