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「自分は怠け者だと思ってます。働くの嫌いですし」ある49歳ひきこもり男性の本音 『中高年ひきこもり』(扶桑社新書)より - 藤田 孝典

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「中高年ひきこもり」が増えている。2018年度の内閣府調査では、40歳から64歳までの中高年ひきこもりは61.3万人が存在するという推計値がはじき出された。15~64歳までのひきこもりの全国推計の数は115万人なので、半数以上が「中高年ひきこもり」であることがわかる。

 今回は藤田孝典氏の著書『中高年ひきこもり』(扶桑社新書)から、まさしくその当事者の一人である、49歳・男性・大川良雄さんのインタビューを一部転載する。

 ◆◆◆

大川良雄さん(仮名・49歳・男性)の場合

【家族構成】
父(70代後半)、母(70代後半)、妹(年齢不明)

【ひきこもりのきっかけ】
新卒で就職後、半年で離職

【ひきこもり期間】

20代半ばから。現在「断続的ひきこもり」ともいえる状態

【現在の様子】

・ひとり暮らし
・ひ老会(ひきこもりと老いを考える会)に参加している

ひきこもりのきっかけ

「大学を卒業後に就職したのはファストフードの会社で、店長候補としての入社でした。

 でも、半年足らずで退職してしまい、なんとなく公務員を目指して公務員受験の専門学校に入りました。ただ、身が入らず、当然合格もできず、20代半ばになると専門学校にも行かなくなり、表向きは『公務員浪人』とは言ってましたが、何もせず親と同居する家でごろごろしてました。こんな状態が30歳くらいまで続きました。

 この時期、28歳くらいのとき、3か月だけアルバイトをしたことがあります。近所の総合病院で、給食の盛り付けや洗いものなど、簡単な仕事をしてました」

 大川さんの話からは、店長候補ということもあって、希望や期待を抱きながら社会人生活を始めた様子が窺える。しかし、想定していた職場や労働環境ではなく、およそ半年後に、離職を経験する。筆者も大学教員なので、多くの大学生を企業に送り出している立場だが、1年以内に離職を経験する卒業生は珍しくない。

 なぜ新卒学生が大量に1~3年で離職をしていくのか。これについては、今野晴貴著『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』(文春新書・2012年)を参照してほしい。初めから大量採用し、大量離職させる人事システムを採っている企業の存在を豊富な事例から検証している。つまり、大川さんのケースもそうだが、本人の問題ではなく、企業システムの犠牲者であるということだ。

 社会に出て最初の大きな挫折を経験した人が自信を喪失したり、他者を信頼できなくなったり、夢や希望に空虚さを感じてしまうようになっても不思議ではないだろう。

 近年は、働き方改革や労働環境の整備と簡単にいうが、人間の尊厳を奪ったり、人間を大事にしない環境や労働形態こそ、今すぐに撲滅すべきである。これらのいわゆるブラック企業は中高年ひきこもり要因になるだけでなく、大川さんのような有意な人材をつぶしてしまうことで、社会的損失にもなっている。

「いつまでも何やってんだ!」


©iStock.com

「親は、私が『公務員浪人』中と信じていたので、『なんで、何度も受からないの?』『勉強はちゃんとしてるんでしょ?』と、たまに聞いてくるくらいでした。ところが、“浪人”が長くなると、だんだん不審に思ったのでしょうね。本当に勉強しているか、確認するようになりました。ただ、今振り返ってみると、実のところ、親がどう思っていたのかわからない。まったく勉強していない事実を信じたくないのか? 人がよくて信じていたのか? いまだに本当のところはわかりません。

 親との関係は、表立って悪いということはなかったけれど、特に父親は、口には出さないまでも『いつまでも何やってんだ!』『公務員になりたいのはいいが、なんで受からないんだ!』『ちゃんと勉強しているのか?』という感じで、かなりイラついているのは感じました。激しい衝突はなかったけれど、勉強しているかをチェックするため、ときどき私の部屋に来たりしていましたね。

 父親は私が物心ついたころから、『とにかく一流大学に入って、一流企業に入る』というコースを歩ませたかったので、子どもにかなり介入する親でした」

ニートには見られたくなかった

 大川さんは親からの支配や過大な期待があり、そして一方的な価値観による押し付けがある。

 だからこそ、大川さんも仕事を辞めた後、何かをしていなければならず、生計者としての父親の顔色を窺いながら暮らしていた。理想的な仕事を求めて頑張っている姿を見せようとしていたのだ。

 社会的な圧力も機能しているのだろう。ニートという用語を皆さんはどのように受け止めるだろうか。インタビューを通じて何人もの当事者が「ニートにはなりたくなかった」「ニートと見られたくなかった」と答えている。社会はニートを無気力で自堕落な生活をしている者のように捉えているのかもしれない。

 日本では「15~34歳までの非労働力人口のうち通学・家事を行っていない者を指しており『若年無業者』と呼称される」(厚生労働省)。

 何かをしていなければ非難され、社会通念や社会常識とも反する立場だ。そのなかで生きる手段として機能したのが、大川さんの場合は建前としての「公務員志望」だった。

30歳でひとり暮らし

「ひとり暮らしを始めたのは、30歳くらいのとき。理由は、親が自分を見る目がいやで、耐えきれなくなったからでした。それで、親に『ひとり暮らしをさせてくれ』と頼んだのです。ただ、お金がそれほどあるわけじゃないので、家賃や生活費は自分の貯金の取り崩しと、親からの仕送りで賄っていました。親の援助を受けていたときは、経済的にそれほど困ることはなかった。

 むしろ精神的につらかったのは、『このままじゃいけない』と考えているのに、何もできていない自分がいて、どうしたらいいんだろうと自問自答を繰り返すことです。いろいろ試してはいるんですけど、なかなか答えは見つからない」

 大川さんは関係が良好ではない親から離れて、ひとり暮らしを選択することにした。しかし現実には、低所得状態にあるひきこもり当事者がひとり暮らしをするのは困難だ。ひとり暮らしは初期費用だけでなく、家具・家電製品をそろえたり、毎月家賃の支払いに追われてくる。

 低所得の若者やひきこもり当事者が、ひとり暮らしを妨げられていることを立証した調査(ビッグイシュー基金『市民が考える!若者の住宅問題&空き家活用』『若者の住宅問題』―住宅政策提案書[調査編]―・2013年)がある。この調査によれば、親と同居する理由の約半数を占めるのは、「家賃が負担できないから」であった。さらに、賃金や収入が低く、家賃を払いたくても払えない若者は、親に依存しなければ生きていけないという状況が見えてくる。だからこそ、低所得であればあるほど、親と同居している。

 当然だが、ひきこもり状態にあれば、仕事ができないので、経済的なサポートを誰かから受けなくてはならない。一番支援を受けやすいのは親であろう。

 しかし、親元を離れても親の経済力に依存しなければ生活ができないのであれば、親の支配から抜け出せない。親の影響力は当然大きいものとなり、大川さんのような自問自答を招くことになる。

 日本では若者やひきこもり当事者への公的な住宅支援がほぼ皆無である。公営住宅は乏しく、広範な家賃補助制度もない。結局、家族が住宅費負担をすることになり、家族が負担できなければ、耐えがたい同居が続くということになる。

ひきこもり中の生活サイクル

「親と同居の実家でひきこもっていたころは、昼夜が逆転して、深夜の3、4時に寝て、起きるのは昼すぎという生活でした。

 ひとり暮らしになってしばらくは、何もせずにひきこもっていました。だから、外出は、近所のコンビニやスーパーで買い物するときくらいです。

 当時は、『早くこの状態から抜け出さなきゃ』『社会復帰できなくなる』という不安や焦りはありませんでした。なぜか、公務員試験に受かるんじゃないか、と思っていたんです。まだ受験資格のある年齢だったからかもしれませんが。公務員にも職種がいろいろあって、探してみると、まだ受けられるものもあったんです」

 大川さんだけではなく、ひきこもり当事者に昼夜逆転、深夜まで起きているという人は多い。自問自答を繰り返したり、毎日何かを考えていたり、休むことができない環境にあると捉えるべきだろう。

 何かに取り組むにも生活習慣の乱れは効率を低下させるだけでなく、健康悪化を招く。ひきこもり当事者が日々何かを考えて、悩み苦しむ環境から解放できるような手立てが必要だろう。

 ひきこもり当事者はのんびりしている、深夜まで自堕落な生活をしている、というのではなく、悩みや不安を紛らわせるために起きていたり、寝付けないという声も多く聞いている。

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