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事故が起こったから

関越道高速ツアーバス事故を受け国交省が調査、法令違反の事業者は8割以上(マイナビニュース)

国土交通省は今年4月に関越道で発生した高速ツアーバス事故を受け、「今夏の多客期の安全確保のための緊急対策」の一環として、貸切バス事業者に対する緊急重点監査を実施。18日にその結果概要などを公表した。

緊急重点監査の対象事業者となったのは298者。うち法令違反の指摘を行ったのは250者で、全体の83.8%におよんだ。その中でも、乗務時間などの基準が「大多数(16件以上)遵守されていない」事業者が7者、運転者に対する指導監督が「全く実施されていない」事業者が3者、「名義貸し」が1者など、「運行の安全確保の観点から重大又は悪質な法令違反」に該当する事業者も多く、その数は計48者に。

国交省は旅行業者59者にも集中的立入検査を実施しており、法令違反の指摘を行った事業者は28者。対象となった旅行業者のうち47.4%と半数近くを記録した。

 事故が起こったので調査してみれば、なんと全体の83.8%に法令違反の指摘という結果になったそうです。まぁ、歯科医師業界であれば実質的な混合診療ですとか無免許の歯科助手による医療行為とか、あるいは派遣契約関係であれば事前面接ですとか常用代替ですとか、そして求人広告の虚偽記載にサービス残業等々、本来であれば法令違反ではあっても慣例として許されていることは少なくありません。取り沙汰されているバス事業の場合も、たぶんそういうものなのでしょう。今までは黙認されてきた、しかるに大きな事故があって世間の注目が集まったので厳密に法律を適用してみた結果として、全体の83.8%に違反が見つかったわけです。この業界に限ったことではあるまい、とも思いますが……

安さから安全へツアーバス転換点 夜間1人400キロ、きょうから新基準(産経新聞)

 群馬県の関越自動車道で乗客7人が死亡した高速ツアーバス事故を受け、運転手1人の夜間運行距離の上限を原則400キロとするなどの国土交通省の新基準が20日から実施される。基準強化で事業の継続を断念するバス会社も110社以上あり、運転手確保のため、旅行会社にも値上げや減便の動きもみられる。「安さ」から「安全追求」へのシフトはツアーバスに大きな変化をもたらしている。

(中略)

 70路線を運行する最大手の「ウィラー・アライアンス」(東京都港区)は8月1日から平均200円の値上げに踏み切る。交代運転手の人件費や教育関連などコストがかさむことが要因だ。同社は「料金やシートといったものに利用客の興味が集中していたが、事故で安全に付加価値が付くようになった」としている。

 安全に付加価値が付くようになったのは悪いことではないでしょう。ただ、その付加価値のための値上げ幅は僅かに200円(平均)と伝えられています。電車で30分くらいの距離ならいざ知らず、長距離バスの料金で200円です。人件費の占める割合の大きい世界で、たかだか200円を積みました程度で十分な人員を確保できるかどうかは微妙なところ、運転手の負担は増えそうです。人を雇うコストを考えれば、もう少し値上げに理解が得られるようでないといけません。まぁ、とにもかくにも「値上げの前に、まずリストラ」が日本社会ですから、何がどう転んでも働く人にとってはプラスにならないものなのかも知れないなと言う気がしてきます。

 前にもちょっと書きましたが、私の勤務先では元請け工事もしています。主な顧客は携帯電話会社、要するにドコモとKDDIとソフトバンクなのですが、発注元である携帯電話会社からは安全管理の面でも色々と要求が突きつけられるわけです。安全教育の受講などを指示されることもありますし、抜き打ちで発注元からの監査が入ることもあります。そして、安全のためと施工時の人数を指定されることも少なくありません。ベテランの下請け業者は「それくらいなら私と○○だけで十分ですよ」「大丈夫だ、問題ない」と最小限の人数で作業に当たろうとするものですが、発注元からは現場代理人は作業に当たってはダメ、○○の工事なら必ず○○人以上の作業員で行うこと云々と細かく注文を付けられます。

 そうは言っても、作業員の数を増やせば(雇用主が良心的であるほど)人件費も嵩みます。工事1件当たりの契約で下請けに仕事を回したりすれば、当然ながら下請け業者は最小限の人数で作業に当たろうとするわけです。「○○人以上で作業するように、現場代理人は監督のみで実際の作業は行わないように」と発注元の指示を伝えたくらいでは、なかなか言うことを聞いてもらえません。人はタダでは増やせないのです。作業員確保のため、下請けが孫請けや一人親方を連れてきたりするのですが、そこにも当然支払いは発生しますから。もっともコストダウン要求がうるさいソフトバンクは作業員の数にはうるさくなかったり、逆にKDDIで設備が東京電力の敷地内にあったりする場合はすさまじく管理が厳しい(脚注参照)分だけ、工事の発注価格は高めに出しても認められるなど、まぁ私の勤務先の場合は何とかやっています。

 業界内部へも余波を与える。かさむ人件費やデジタル式運行記録導入などツアー会社からのさらなる安全対策の求めに応じ切れず撤退するバス会社の姿が目立ち始めた。

 国土交通省によると、これまでの監査などで、ツアーバス事業を手がけたことがあるという349社のうち、118社がすでに事業を行っておらず撤退していることが判明した。国交省は「規制強化が少なからず影響しているとみられる」とする。

 とはいえ、安全管理にコストをかけ、法律を守っていては経営が成り立たない、そういうレベルの会社もまた少なくないのかも知れません。349社のうち118社が撤退済と伝えられており、「規制強化が少なからず影響しているとみられる」そうです。どうなんでしょうね、これを致し方ないと思う人もいれば、「弱い企業」やそこで働く人を慮る風を装って規制強化の方が誤りなのだと主張する人が、あの陸援隊の事故さえなければ跋扈していたのではないかという気がします。実際、派遣法など非正規雇用を巡っては、ゆるめすぎて無法状態にある現状を少しでも締め直す動きがあれば、非正規で働く人の雇用機会が損なわれる云々と、素面で言ってのける人が目立つわけですし。

 規制が緩めば緩んだ分だけ、都合良く使い捨てられるのが非正規雇用の世界で、雇用側に「永遠に非正規のまま働かせ続けてもよい」と政府がお墨付きを与えたところで雇用の保障などないのですが、それでも雇用側を規制してはならない、雇用主を法律で縛るな!雇用主に自由を!と形振り構わぬ主張を繰り広げる人もいます。そういう人にとって、今回の国土交通省の新基準はどうなんでしょう。乗客の安全を脅かし、乗務員の生活だって副業でもしなければ成り立たない、そんな会社が存続できるような社会であってはならないと私は考えますけれど、一方で零細バス事業者の雇用が損なわれる云々と、弱者の味方のフリをしたがる人もいるはずです。そういう人が表に出てこないのは、単に陸援隊の事故の記憶がまだ生々しく残っているから、それだけなのではないでしょうか。



おまけの脚注、

 おわかりかとも思いますが、KDDIが厳しいというより、東京電力が厳しいのです。実際はKDDIの設備でも、東京電力の敷地内で事故が起これば、きっと東京電力の問題にされるのだろうなぁ、と。しかるに下請けの作業員の人は行程優先で細かなルールを無視しがちなので、割と神経を使うところです。工賃を増やせば解決できなくもなさそうですが、その分が価格に転嫁されることをリストラが第一の世間は理解するのやら。ともあれ下請けが厳しい監視をかいくぐって問題を起こしては東京電力がバッシングに遭うというケースも多いですけれど、私が職務上で関わる限り、安全管理面では最も口うるさい部類に入るのが東京電力でもあります。一方で多重請負や安全管理の不備など諸々、とかく電力会社や原発に特有の問題であるかのごとく矮小化されて語られがちなのが私には気になるところです。他の会社の現場作業ではもっと緩い、バス業界よろしく本気で監査すれば色々と見つかるであろう世界ですから。巷の話題に上っていないだけで、実は探ってみれば問題山積みなんてことは珍しくありません。

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