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日本に comply or explain の規定は根付くのだろうか?

LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)の不正操作問題は、いよいよ関係者の刑事訴追が始まるような気配ですが、これまでの事件の推移をみておりますと、英国銀行協会のルールに従って自主申告する制度が、銀行関係者の極めて高い倫理観に依拠していることを改めて認識いたしました。監査も監督もない信用の世界に成り立つ制度だからこそ、これを破った者に対しては(全体の制度の信用を喪失させたことへの)厳しいペナルティが待ち受けている、ということになります。事前規制が「倫理」に依存する制度だからこそ、事後規制の「制裁」がより厳しいものになる、ということかと思います。

取引金利の公正な概観は、関係者の極めて高い倫理観によって維持される、というLIBOR不正操作関連の記事を読んだときに、ふと思い出したのが、数年前に青山学院大学の会計サミットで会計士の方からお聴きした「英国では、私が会計基準だ、と自負する会計士さんが多い」というお話です。アメリカや日本とは異なり、プリンシプルベースの会計基準が通用する英国では、自身の解釈こそ公正なる会計慣行との自負を持っている、だからこそ自身の意見については高い倫理観がなければ会計士は務まらないのだ、といったお話でした。ところで、TIBOR(東京銀行間取引金利)にも不正操作のリスクは存在するのですが、日本の場合には横並び意識による自主申告が可能となる制度運用がされているので、実際には金利が歪められるおそれは少ないそうです(昨日の日経新聞で報じられていました)。

さて、先週要綱案(第一次案)が法務省HPで公表されております会社法の改正案に、すこしおもしろい提案が出ています。社外取締役の選任義務付けを会社法に規定することは見送られたものの、社外取締役を選任しない会社については「なぜ当社では社外取締役を選任しないほうが妥当なのか、その理由を開示すること」という規定を置いてはどうか、というものです(なお、7月25日午前2時の時点で、日経新聞ニュースによると、この要綱案を経済団体が受け入れる方向とのこと)。

これは、いわゆる comply or explain (ルールに従え、さもなくば、従わない理由を説明せよ)の制度を会社法で採用する、ということではないかと思われます。ご承知のとおり、これは英国で使われている制度であり、国家が強制的に行為規範を押し付けるのではなく、法人の自由を最大限配慮しながらも、法の政策的な趣旨を緩やかに実現しようという規制手法です。しかし、今回のLIBOR問題や、英国の会計制度を支える「真実かつ公正なる概観」の考え方などからみて、comply or explain の制度は「横並び主義」の日本に根付くものなのでしょうか?

おそらく「explain」というのは、説明責任を尽くす者が、高い倫理観をもって「これが当社では正しいのだ」といった確信に満ちた説明をしなければ成り立たないのではないかと。しかし、この制度を日本で期待することが無理なのは、すでに何度も当ブログで述べたとおり、(本来プリンシプルベースであったはずの)内部統制報告制度(J-SOX)の運用に企業実務家、監査法人が細かいルールを求めてきたことからも明らかだと思います。結局は、著名企業が「社外取締役は当社では有用どころか有害すらあるのだ」とする合理的な理由を述べれば、そのまま横並びで他者も追随する、ということで終わってしまうことが予想されます。これではTIBORと同様、関係者の高い倫理観も何も必要ないのではないかと。

そしてもうひとつは、「explain」を論評する公正な市場が存在しない、ということにあります。ルールに従わない企業を市場がどう評価するのか、判断者が理由まで聞いて合理的な行動に出るだけの意見形成が期待できるのかどうか、という点に疑問を感じます。社外取締役を導入しない企業に対しては、社内取締役の選任議案に対して反対票と投じる、といったところぐらいで止まってしまうのではないでしょうか。このたび、原発事故の調査委員会報告書が、政府や国会、東電から出てきましたが、今後日本人は、果たして「どの報告書が最も優れている、それはこういった理由からである」といった議論を盛んに行うことになるのでしょうか?そういった公正な論評を行って、明日の日本のために、少なくともできる範囲での合意形成をしようといった気概のある有識者やマスコミはどれだけあるのでしょうか?結局みんな自分が責任を負うのが嫌なので、単に報告書が認定した事実をセンセーショナルに報じたり、各報告書の欠点を冷めた目で指摘することで終わってしまうおそれはないでしょうか。このような日本の現状を考えた場合、explainさせることが、どれだけ企業のガバナンス改革に影響を及ぼすことになるのか、私自身、いまだよく理解できないところです。

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