記事

優秀な社員ほど流出する会社は「ジャニーズ事務所」と同じだ

1/2

吉本興業やジャニーズ事務所など、タレントと芸能事務所の契約関係が大きな話題を集めるようになった。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏は「このところ話題になっている芸能事務所の契約変更は、一般企業の人事施策にも役立つ部分がある」と指摘する──。

ネオンに照らされるアジア人
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kyonntra

芸能界の「闇営業」問題に絡んだ“予兆”

2019年、世間で盛んに話題にされたことのひとつが、芸能界の「闇営業」である。

この闇営業について「タレントが反社会勢力の仕事を受注すること」と理解している人も少なくないが、本来の意味は「タレントが事務所を通さずに仕事を受注し、中間マージンを抜かれることなく報酬を得ること」を指している。

昨年は多くの芸人が謹慎処分をくらったが、なかには事務所からマージンとして抜かれる額が多過ぎて、困窮のあまり闇営業に手を染めた者もいた。

そして2020年、闇営業問題でもっとも目立った吉本興業は(ロンドンブーツ1号2号の田村淳がコメントしていたことによると)、報酬が5万円までの仕事であれば、事務所を通さずに引き受けてもよいことになったという。これは、芸能事務所としては大幅な譲歩といえる。

こうした動きは、今後、芸能人と事務所の関係性が変わっていくことの予兆と捉えてもよいだろう。そしてこの機運を、単に芸能界だけの変化として、対岸の火事のように眺めているだけではいけないとも思う。むしろ、効果的な人材マネジメントのヒントとして、一般企業としても動向を注視しておく必要があると、私は考えている。

ひとたび売れたら大金持ち。だから耐える

芸人の貧乏話はいろいろ耳にするが、私が聞いたなかでもっともすさまじかったのは「1カ月の給料が13円」というものだ。2000年代半ばごろ、芸能人がこぞって参入していた「着ボイス」のダウンロード1回分の印税額だという。しかもこれは芸人本人が自腹でダウンロードしたものらしい。仮に販売額が100円だったとしたら、87円は本人の「持ち出し」に相当することになる。

「芸能人」という職業は当たれば超大金持ちになれるだけに、売れていない時代の極貧も「自分はまだ下積み中だから」などと甘んじて受け入れる素地がある。さらに事務所は「貧乏がつらい? オマエが売れないのが悪い」「オマエを育てるためにこれまでいくらかかったと思っているのだ」といった調子で、時には突き放すようなことすら言ってくる。確かに正論なのだが、やりがいを搾取していると見ることもできそうだ。

とはいえ、ひとたび売れてしまえば月収が何千万単位、億単位になったりすることもある世界。だから彼らは事務所の方針に従い、売れる日を夢みて働き続ける。

ギャラを3~4割、事務所に抜かれ続けて

しかしながら、事務所にギャラの3~4割を抜き取られる日々が続くと、次第に不満がたまってくることは容易に想像できる。なかには9割取られる事務所もある、とも報じられている。一方で、仮に売れているのがタレント1人程度の事務所に、とくに売れてもいないその他のタレントが十数人もいたら、正直なところ売れっ子のギャラを3~4割を抜く程度では運営もギリギリになることだろう。結局、その売れている1人に頼り切りとなり、他はどうにか「売れっ子のバーター」で露出を増やしていくしかない。

育ててもらった恩、仕事を獲得してきてくれた恩は感じつつも、ギャラの中間搾取に悩む売れっ子タレントと、ごく一部の売れっ子に頼り切りで、万が一独立でもされようものなら一気に経営が火の車になってしまいかねない事務所。それが人気芸能人と事務所のあいだでわりとよく見かける関係性なのである。

独立劇が目立つ最近のジャニーズ

そうはいうものの、近年、売れっ子芸能人の独立が目立つのも事実だ。とりわけジャニーズ事務所の所属タレントが目につくが、筆頭は元SMAPの3人──稲垣吾郎・草なぎ剛・香取慎吾による「新しい地図」だろう。

独立後、3人での活動を開始してから2年5カ月ほど経過した彼らだが、香取慎吾が週刊誌『女性セブン』のインタビューで「3人で話したことが全部叶った」と語っているように、順風満帆な第二の人生を送っている様子だ。香取以外の2人にしても、SNSやブログで充実した生活を報告しており、「ああ、ようやく自由になったのだな」「身軽になれてよかったね」と言いたくなる。

その他にも元KAT-TUNの赤西仁に億単位の収入があると報じられたり、元関ジャニ∞の錦戸亮が再始動後に順調な滑り出しを見せたりと、話題には事欠かない。ジャニーズに絡む話題としては、2020年をもって活動休止となる嵐の動向も注目されているところだが、このままいくとジャニーズは「超絶優秀な人材育成機関、かつ抜群の売り込み力とタレントブランディング力を備えたプロ集団」といった様相を強めていくのかもしれない。そうなると、入所前からすでに独立後のことまで視野に入れつつジャニーズに所属し、芸能人としてのキャリアプランを長いスパンで考えるような人まで出てきてもおかしくはないだろう。

YouTuberにオンラインサロン……芸能人が稼ぐ方法も増えた

事務所に属していないと芸能活動もままならず、下手に独立しても仕事は先細っていくばかりで、結局、自分のやりたいことなんてできない──かつては、確かにそういうものだったのかもしれない。

ただ、いまの時代はなにしろインターネットが存在する。すでにある程度の知名度を得ている芸能人であれば、ブログをまめに更新して広告費を稼いでもいいし、YouTuberとして好きな企画を自分のやりたいように表現しながら稼ぐ方法もある。今年2月1日のYouTubeチャンネル開設から、わずか9日で100万登録を達成した江頭2:50がその好例といえよう。ファンクラブやオンラインサロン、ファンミーティング、クラウドファンディングなど、自分を応援してくれる人と直接向き合いながらカネを稼ぐ手段の選択肢も増えた。

もちろん皆が皆、独立して成功するわけではない。ただ、ネットの普及、SNSの進化などに伴って、稼ぎ方の幅が広がったのは間違いない。芸能人が古巣の事務所を離れて、最低限のマネジメント業務をしてくれる人物に月額35万~50万円ほどを支払い、自分は月に1000万円以上の手取りを獲得する……なんてことも決して夢物語ではないのだ。

芸能人事務所の待遇改善策から学べること

組織から有能な人材が流出してしまう動きを阻むには、待遇を上げるしかないのだが、果たして芸能事務所にそれができるのか。最近はコンプライアンスの観点に加えて、ネットで暴露されるリスクを軽減する意味でも、つい昔からの慣習で「オマエ、独立したら干してやるからな」といったパワハラ発言などは、決して口にできない状況になった。そうした意識の変革は、他の業種業態ではもう何年も前から当たり前のことになっていたわけだが、ついに芸能界もその大波に飲み込まれ始めた、と見てもいいだろう。

ここで私が強調したいのは「これから芸能界の待遇改善がどうなっていくのか、ビジネスパーソン諸氏は注視しておくほうがいい」ということだ。冒頭で紹介した吉本興業の「ギャラ5万円までの直営業は黙認」も、ひとつの参考事例になる。

なぜ芸能事務所の待遇改善について、その動向をチェックしておくべきなのか。それは、芸能事務所以外の組織においても、人材の流出阻止策として応用できるなど、非常に参考になる部分が多いと考えるからだ。たとえば、広告業界のクリエイターやIT業界のプログラマーといった世界では、スター社員ともいうべき優秀な人材が独立を決断して、会社から離れていくような場面がよくある。会社にとって、こうした独立は大損失だ。

あわせて読みたい

「雇用・労働」の記事一覧へ

トピックス

議論新型コロナウイルスに向き合う

ランキング

  1. 1

    ナイキCMを100%褒め称える危うさ

    倉本圭造

  2. 2

    凋落の新聞社 報道の行く末とは

    ヒロ

  3. 3

    10代死亡はミス? 厚労省の大誤報

    青山まさゆき

  4. 4

    引退後も悪夢 アスリートの苦悩

    山本ぽてと

  5. 5

    コロナ報道の正確性に医師が疑問

    名月論

  6. 6

    NHK捏造か 軍艦島の疑惑説明せよ

    和田政宗

  7. 7

    渡部建の目論みに冷ややかな声

    女性自身

  8. 8

    堀江氏「医療崩壊の原因は差別」

    ABEMA TIMES

  9. 9

    海外は大麻OK 伊勢谷被告の驕り

    渡邉裕二

  10. 10

    細野氏「国会機能が明確に低下」

    細野豪志

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。