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天候不順と消費増税――2013年に逆戻りするアベノミクス - 中里透 / マクロ経済学・財政運営

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2月17日に公表されたGDP速報値(1次速報値)では、昨年10-12月期の実質成長率が年率換算で6%を上回る大幅なマイナスとなった。この落ち込みについては台風と暖冬の影響が大きいとされている。

もっとも、この説明を額面通りに受け取ることはできないかもしれない。消費税率が8%に引き上げられた2014年には、増税後の景気回復の遅れが冷夏のためとされていたが、その後2年以上にわたって消費の停滞が続くなど、天候不順による一時的な要因では説明できない状況が生じたからだ。

そこで、本稿では最新のデータをもとに足元の景気の動向を確認し、今後の道行きについて考えてみたい。本稿の主たるメッセージは、

・消費や生産などのデータからは、昨年(2019年)10-12月期の景気の落ち込みの主たる要因が台風や暖冬であるとの見方は支持されない

・最近公表された経済指標の中には、足元の生産・消費や景況感が2013年の水準にまで落ち込んでしまったことを示すものが数多くある。このことはアベノミクスがスタートの時点に逆戻りしてしまったことを示唆するものだ

・景気の動向を把握するうえでは、台風や暖冬(今後については新型肺炎も)の影響をことさら強調するのではなく、消費や生産の動向を規定する基本的な要因、すなわち雇用・所得環境や物価の動向をつぶさに点検し、誤りのない判断をしていくことが重要である

というものだ。以下ではこれらの点について順を追ってみていくこととしよう。

1.景気の落ち込みは台風と暖冬によるものか?

昨年10月以降の消費や生産の大幅な落ち込みをうけて、台風と暖冬が景気に大きな影響を与えたとの見方が相次いで表明されている。たとえば、GDP速報値の公表に先立つ2月14日の記者会見で、西村康稔経済再生相は消費増税に伴う消費の一時的な振れとともに、台風と暖冬が10-12月期の景気にマイナスの影響を与えたとの見方を示した。また、日本銀行の黒田東彦総裁は、1月24日の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)の席上で、10-12月期に景気が落ち込んだのは2度にわたる台風の被害に見舞われたことによるところが大きいとの見解を示している。

以下ではこれらの見解の妥当性について、具体的なデータをもとに検証してみることとしよう。

●台風の影響

昨年9月から11月にかけて、9つの台風が日本列島に接近・上陸した(上陸した2つの台風のうち台風15号は9月9日に千葉県千葉市付近に、台風19号は10月12日に静岡県伊豆半島付近に上陸している)。このうち台風15号は関東地方と静岡県に、台風19号は関東甲信越、東北地方と静岡県・三重県に大きな被害をもたらした。また、台風21号の接近に際して前線を伴った低気圧が刺激され、関東地方と福島県で大雨が観測された。このように、この間の気象の状況に伴う被害は東日本(三重県・長野県・新潟県以東)と北日本(北海道を除く)に集中していることにその特徴がある。

中でも台風19号は経済活動に大きな影響を与えた。この台風の接近・上陸に際しては多くの店舗で臨時休業や営業時間変更の措置がとられ、通過後にも工場の被災などによりサプライチェーン(供給網)に大きな影響がもたらされたことから、消費や生産に大きな影響が生じることとなった。このことが10-12月期のGDPを押し下げる要因のひとつとなったことは十分に予想される。

だが、問題はその影響がどの程度長く続き、生産や消費を下押しする要因となったかということである。というのは、天候の悪化による生産や消費の減少については、天候が回復した時点で元に戻る動きが生じることが予想されるからだ。一昨年(2018年)の9月には台風21号の上陸で関西国際空港が閉鎖となり(10日後に部分的に再開)、北海道胆振東部地震の影響で北海道全域が停電となるなど、経済活動に大きな影響を与える出来事が相次いで生じたが、翌月(10月)には景気動向指数(内閣府)のCI一致指数(景気の現状を表す指数)が速報値の段階で29年7か月ぶりの大幅な上昇を示すなど(確報値では消費増税前の大幅増産がなされた14年3月以来の4年7か月ぶり)、9月の低下分を取り戻す動きが速やかに生じている。

この点を踏まえると、台風や暖冬の影響については、予断を持つことなく具体的なデータをもとに確認することが必要となる。そこで、最近時点における生産活動の状況を、製造品出荷額において大きなシェアを占める3つの地域についてみると(図表1)、19年10月にはいずれの地域においても鉱工業生産指数の低下がみられたが、11月については台風の被害が大きかった関東でほぼ横ばいとなったのに対し、台風の被害が小さかった近畿において生産活動の低下が顕著となっている。

図表1 鉱工業生産指数(地域別)の推移(2019年1月~11月)

(資料出所)「地域別鉱工業指数」(経済産業省)より作成

台風による被災などに伴う工場の操業停止は、生産活動の停滞を通じて各業種に幅広い影響をもたらす可能性がある。そこで、より広範に経済活動全般の動向を確認するために景気ウォッチャー調査の現状判断DI(方向性)をみると(図表2)、11月以降、総じて持ち直しの動きがみられるが、その動きは関東が東海・近畿を上回っており、近畿ではほぼ横ばいで推移するなど台風の被害状況から予想されるものとは逆の動きが生じている。

図表2 現状判断DI(方向性)の推移(地域別)

(資料出所)「景気ウォッチャー調査」(内閣府)より作成

これらのことを踏まえると、19年10-12月期の消費や生産の動向について説明する際に台風の影響を強調することには慎重でなくてはならないということになる。

●暖冬の影響

昨年(2019年)10-12月期の景気、とりわけ消費の動きについては、台風と並んで暖冬の影響も強調される(通常の季節の区分では10月、11月は秋であるが、天候が景気に与える影響について言及される場合には10-12月期の気温が高めで推移することが「暖冬」と表現されることが多いことから、ここでは慣例に倣って「暖冬」と表記する)。たしかにこの3か月間の平均気温は全国的に平年を上回って推移しており(図表3)、冬物衣料などの販売にマイナスの影響が生じたことが懸念される。

図表3 10~12月の気温の状況(地域別・年別)

(資料出所)気象庁資料より作成

もっとも、一昨年(18年)の10-12月期も気温が高めで推移していたわけであり、北日本については一昨年のほうが平均気温が高かった。したがって、もし仮に暖冬が消費にマイナスの影響を与えるということであれば、一昨年についても消費の弱い動きが観察されることになる。

スーパーや百貨店の売上高など消費関連のデータはその増減が前年同月比の形で示されることが多いから、この場合には気温についても平年差ではなく前年差をみることが必要であり、ある年とその前年の気温がともに平年より高い場合には、暖冬の影響は割り引いてみることが必要ということになるだろう。前年差でみると北日本・東日本・西日本のいずれにおいても18年のほうが19年よりも気温が高めで推移しているから(たとえば北日本についてみると、前年差は18年が1.5℃、19年が▲0.3℃)、前年同月比で消費の動向をとらえる場合には、18年のほうが暖冬の影響(消費の下押し)が大きくなるはずだ(もちろん、18年の前年、すなわち17年が異常な寒波の年であれば、そのこと自体が景気にマイナスの影響を与えている可能性があり、このような単純な比較はできないが、気象庁のデータによる限り17年の冬に全国的に異常な寒波に見舞われたということはみられない)。

このことを踏まえて実際の消費の動向を全国スーパー売上高(日本チェーンストア協会)でみると、18年10-12月は前年比1.3%減、19年10-12月は2.9%減となっている(いずれも既存店ベース)。また、百貨店売上高(日本百貨店協会)についてみると、18年10-12月は前年比0.0%、19年10-12月は8.8%減となっている(いずれも既存店ベース)。このように、いずれについても19年のほうが18年より減少幅が大きくなっており、暖冬の影響に関するさきほどの予想とは反対の結果が生じている。

もっとも、19年10-12月については消費増税に伴う反動減の影響が想定されるから、その点も考慮に入れる必要があるだろう。そこで、軽減税率が適用されるため増税の影響を受けにくい食料品についてみると、全国スーパー売上高については18年が前年比0.8%減、19年が0.9%減、百貨店売上高については18年が前年比0.1%減、19年が2.2%減となっている。より包括的に消費全体の動きをとらえることのできる消費活動指数(日本銀行)でみても、同様に19年のほうが18年よりも減少幅が大きくなっている。

これらのデータから示唆されるのは、暖冬が消費に影響を与えることがあるとしても、それは冬物衣料など一部の範囲にとどまり、消費全体の動きは気象の状況以外の要因から大きな影響を受ける可能性があるということだ。暖冬だとコートの売り上げは減るがアイスクリームや炭酸飲料など他の商品の売り上げが増えるといった形で商品間の支出の振り替えが生じるということを踏まえれば、これはむしろ自然な話であろう。

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